第55話 この世界&我が家の食糧事情

【この世界の食事事情】


 この世界の食事事情をご紹介しよう。

 なお、この世界の食材は前世とは微妙に違う。

 似たものを前世にあてはめていることを、あらかじめ申し上げておく。


 まず、主食。

 小麦パンが最高とされる。

 それも、全粒パンではなく、精製された小麦パンだ。

 次が全粒パンである。

 精製パンよりも若干舌触りがザラリとしている。

 両方とも、主に上流階級が食べる。


 その次の階級の人たちは、ライ麦パン。

 黒パンである。

 固くて酸っぱくほんのりと苦味のあるパンであるが、

 これを食べ慣れている人は黒パンが最高だという。


 ただ、パンを食べられる人はそこそこ収入のある人だ。

 貧民になると、オーツ麦などの雑穀のお粥とか、

 じゃがいものふかしたものが主食となる。



 肉は高価であるから、富裕層以外めったに食べられない。

 豚と鶏が主流で、その他はさらに高級品となる。

 牛とか或いは鹿などのジビエだ。


 以前は塩漬けされた干し肉しかなかった。

 半分腐っており、臭くて塩っぱくて大変不味い。

 それでも、肉はありがたがって食べられていた。


 今は燻製で、しかも臭みがあまり出ない前に食されるのが普通だ。

 もしくは、数日寝かせただけの肉を食べる。

 それでも臭いのだが。


 流石に、新鮮な肉は食べない。

 固くて味がさっぱりしすぎるからだ。

 鳥肉だと1日、大型の獣だと1週間以上は寝かす。

 


 この肉食が肌荒れの原因の一つとなっている。

 腐りかけだったり、脂分を過食するためだ。


 もうひとつは化粧のせいである。

 この世界の化粧には

 水銀や鉛といった有毒な成分が含まれていることが多い。


 だから、富裕層ほど肌が荒れるとも言われている。

 ついでにいうと、富裕層ほど肥満が多い。

 肥満=金持ち、という式が成り立ち、

 肥満に関してはさほどとやかく言われない。



 他のタンパク質は。

 水牛のミルクや鶏卵。

 高価ではあるが、肉ほどではない。

 

 それから、沿岸部や川・湖のそばなら魚。

 魚は腐りやすいため内陸部ではほとんど食べられない。



 野菜に関しては、主な野菜はたいてい市場で見られる。

 ただ、前世ほどの質の高い野菜ではない。

 皮の固いものが多い。

 味は個性が強い。

 前世の野菜のような角のとれた味のするものはない。


 香辛料はそこそこ。

 高価なものが多い。


 砂糖も一般的に出回っているが、

 これも高価であるため、日常的に使用されるものではない。


 油も高価だ。

 動物脂はもとより、植物油も。

 植物油はオリーブ・オイルが主流である。


 果物も、そこそこ種類がある。

 ぶどう、りんご、オレンジはさほど高価というほどではない。

 他には◯ベリーと呼ばれるものもよく見かける。

 ただ、甘みよりも酸っぱさの目立つ果物が多い。



【我が家の食卓改善】


 バジルさんに魔石肥料・飼料を紹介したのが5月。

 そろそろ施肥農産物で収穫を迎えるものが出揃ってきた。


 施肥に関してはまだ十分ではないが、

 それでも例年に比べて味がよくなっているという。


 バジルさんから我が家の食卓に回ってきている農産物は、

 小麦、オーツ麦、じゃがいも、鶏卵、ミルク、ひまわり油

 といったところだ。


 すでにマヨネーズは本格的に生産に乗り出している。

 俺は簡単な料理として、オーツ麦とじゃがいもを使うことにした。


「なんだと、じゃがいもをくし切りにして油で揚げる?」


「へへへ、シンプルだけど、塩つけて食べてみなよ」


「おー!」


 父ちゃんの叫びでワラワラと母ちゃん・マノンも

 台所に集まってきた。


「その声はなにか美味しいものができた印ね。これ?」


 母ちゃんたちは目ざとい。


「なにこれ。ホコホコしててとっても美味しい!」


「これ、じゃがいも?油で揚げただけ?それでこんなに美味しくなるわけ?」


 この世界でじゃがいもといえば、茹でたフカシ芋か、

 スープの具材として入れるのみ。


「まだあるぜ」


 次は、ポテトサラダ。

 ふかしたじゃがいもをマヨネーズであえただけ。


「はあ、マヨネーズとじゃがいもってすっごく相性がいいのね」


「ああ、私、手が止まらない!」


「まだまだ」

 

 次は千切りじゃがいものガレット。


「バター風味なのがいいわね」


「ふかし芋だって、バターかけただけでご馳走になるもんね」


「こうなると、立派なディナーね」



 じゃがいもはこのくらいにして、次は。


「それ、オートミール?何かけてるの?」


「オイルと砂糖さ」


「えー、変すぎる」


 日本人だとご飯に砂糖をまぶす人はあまりいないと思う。

 この世界の人も同じ感覚で、

 パンやオーツに砂糖を混ぜるなどという発想がない。


「これをオーブンで焼くんだ。ちょっとまってな」


 で、20分ほど経ってから、熱をとり、


「じゃあ、これにミルクかけて食べてみなよ」


「砂糖ミルク粥みたいなもの?なんだか、風邪のときのご飯みたい……と思ったら、これ予想外に美味しすぎる!」


「ほんとね!」


「ジョエル、なんでそんなにアイデアが出てくるんだ?シンプルなのに、バカ旨い料理ばかりだ」


 ごめん。前世の人気料理ばかりなんだ。


 ◇


「今日は大満足だな。ジョエルの考案した料理、簡単だから早速オレも試してみるよ」


「バジルさんの食材が美味しいこともあるよ」


「あとさ、油をたっぷり使えるのもいいよね」


 油は高価で一般庶民はなかなか手を出せない。

 まあ、うちは庶民だが、かなり裕福ではある。


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