第54話 いろいろ寮においてもらう2

【いろいろ寮においてもらう2】


 そこで、密かに動いた人がいる。

 1年E組の担任だ。


 カカシなんじゃないか、と俺は思っていたが、

 実は案外やる男だった。


 彼は派閥でいえば、中間派。

 まあ、政争に興味がない。

 いや、うっとうしいと感じている。


 そんな彼は学長派だったのだ。


 この学園の教職員は守旧派が圧倒的に多い。

 そんな中で学長は中間派を保ってきていた。

 彼女がそんな態度でいられたのも、彼女の出自、エルフが関係していた。


 ラ・シエル街は元々冒険者の作った街。

 当然、反守旧派の街である。


 しかし、学究の都なれど、学園の教職員は元々守旧派が多い上に、

 守旧派の札束攻勢に落とされ続けてきたのだ。

 欲深くなくても、研究には資金が必要なことが多い。


 それを憂いたのがラ・シエル街の市議会。

 国でいう政府機関である。


 彼らの送り込んだ切り札がエルフ出身の学長であった。

 少なくとも守旧派ではない、という理由で。


 彼女は学園で目立たないが、

 素晴らしいバランス感覚をもって学園を運営している。


 一つには彼女の深い知見があるわけだが

 もうひとつは在職期間の長さだ。


 エルフだけあって、長命であり、

 50年以上もこの職につくアカデミーの長老なのである。



 その学長の子飼いの職員が1年E組担当のロックである。

 彼はこれらの製品の政治問題化に最初から気づいていた。


 生徒会選挙に関係する可能性があり、

 そして、事態を動かそうとしているのはどうみても冒険者関係。

 そこに風雲の嵐を予見しているのであった。


 ロックは目立つことなく、その風雲をかき混ぜるつもりである。

 彼のとった行動は、1年A組の担任の汚職事件摘発であった。


 ロック以外、すべての担任が寮関連の袖の下を受け取っていた。

 それは公然の事実化しており、

 それに対して学生が何も言わないのであれば、

 ロックには出番はないと思っていた。


 しかし、ここにきて学生から声が上がってきた。

 ここが抑えどころだ。


 ロックは確実な証拠をもって、A組の担任を告発した。

 表に出る話ではなかった。

 A組担任はクラス担任を辞任をした。


 しかし、なぜかすぐに実情が広まった。

 A組担任はキックバックをもらっていたと。


 怒ったA組の学生の何人かは、アスタシアの提案に乗っかった。

 表向きは抗議の意味を込めて。


 もともと、彼らは彼女の提案に乗り気だったのである。

 だが、親の関係上、賛成できなかったのだ。

 その時に湧いた担任の汚職事件。

 これ幸いとアスタシアの提案に乗っかったのだ。

 結局僅差でA組にも化粧品等が導入されたのである。



【3年A組の動向】


 この騒ぎを知って、生徒会長が俺たちに接近。

 実は1年E組に弟がいる。

 生徒会長は自由派だ。


 彼は自分のクラス、3年A組にもマヨネーズ等を導入しようと、

 ツテをたどり、業者と交渉した。


 そして、リクエスト制度を使い、早々と導入に成功した。

 A組生徒の多くからは生徒会長最大の貢献とされた。



【その他のクラス。おもに、守旧派の強いクラス】


「ねえ、どうしよう」


「ほんと、どうしよう」


「正直言って、寮に導入してもらいたい」


「私も」


「でも、お父様が……」


 悩んでいるものの多くは1E、1A、3A以外のクラスの女子だ。

 自分の欲求と親の人間関係・ポジションの間で揺れている。


「たかが、髪の毛だけで、なんでこんなに腹が立つの!」


「少しぐらい香りがいいって、それぐらいのこと!」


 彼女たちは毎日負けた気分でいるのだ。


 1E、1A、3Aの女子たち。

 花の香りを仄かに周囲に振りまきながら、

 サラサラしっとりの髪を風に靡かせ、颯爽と歩く。


 腹の立つことに、彼女たちはニキビ跡もそばかすも

 きれいさっぱりなくなっている。

 肌のきれいなことがあんなにも美しさを際立たせるとは。


 女性として根本から叩きのめされるような屈辱に

 毎日わなわなと震えている。


「お父様には私の気持ちなどさっぱりご理解いただけないのだわ!」


「こんなに娘が悩み抜いているというのに……ほんの少しお父様に相談しただけで、烈火の如く叱られたのよ」


「冒険者ギルドでも販売してるっていうけれど。すぐに完売で、商品が本当にあるのかさえ、疑わしいぐらいなのに。でも、冒険者ギルドに頼れるかって、うちのお父様も不機嫌なのよ。いつもはとってもお優しいのに」



 そうこうしているうちに、そういう葛藤の無いクラス、

 つまり、反守旧派陣営を推薦することの決定しているクラス、

 早々と契約に邁進していた。


 あとは、予約順に契約の履行を待つのみ。

 ただ、数に限りがあるので増産待ちという段階だ。


 つまり、迷っているクラスは契約しても、

 おそらく年度中の契約履行は厳しいだろう。


「ああ。ずっとこの屈辱を味わうってわけ?」


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