後期

第53話 いろいろ寮においてもらう1

【いろいろ寮においてもらう1】


 マヨネーズ、スキンケア製品、石鹸、オイルリンスの話題は

 世間的にも注目を集めることなったが、

 学園では特に1年A組とE組に広まった。


 実際に使用している学生がクラスにいるからだ。


「どこで売ってるの?」


「冒険者ギルドって話よ」


「なんで、冒険者ギルドなのよ。方向性が全然違うじゃない!」


 まあ、そうだろうな。

 魔物を討伐するような殺伐としたギルドなんだ。

 美を追求するものとの組み合わせはチグハグだろう。



「全然、手に入らないのよ!」


 お試し販売ということもあるが、もともと数を出せる商品じゃない。

 大量生産には向いていないのだ。


「どうにかして!」


 俺は彼女たちに試供品を配ったことがある。

 まあ、1回分だ。

 そのことでますます彼女たちの購買欲に火をつけたみたいだ。


 まあ、ある程度この展開は読めてた。

 というか、当然そうなるだろう。

 少し思うところあって、寮販売にチャレンジしてみた。



 寮の食堂にしても販売にしても、クラス別になっている。

 寮食堂のクラス別独立採算制が取られているのだ。


 自主独立だとか、競争原理だとか、昔、大規模な汚職があったとか、

 理由は色々あるらしい。


 とにかく、そういう状況は俺には好ましかった。

 俺たちの製品を学園に持ち込んだらどうなるのか。


 ◇


「これが君の推す商品なんですか」


 そういうのは、このクラスの担任、ロック先生だ。

 名前はロックだが、なんだがボンヤリした人で、

 大丈夫か、と心配している。


「石鹸とオイルリンス、それからスキンケア製品ですか。冒険者ギルドで新発売されたものですね。確か、製造はアンリ薬局でしたか」


 あれ、意外とアンテナ感度が高いぞ、この人。


「私は最終決定権者ですが、私はサインをするだけです。この商品を採用するかどうかは、多数決で決めます」


 ほう。

 先生が言うには、リクエスト制度というのがあるらしい。


 リクエスト制度とは、

 食事がまずかったり、新製品を置きたい場合、

 調理師あるいは納入業者に対して

 学生側は調理師の変更あるいは

 納入業者の変更、追加を要求できる制度だ。



 マヨネーズらはすんなり決まった。

 ただ、数は限定的だ。


 マヨネーズは十分な量を供給できそうだが、

 石鹸の簡易版とオイルリンスは、一人当たり、月1本ずつ。


 ただし、スキンケアは供給がまるで追いつかない。

 大量生産できる製品じゃないのだ。

 価格はどうしても高額になる。

 だから、販売は一人1本のみ。

 それで終わり。


 そのことを告げる前に、

 ブーイングをあげた学生は鋭くチェックし、

 販売しない、と言い渡してある。

 もう、みごとな程にみんな調教されている。


 ただ、みんな知っている。

 これが製造はアンリ薬局、販売は冒険者ギルドであることを。


 少なくとも守旧派の関連じゃない。

 王国の人たちはこのことに結構敏感だ。


 特に守旧派の親がうるさい。

 派閥がどうであろうと使えばいいのに、おかしなこだわりがある。


「大丈夫かしら、この商品使ってるとこお父様に見つかったら叱られてしまうわ」


 というような反応を示すのは、幸運なことにE組にはいなかった。

 それはA組で起きたのである。


 ◇


「私達のクラスもE組にならって、リクエスト制度を使ってみたいんだけど……果たして、どのくらい賛成がえられるかしら」


 A組はロレーヌたち三人以外、全員が守旧派である。

 当然、三人とは距離をおいているし、

 彼らの持ち込んだ非守旧派の作った製品を使う人がいるのだろうか。


 すでにアスタシアとロレーヌは髪をしっとりサラサラさせて、

 髪をなびかせて学内を闊歩している。


 美貌的に勝てるとは思っていない。

 でも、せめて髪の毛だけでも同等でありたい。


「腹がたつのは、E組というカス組の女学生も、髪の毛をサラサラしっとりさせて喜んでいる。実に浅ましい」


 ああいうのは、本来私達がうけるべき享受であって、

 彼女たちは地面にへばりつくべきなのだ。

 と彼女たちは真剣に考えている。


 A組は30人。

 守旧派のうち、12人は男子で美容製品には興味がない。

 女子のうち7人は密かに賛成票を入れようと決めている。

 結局、彼女たちには政治的なことはうっとうしいだけなのだ。


 では、ローレルたちを除く残りの8人は。


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