第48話 液体石鹸&オイルリンス1

【液体石鹸&オイルリンス1】


「あとさ、石鹸とかシャンプーとか」


 俺は前世日本の記憶が濃いせいか、

 この世界の石鹸には不満を持っていた。


 石鹸はあるが、ヌルヌルした液体石鹸。

 しかも、油臭く、使用したあとの感触が悪い。


 液体石鹸というのは前世地球でも古来より使われていた。

 灰汁に油を混ぜると石鹸になるからだ。


 前日の焼肉の焚き火あとに雨がふり灰汁となり、

 そこに焼肉の脂が混ざる。

 朝起きてみると石鹸になっていた。

 なんだか、よくありそうなシチュエーションだ。


 灰汁は簡単にできる。

 草木の燃えかすに水を入れて一晩おくだけだから。

 それをろ過したものが灰汁だ。


 ただ、これでは殆ど石鹸は作れない。

 灰汁のアルカリパワーが不足するからだ。

 

 アルカリパワーを強化するためには、まず灰汁を煮詰める。

 アルカリ成分(炭酸カリウム)を濃くするためだ。

 この工程が大変だ。


 次に用意するのは、貝殻の粉末。

 これを加熱し、水を加える。


 加熱貝殻水溶液と灰汁を混ぜる。

 こうすると、アルカリ度がより強化される。

 (水酸化カリウムが得られる)


 この強化アルカリと油を混ぜて加熱すると液体石鹸が得られる。



 ただ、この世界では低質の液体石鹸でも高価だ。

 油が高価なのだ。

 動物性だろうと植物性だろうと。


 この世界でオイルと言えば、オリーブオイル。

 石鹸とはかなり相性のいいオイルだ。

 試しに石鹸を作ってみると、難しくない。


 で、俺は一歩進めて、ポンプの手押し石鹸を

 作ってみることにした。


 ポンプの原理はこの世界でも知られているし、

 魔導具師のガリエルさんには

 手押し石鹸の構造も簡単に理解してもらえた。


 泡状にするためには、ポンプの途中に網状のものを

 かませればいい。

 たくさんの細かなシャボン玉が作られるイメージだ。

 そうして、水でゆるめた液体洗剤で試してみる。



「おう、ふわふわじゃないか。これは面白い石鹸だな。いかにも高級って感じがするぞ」


「ガリエルさん、どうせならデザイナーにおしゃれな容器をつくってもらいましょうよ」


「よっしゃ。まかせろ」


 ドワーフの職人は工業製品のプロばかりだ。

 もちろん、デザインで食っている人もいる。


 ◇


「どうかしらぁ、こんなので」


 おお、機能に見合ったシャープな現代的なデザインだ。


「こりゃ、高く売れそうだな」


 みんなニンマリニッコリだ。

 会心の作品である。


「ていうかぁ、私が使いたい」


「まあ、待て。ジョエル、売るんだろ?」


「いや、そこまで考えてないんだけど」


「あら、こんな素晴らしいのを独り占めする気?だめよぉ」


 ちなみに、デザイナーのドワーフ、ピエールさんは

 いわゆる多様性の人だ。

 生物的な分類は男性である。


「じゃあ、そうしよっか」


「おお。まずは契約書だな」


 ドワーフぐらい契約にうるさい人種はいないし、

 とにかく契約好きだ。

 ドワーフ弁護士もたくさんいる。


「あのさ、販売はまかすよ。自分たちの分だけ分けてもらえればそれでいい」


「あらぁ、欲がないのね。いいわぁ。私にまかせて。事業計画立ててくる。最終確認で3人で承認もらったら、GOでいいかしらぁ?」


 液体石鹸を商売ベースに乗せるには人手が必要だ。

 ちゃんとした事業計画が必要になる。


「問題なし」


「いや、まだだよ」


「え?まだなにか?」


「香りがない」


「香り?」


「花の香りをつけるんだよ。石鹸に」


「まあ!」



 前世で石鹸の香り、というと高感度ナンバー1と言ってもいいくらい、

 多くの人にイメージされる香りがある。


 しかし、石鹸の香りというのはあれは香料の香りだ。

 香料なしの石鹸の匂いは、ラードとかサラダオイルとかのものだ。

 控えめに言ってもいい香りじゃない。


 だが、やっぱり俺的にはいい香りのしない石鹸を石鹸とは言わない。

 この世界でも精油は古くから知られている。

 が、採取方法が非常にめんどくさい。

 そのうえ、ほんのちょっぴりしか採れない。


 俺は前世の精油採取方法を漠然と知っている。

 花とかを集めてみじん切りにし、

 ぶどう絞り器のようなもので精油の元となる液体を絞り出す。

 精油の元を熱して蒸発させ、蒸留した気体を集めて冷やす。

 すると、油性精油と水性精油に分離する。



「ほお。そんなアイデアがあるのか。さすが、アカデミー首席卒業だな」


「アカデミーの首席卒業?すっごいエリートじゃない」


 父ちゃんがホウボウで思いついたデマを垂れ流すもんだから、

 真に受けたり冗談で言ったりする人が増えている。

 訂正するのもめんどくさくなっている。


「とにかく、やってみようじゃないか」


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