第49話 液体石鹸&オイルリンス2
【液体石鹸&オイルリンス2】
精油が蒸留器からこぼれてくるのに一週間しかかからなかった。
蒸留器のアイデアは単純だからだ。
意匠をするのにそれだけかかったと言ってもいい。
「これが精油なのね。本当に簡単に作れるのね」
「でもさ、山のように花とかを摘んできて、精油はこれっぽちなんだ」
今回はラベンダー。
季節的にもっとも目立つ花の一つだ。
精油は花と葉から取れる。
ただ、大人が両手で抱えるような量のラベンダーから、
コーヒーカップの半分の半分ぐらいしか精油が取れない。
しかも、1日かけた成果がこれだけなのだ。
それでも、旧来の伝統的採取方法よりも数段たくさんの精油がとれる。
「まあ、量を作るのは大変ね。でも、いい香り」
「これを、石鹸に混ぜ込む。この石鹸で手を洗ってみてよ」
「素晴らしいわあ!手を洗うのが楽しくなるわね!」
「精油は様々な植物から取れるから、香りを楽しむ人には石鹸の香りが邪魔に思う人も出てくるかもしれない。だから、無香料石けんも作っておこうか」
「あなたって、若いのに、随分と繊細で趣味がいいのね。精油も単独で発売するってことね」
「そうだね。これで完成だ。計画はまかせるよ」
石鹸にせよ、精油にせよ、かなりの労力が必要とされる。
事業化は主にピエールさんが取り仕切ってもらえることになった。
会社名はJPG会社とする。
ジョエル、ピエール、ガリエルの頭文字を取ったものである。
この会社が数世紀後には世界的な大企業になるのであった。
◇
「ジョエルちゃん、またもや大ヒットね!」
「ほんと、最近のお兄ちゃん、すっごく冴えてるわ!」
手押しポンプ石鹸は母ちゃんとマノンに大好評だ。
ついでに、精油香水も。
ピエールは精油から香水を調香して売り出したのだ。
「これって、最近大評判になってるのよね?」
ロレーヌがうちにやってきて話に参入してきた。
「売り切ればかりでものが手に入らないのよ」
「ああ、おれ特別なツテがあるから。いくつでもいいよ。ただし、話を広めるなよ」
「えええ、ジョエル、イケメン!」
ふっ、ちょろ子ばかりだぜ。
結局、アスタシアとジルにも強奪された。
◇
「でもさ、これで頭洗うとゴワゴワなんだよな」
「そんなもんじゃないの?」
「待ってろよ。魔法の溶液を見せてやる」
俺はオリーブオイルにレモン果汁を入れて持ってきた。
「これ、頭にふりかけてみなよ」
「こう?えっ、髪の毛がサラサラになった!」
「あ、私も!」
「しかも、髪の毛がツヤツヤ!」
「これ、なんて魔法なの?私にも教えて!」
「いや、これオリーブオイルにレモン果汁いれただけだよ」
「それだけ?それだけでこんなふうに?」
「ジョエルちゃん、なんでいろいろアイデアが湧いてくるの?」
「古代書に載ってた」
前世だと結構知られた知識なんだけど。
まあ、前世の知識も古代書みたいなもんか。
◇
このスキンケアとサラサラしっとりヘアの組み合わせは、
石鹸以上に多くの人の注目を集めた。
何しろ、歩くとサラサラと揺れるしっとり髪は遠目にも映える。
通り過ぎると、仄かに花の香りが。
それが街でも名うての美人の髪の毛なのだ。
宣伝効果が半端ない。
「どうしよう。ほしいって人が多くて」
「だめ。無理。まだ製品化の目処もたっていないのに。だからいったでしょ、いっちゃ駄目だって」
「「だってえ」」
なんだか、最近同じような応答をしたような。
みんな揃ってハモられても駄目なものは駄目。
まあ、販売を楽しみにして、というしかない。
それにしても、特に母ちゃんの効果が高い。
若く見えるといっても、アラフォーだからな。
それでも、30歳ぐらいには見えるのが、
化粧を使ったことで20代前半に見えるようになった。
「この前、マノンと初めてのお店入ったら、美人ご姉妹ですねだって!」
母ちゃんが嬉しそうに話す。
いや、ちゃんと姉妹に見えるよ、俺にも。
「クリスばっかり若返って、まるでオレが二人の親父みたいじゃないか。だから、オレも使ってみた。どう?」
ああ、たしかに若返ったような気がする。
日焼けの肌が白くなめらかになったような。
でも、醸し出す雰囲気がオヤジなんだよな。
「アレクさんって若い頃から老け顔だったのよね」
母ちゃんの一言で父ちゃんは撃沈した。
あと、アスタシア。
スキンケアよりも髪がサラサラしっとりとなって、
もうこの世のものに見えない。
ほら、前世でヘアケア製品のCM。
髪の毛サラサラ~ってやつ。
まさしく、あれ。
女神v2降臨。
俺はついつい手を合わせて拝んでしまった。
ロレーヌから強烈な肘打ちをくらった。
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