第47話 スキンケア&美白製品

【スキンケア&美白製品】


「女の人ってさ、ニキビとかソバカスとか多いよね」


 それがきっかけだった。

 肌のキレイな人もいる。

 母ちゃんやマノン、ロレーヌ、アスタシア、ジルの5人である。

 しかし、彼女たちは稀な例だ。

 たいていは肌に問題を抱えている。


「なんででしょ?」


 俺の前世の乏しい知識では、まず食事。

 それから化粧品。


「肉が駄目かも。それとさ、母ちゃんってあんまり化粧使わないよね」


「そう言えば、私、お肉好きじゃないわ。それに化粧品合わないのよね。塗ると炎症を起こしたりすることもあるのよ」


「私もお肉駄目なことが多い。臭い匂いがだめなの。化粧は大好きなんだけど」


 マノンはそういうが、化粧なんてめったにしない。


「マノンみたいに、臭い肉を嫌う人、多いよね」


 実は俺も臭い肉は好きじゃない。

 これは家族全員同じだ。

 当家は捌いたばかりの鶏肉と新鮮な魚しか使わない。

 多少、寝かしたりする程度だ。


 干し肉や塩漬けの肉は家では全く食べたことがない。


「干し肉とか塩漬け肉は臭いもそうなんだけど、冒険者時代に嫌っていうほど食べたから、もう見るのも嫌なのよ」



 うーむ。

 肉はともかく、化粧品はどうにかなるかもしれない。

 俺は男だからよくわからんが、基礎化粧品というものがある。


 肌を整える化粧品らしい。

 じゃあ、魔石回復薬を化粧品にしてしまえばいいのでは。

 

 俺はそのアイデアを話すと、

 母ちゃんはダッシュで俺を薬師のアンリさんのもとに拉致した。



「魔石回復薬を化粧品にですか。難しくないと思いますよ」


 アンリさんに言わせると、王国の化粧品には

 怪しい物質がいろいろ混ざっているらしい。


 特に、水銀とか鉛とか。

 アンリさん的にはもってのほかだし、

 俺の前世の知識でもその2つがよくないのはわかる。


 水銀なんて有名な公害病を生んだくらいだし、

 鉛も鉛毒として広く知られている。

 ※水俣病は有機水銀。化粧品に入っているのは無機水銀。


「やってみましょう。大きな効果が期待できそうですね」


 アンリさんが推すのは、

  果物の梨

  カモミールの花

  マッシュルーム

 といった植物のエキスだ。

 伝統的に美白に効果あるとみられており、

 アンリさんたちの研究でも効果が認められている。

 それに副作用がない。



 ただ、大量に採取する方法がない。


 俺は考えた。

 まず、エキスの元はぶどう絞り器のようなもので

 単純に押しつぶして採取する。


 そして、遠心分離機を使ったらどうかと。

 仕組みは簡単なものだ。

 目の非常に細かいザルのようなものを、

 超高速で回転させて水をろ過したり、

 密度によって物体をさらに細かく分離したりするものだ。


 これをアンリさんに説明すると大興奮して、


「そんな物質分離方法があるのか!すぐガリエルんとこへ向かうぞ!」


 構造はシンプルだが、

 軸受とか容器の大きさとか精密性と頑丈さを要求される。


 それでも、構造がわかればガリエルさんには問題なかったようで、

 1週間も経たずに試作品ができた。


「おお、すごい!ちゃんと細かく分離している!」


 実験の立会には薬師のエクトルさんも参加した。


「これって薬師には歴史的な器具だぞ」


「まったくだ。ジョエル、どうする?」


「どうするって?ああ。別に所有権とかそういうのいらないよ」


 だいたい、前世の世界では200年ぐらい前からあるものだし。


「いや、そういうわけにはいくまい」


 で、案の定、契約書だ。


 ◇


「これが美白化粧品?」


「ええ。しかもお肌のケアもします。私も使ってみました」


「ああ、そういえばアンリさんの肌、ニキビあとがいくつかあったけど、一つもないわね」


「ええ。会心の作ですよ。美白効果は長期使用で効果がでますが、スキンケア効果は一晩で出ます」


「わかったわ!まず、私が長期実験者よ!」


 母ちゃんは製品をぶんどるとスキップしそうな勢いで

 家に帰って自室に閉じこもった。



「どうかしら?」


 どうかしら、と言われても。

 母ちゃんの肌、別にきたなくないし。

 もともと肌きれいだし。


「クリス、ものすごく肌が綺麗になったぞ。絹みたいじゃないか。なんだかすごく若返ったみたいだ」


「ああ、やっぱり?」


「お母さん、お父さんの言う通りよ!私にもそれ使わせて!ニキビに困ってるの!」


 うーむ。

 俺は今ひとつ観察眼にかけてるみたいだ。


 もちろん、すぐに関係者に広まった。

 極力話を広めるなと言ってあるんだが、目ざとい人が多い。

 別に魔法契約書で口を閉ざされているわけではないから、

 ついついこぼしてしまう。


「どうしよう。私もほしいって人が多くて」


「だめ。無理。まだ製品化の目処もたっていないのに。だからいったでしょ、いっちゃ駄目だって」


「「だってえ」」


 二人揃ってハモられても駄目なものは駄目。

 まあ、販売を楽しみにして、というしかない。


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