夏休み~

第44話 アスタシアを守れ!

【アスタシアを守れ!】


 夏休みになった。

 このあたりは昼間の気温は30度以上になる。

 しかし、前世日本に比べると雨が少なく、カラッとしている。

 また、内陸部にあるせいか昼夜の気温差がわりと大きく、

 夜明け前だと半袖ではちょっと厳しいし、厚めの布団が欲しくなる。


 さて、アスタシアはレベリングのために帰省せずに寮に残った。

 なるべく一人になるのを避けていたのだが、

 ある日の夕方、寮に一人で戻るところを五人組に襲われた。


 黒尽くめの服装、

 5人ともゴーグルをしている。


 ロレーヌを襲った賊と同一系統の奴らだ。

 目潰し溶液対策をしてきた。


 アスタシアは、とっさに護身用の火魔法魔導具を使用。

 賊が驚いている間に、なんとかその場から離脱。



 アカデミーでは緊急職員会議が招集された。

 学内で日中に学生が襲われたのだ。

 しかも、その学生が首席入学者となれば話が大きくなる。


 夏休みということで警戒が緩くなったところを突かれたのだろう。

 結界強度を最高ランクにあげることになった。

 守衛も通常通り4人体制に戻すことにした。



 アスタシアとジルはロレーヌの家で寝泊まりすることになった。

 ロレーヌの家には父ちゃんの提供した結界魔導具がある。

 隣には父ちゃんたちもいるしな。


 夏休み中だから学園寮は不安で寝泊まりできない。

 帰省は危なすぎて断念することとなった。


 もっとも、アスタシアは夏休みは帰省する気がなかったらしい。

 田舎が遠いことと、

 アスタシアのダンジョンレベルの少なさゆえに

 夏休みに少しでも挽回したいらしい。

 さすが女神は心構えが違う。



 時々はマノンも泊まりに行っている。

 同学年ぐらいの女性同士でガールズトークが面白いんだと。

 耳年増になりそうで怖いんだが。


 両親も度々マノンがお世話になるので、

 差し入れがてら、隣家に挨拶をしにいく。


 隣家両親はいずれもラ・シエル街の省庁職員だ。

 彼らによると、

 最近は街の雰囲気が少しずつ悪くなっているという。

 そういう治安情報が上がってきているのだ。

 


 ライリーは実家がラ・シエル街にある。


 さすがに名のある元冒険者の名家を襲うバカはいないだろう。

 ただ、外出時はボディガードをつけている。


 ◇


「こりゃ、いよいよ自衛レベルをあげなきゃいかんな」


「本当に。アレクさんたちのご忠告に従っていて助かりました。私、攻撃魔法の魔導具がなかったらどうなってたか」


「全員、ダンジョンレベル最低でも20を目指そう」


「20ですか」


「夏休みでおまえたちは暇だからな。オレたちは週1程度で関わるが、いいだろ?」


「6人でチーム組むから。問題ないでしょ」


「ムリはしないし、とっておきの回復薬あるしね」


「その回復薬さ、最近話題のじゃない?」


「ダンジョンの奥に落ちてるってやつだよね」


「噂じゃ、1億の値段がついているらしいよ」


「それなの?」


「まさか。そんなの簡単に見つけられないし、見つけても使えないよ」


「だよね。でも、ジョエルんとこの回復薬ってすごくよく効くんだよね」


「父ちゃんコネクションにはね、優秀な薬師とかがいるから。おまえらにも1つずつ渡しておくよ。ただ、非売品で薬師ギルドの許可もらっていないから、他言無用。これは絶対だよ!」


「ああ、だいたい魔法契約書で拘束されているから、漏らすことはないけど」


 ◇


「さて、ジョエルとマノンはレベルが18。おまえらは15。階数は、11階どまりだったよな」


「ああ、そこでレベリングしてた」


「よし、じゃあいっきに15階まで行っとこうか」


「え、アレクさん、大丈夫かしら」


「レベル15なら、11階ではもうレベル上がらんだろ」


「はい」


「13階までは同じような強さの敵が続く。つまりもうレベルが上がらない」


「ええ、そんな」


「で、14階。ここは砂漠なんだが、サンドワームというミミズの化け物が出る。これが強敵でいきなりレベルが2ランクぐらいあがる」


「初見殺しみたいなものですか」


「うーん、単純に強いんだ。もちろん、初見もレベル差で戸惑うんだが、対策をたててもやっぱり強い」


「はあ」


「だからね、この階は大急ぎで通り過ぎる。奴は地中にいる。移動速度はそれほど速くない。待ち伏せ型の魔物だから」


「おお」


「でね、15階。シャドーストーカーって魔物が出る。ボス扱いで、この敵こそが初見殺しなんだよ」


「ほお」


「奴は影や暗闇に潜む。で、寝ているところを影から急襲する」


「確かに、初見殺しだ」


「対策は簡単。この階層には昼と夜がある。昼、明るいときに自分の影を凝視する。すると、違和感に気づく」


「違和感ですか?」


「注意してれば、すぐに気づくよ。何かがそこにいるってね。で、そしたら、そこに強い光源をあてる」


「影を消すわけですね」


「そうだ。すると、魔物が影から飛び出てくる。奴は影の外では激弱だ」


「一撃ですか」


「攻撃はなんだっていいんだ。武器でも魔法でもね。なんなら、殴ってもいい。ゴブリンより弱い」


「影に隠れてないと駄目な魔物なんですね」


「ただ、1体じゃない。20体いる」


「ちょっと持久戦になりますか」


「だとしても、団体で行けば数分かせいぜい10分ほどで捕捉できるよ」


「倒し方さえ分かればボーナスステージっぽいですね」


「ああ。そして、この倒し方ははあまり人に知られていないんだ」


「なぜですか?」


「なぜだか、ここの倒し方は秘密に、という暗黙の了解があるんだよね。君たちは魔法契約書をとりかわしているから俺も伝承するけど、そうじゃなければ黙っているはずだ。多分、そういう魔法みたいなものがフロアにかかっている」


「なるほど。だから、余計に初見殺しなんだね」


「うん。それにね、一度倒すと、もう出てこない」


「じゃあ、私達だけでやんなくちゃいけないわけですか」


「そうだ。オレたちがいると出てこないからな。だから俺たちは離れたところにいる。心配するなよ。対策を知っていればゴブリンより弱いんだから」


「ですか。そうと分かれば、ダッシュで15階ですね!」


「その前に、各自強力魔導照明を買いに行こう」


 こうして、15階の魔物を刈り取り、

 15階の討伐証明書をゲットするのだった。


 ◇


 15階には転移魔法陣があり、

 討伐に関係なく下に降りる階段が現れている。

 安心して16階に行ける。


 16階からは2チームに分ける。

 俺と母ちゃん、ロレーヌ、ジル。

 父ちゃん、マノン、アスタシア、ライリー。

 バランスを考え、こういう編成になった。


 俺的にはアスタシアとチームを組めなくて残念だが。


 16階からはしばらくオーソドックスな敵が続く。

 基本的な敵の倒し方を続けて行けばいいので、

 しっかりと実力を高められる。


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