第43話 ところであのいじめっ子たち

【ところであのいじめっ子たち】


「ジル、あのいじめっ子たちどうしてるんだ?ずっと欠席してるんだが」


「ずっと寮に引きこもってるみたいよ。うちって放任主義だから、いちいち先生方も見に行かないし」


「なんだか、目覚めが悪いな。ちょっとカツ入れてくる」


「え?」



 まずはいじめっ子Aの部屋の前。

 扉のノブを回す。

 鍵がかかっている。


「ガギ」


 ノブをねじ切ってしまった。


「バギャッ」


 仕方ないので、扉を蹴り破った。

 あとで事務局に魔石を渡して謝っておこう。


「おい」


「ヒィィィ」


 いじめっ子Aはベッドの上で枕を抱きしめ

 怯えた様子でこちらを見ていた。


「なんで授業に出てこない?」


「ヒィィィ」


 こいつら、「ヒィィィ」しか言わねーな。


「仕方ない。これ、飲め」


 俺は特製オレンジ・ジュースの瓶を渡す。

 冒険者ギルドのより、効果が高い。


「ヒィィィ」


「飲め」


「コクコク」


 やっと飲みやがった。

 青白かった奴の顔に紅がさしてくる。


「少しは落ち着いたか?」


「コク」


「あのな、授業を休む気持ちはわかる。だが、どうして寮に引きこもっている?退学しないのか?」


「……親が怖い……」


「おまえさ、そうやってずっと誰かの影に隠れたままやってくつもりなんか?」


「お前に何がわかる」


「おまえ、仮にもアカデミーに受かったんだぞ?世間的にはエリートじゃないか」


「どうせ、しがない騎士の三男だ。将来がない」


「それがわからん。おまえは将来、守旧派の傘から外れるのは決定している。庶民になるんだろ?」


「……」


「庶民なら庶民で生きていく道がある。A組のロレーヌな。ご両親はただの庶民だ。しかし、ラ・シエルで立派なキャリアを積み上げている。今はトップクラスの官僚だ」


「……」


「狭い世界に閉じこもっていないで、自分を開放して少し周りを見たらどうだ。まあ、俺は説教垂れるようなご身分じゃないけどな」


「……」


「俺も決して世間が広いわけじゃない。しかし、お前らを見ているとどうも歯がゆくてな」


「……」


「明日は必ず授業に出てこい。そしたら、またジュースを飲ましてやる。他の二人も俺は今から向かうから三人で相談しろ。いいか。決して学園を辞めるな。もったいなさすぎる。少しはエリートの自覚を持てよ」


「……」


「あと、これ扉の弁償代」


 Cクラスの魔石3個を置いておいた。


「十分、足りると思うが、不足したら請求してくれ」

 


 そして、後の二人、いじめっ子BとCにも同じことを繰り返した。

 ああ、それから引きこもりのモルガンにもね。


 翌日、奴らはちゃんと授業に出てきた。

 授業が進んでいる分、落ちこぼれているが、

 ジルにフォローを頼んでおいた。

 ジュースと一緒に。


 あまり関心があるわけではないが、

 その後も奴らはちゃんと真面目に授業に出てきている。


 ああ、モルガンは残念ながら出席していないようだ。

 打たれ弱いやつだな。

 もっとも、全く同情できない。

 チートを授からなければ、俺はもっと悲惨な事態になっていたはずだ。



「やつら、どうだ?」


「しばらく補習をみてあげたわ。まあ、この学園に合格するぐらいだから、あの程度の遅れはすぐに取り戻せたわよ」


「ふーん。無茶言ったりしないか?」


「以前の傲慢さは影を潜めたわね。彼ら、親が騎士階級なんでしょ?その子供って限りなく平民に近いわよね。ようやく彼らも分をわきまえたのかしら」


「ダンジョンのほうは?」


「それなりにレベルが高くって、私とどっこいって感じ。あっちの方は自分たちで地道にやってくって言ってた」


「毒気が抜かれたみたいだな。だいたい、この学園にやってくる連中は優等生が多いんだ。それを捻じ曲げる大人がいるからややこしくなる」


「大人?」


「ああ。守旧派にありがちらしいんだが、奴らの命令システム知ってるか?」


「なんとなく」


「例えば貴族だと、寄り親寄り子とか貴族同士でヒエラルキーが確立している。そして、上のものが下のものに一方的に無茶な命令をすることがある。それに一家全員が巻き込まれる」


「なるほど」


「でな、その関係で陰湿ないじめのようなものも行われる。その中で育ったものは段々と性格に歪みができる」


「彼らもねじれていたってこと?」


「だろうな」


「まっすぐになるかしら」


「うーん、なんとも。奴らの卒業後は平民となって貴族の関係から離れていくが、そうならない場合もある」


「平民になっても?」


「ああ。親の関係がずっとつきまとうことも珍しくないらしい。というか、つきまとうのが普通なんだと」


「詳しいのね」


「父ちゃんがそう言ってた」


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