第40話 奴らは狂信者?2
【奴らは狂信者?2】
「この話、利権絡みっていうか、守旧派の焦りから出てきていると思うの。守旧派がジリ貧だから。私達の心配が過剰すぎるのなら、それでいいけど、どうしても嫌な予感がぬぐえないの」
守旧派というのは、王族、古くからの貴族や大地主、教会。
昔からの権力者だ。
それに対して最近勢力を増してきているのが通称自由派だ。
主に、冒険者が成果を上げて叙勲した新貴族、
あるいは蓄えた資金で新たな大地主となったものを指す。
彼らと馴染みの商人たちも含まれる。
守旧派は文字通り保守的で権威とか伝統を重んじる。
それに対して、冒険者がまさしく成り上がりものだ。
両者が交わるわけがない。
守旧派の頭を痛めているのは、
このところの自由派が目に見えて拡大しているからだ。
その象徴が現生徒会長。
冒険者上がりの新貴族の息子である。
新貴族、つまり自由派が生徒会長になったのは
長いアカデミーの歴史でも初めてであった。
そして、今回の生徒会長選挙でも
2・3年の勢力図では自由派が強い。
そこで2・3年に比べれば色のついていない1年に
激しい多数派工作をしかけているのだが。
そこに冷静な判断がなされているようには見えない。
王国はかなり脳筋の人々が多いが、それでも常軌を逸しすぎている。
「わかりました。では、お言葉に甘えて。後日、代金をお支払いしますから」
「ああ、不要になったら武具を返してくれればいいよ。魔石や金よりもそっちのほうがずっと助かるから」
「ですか。では本当にお言葉に甘えて」
「ああ、そうだ。息子がいろいろ面白いスキルを持っていてね。その一つを分けてあげよう。ジョエル。あれ」
父ちゃんが胸のあたりをポンポンする。
「あれ?ああ、マジックバッグね。みんな、俺たち、マジックバッグスキルを持っているんだ」
「マジックバッグって、ダンジョンのインベントリ的な?」
「そう。ダンジョンの外でも使えるやつ。スキルだから、魔導具じゃない。ほら、この通り」
俺は、胸あたりの中空から回復薬の瓶を取り出す。
「えー、凄すぎない?」
「いや、ズボンのポケットよりはマシと言う程度。そんなに容量はないよ。人によるけれど、まあ、セカンドバッグの少し大きめサイズかな?でも、落とさないし、何よりも秘密にしておける。自分以外にバレない」
「ああ、そこに武器とかいれておくわけね」
「うん。今から買いに行くから」
◇
4人にスキルを覚えてもらって、
シャルルさんの店に向かう。
そこで、結界魔導具、防御魔導具、護身用の攻性魔導具、
通信魔導具、そして運用するための当面の魔石を彼らに渡した。
「本当にありがとうございます」
「いや、オレも過剰かもしれないとは思っている。でも、今回だけはオレの言うことを黙って聞いておいてくれ」
「ロレーヌ襲撃事件のときに俺が使用した不審者撃退用溶液。これ、ゴーグルと一緒に渡しておくよ」
「これ、まともに目にかかると失明する。飛沫がかかっても目が痛くてあけられないから」
「気をつけて使うようにね」
◇
女神アスタシオたちに武具は渡した。
だが、それだけでは十分じゃない。
魔導具は全般的にコンパクト化が難しい。
魔導具に魔法陣を刻み込む必要があるからだ。
それに、攻性魔導具の場合、
攻性魔法発射時の勢いに耐えるだけのボディが必要となる。
前世の拳銃や突撃銃程度の大きさだと、
対象に致命傷を与える程度の威力をもたせられない。
テーザー銃とかショックガン程度の威力が限界だ。
軍用の攻性魔導具は最低でもバズーカ砲クラスの大きさとなる。
逆にいえば、町中で攻性魔導具を所持するのは難しい。
非常に目立つからだ。
マジックバッグはせいぜい突撃銃程度の大きさしか隠せない。
女神たちに渡した武具は拳銃クラスの大きさだ。
威力はショックガン程度、まさしく護身用である。
強力な武器を所持できない。
ショックガン程度では護身用の結界を破れない。
どうすべきか。
俺たちは彼らのレベリングのピッチを上げた。
少なくとも、ダンジョン内では十分な対策になりうる。
ダンジョン外においても体力強化につながるはずだ。
「君たちのレベリングを手伝ってきたんだが、ちょっと方向を変える」
「方向を変える?」
「ああ。パワー・レベリングっていうのは簡単にレベルが上っていくんだが、その分中身が薄くなりがちだ」
「実力がついていないってことですね?」
「そうだ。貴族の子弟にありがちなやり方は、強いやつの後をついていって、そのおこぼれを頂戴するってやつだ。付焼刃だな」
「うーん、耳が痛いけど、確かにその通り」
「だが、それでも今回のクラス対抗戦には問題ないんだ。見せかけでも力はあるからな。単純に、レベルが高ければあの手は得点が取りやすい」
「なるほど」
「しかし、本当の敵を相手にするには問題がありすぎる。だから、本物の実力をつける、ということに主眼をおく」
「ジルちゃんは心配しなくていいのよ。私とマノンが別メニューでレベリングしていくから」
「ああ、よかった!私だけレベルが低すぎる気がしてました」
「残りのものは、オレが先頭に立つ。11階以上の魔物について、パーティ・ソロを問わず、自分たちで撃破できる実力をつけていこう」
「おお」
結局、ジルはレベル13まで上げることができた。
残りのA組の3人はレベルは上がらなかったが、
一つ一つ丁寧に撃破することを求められ、
レベルに見合った実力を付けていった。
当初はいじめっ子を退治すればいい、ぐらいだったのに、
話が大きくなってきた。
なんにしても、俺たちは王国の闇に取り込まれかけている。
ジリジリとした焦燥感に苛まされている。
いかに対抗していくのか。
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