第37話 ロレーヌ視点

【ロレーヌ視点】


 私は頑張った甲斐あってアカデミー迷宮学園に合格した。

 信じられないことに、3番だった。


 この学園は能力順にAからEと振り分けられる。

 私はA組だ。

 トップクラスとなる。


 入学テストの首席はキレイなアスタシオ。

 2番はかっこいいライリー。

 この二人とはすぐに仲良くなった。


 でもクラスの残りはいわゆる守旧派貴族ばかりで、

 私達に対する目がよそよそしい。


 というのは、アスタシオは田舎から出てきた子だし、

 私の両親も平民。

 ライリーは貴族だけど、いわゆる新貴族。

 お祖父ちゃんが冒険者で活躍して叙勲された。


 こういう貴族に対して昔からのいわゆる守旧派貴族は

 よく思っていない。

 だから、両者は対立している。



 ただ、自分で言うのもなんだけれど、

 三人のルックスが高い。


 他所のクラスでは私達のことを見に来る人たちもいる。

 アイドル的人気というやつ。


 だから、余計にクラスでは3人は浮いている。



 授業に関しては、

 座学は順調だ。

 実技も問題ない。


 でも、ダンジョン・レベルに関しては驚いた。

 A組のダンジョン・レベルは平均すると12前後。

 最高で15。

 私は5だった。


 A組最低で焦る。

 上流階級はレベリングに熱心だとは聞いていた。

 でも、これほどとは。


 私だって、決まりのなかで真面目にレベリングしてたつもり。

 でも、彼らはそういう決まりを超えてやってたようだ。


 だから、アレクさんに頼みにいった。

 レベリングを。



 そしたら、アレクさんたちに言われた。

 遠慮するなと。

 私はアレクさんたちの家族の一員だって。


 泣けた。

 ずっと気を張ってきたから。


 アカデミーのことだけじゃない。

 この世界って信じられるものが少ない。

 私の両親以外だと、お隣のアレクさん一家だけ。


 教会もそう。

 私のこと、聖女候補だっておだてるけど、すっごく迷惑。


 私の意思なんかすっ飛ばして、

 単に神聖魔法の発現者だってことで接近してきた。

 で、強制的につきまとっている。


 それにいろいろ役にたたない。

 あのボディガードだって、襲撃事件のときにあっさり気絶してたし。


 がっかりしたわ。

 結局、守ってくれたのはジョエルだった。


 周りでキレイだとかはしゃいでいる男の子たちもそう。

 私の表面しか見てない。

 じゃあ、私の顔に深いキズができたらどうなるかしら。

 一体、何人の人が残るだろうか。


 ジョエルはきっと残ってくれるだろう。

 彼は私の表面を見てない。

 というか、私を女として見てない。

 それはそれで悲しい面もあるんだけど。



 レベリングは順調すぎるぐらいだった。

 あっという間に13になった。

 こんな簡単でいいのかしら?

 さすがは元B級冒険者だけある。


 そういえば、私の両親が言ってた。

 アレクさんたちはA級冒険者間違い無しの期待のホープで、

 若いこともあって当時は街のアイドルだったって。

 特にクリスおばさんは大変な人気で、

 今でもその人気の片鱗を保っているらしい。



 その後は私も頑張ってレベルを15にあげた。

 これで、レベル的にはジョエルと遜色ないレベルにまできた。

 ジョエルのレベルは19だ。


 でも、明らかにジョエルのほうが強い。

 強いってもんじゃない。

 圧倒的に強い。


 ちょっと見た感じだけど、アレクさんに少し及ばない感じ?

 レベル30に近い感じがする。

 なんで?


 で、あの事件が起きた。

 私を襲った事件。


 彼らはとても強くて、

 私のボディガードは結界で保護されているにも関わらず、

 あっという間に倒された。


 でも、そこに立ちふさがったのがジョエル。

 私にゴーグルを渡して、


「ゴーグルをつけろ、目をつぶってろ!」


 そう言い渡すと、ジョエルは彼らに何かの液体をぶちまけた。


 私はあたふたしていてゴーグルをつけようとしていたら、

 液体の飛沫がこちらに漂ってきた。


「痛い!」


 目に激痛が走った。

 とても目を開けていられない。


 あとで聞いたら、

 なんでもエンジェル・リーパー、

 天使の死神という名前を持つ危険な唐辛子なんだって。


 直接種ごと食べると“死ぬ”とすら言われている唐辛子。

 直接皮膚で触ると火傷したり、目に入ると失明するそうだ。

 それを薄めた液体だって言うんだけど。


 わかる。

 ほんのちょっとした飛沫だけでもあれだけ痛いのだ。

 まともに目にくらったらどうなるか。



 すると、液体が私にかけられた。

 すぐに痛みが消え、目が開くようになった。


「目を閉じて、うずくまってろ!」


 目を開けると、きっとあの飛沫が私の目を襲うだろう。

 だって、皮膚がチクチクしている。


 直接液体をかけられたあの人、どうなったんだろう。

 のたうち回っているのがチラリと視界に入ったのだけれど。


 私はとにかく怖くてギュッと目を閉じてうずくまっていた。

 その時、どうなっていたのかはわからない。

 ものすごい戦闘音がしていたのはわかる。


 でも、すぐに警報音が鳴り響いた。

 人工魔素フィールド魔導具を検知したのだ。


 すぐに警邏隊がかけつけてきた。

 敵は液体をかけられた人をかついで慌てて逃げたという。


 賊は人工魔素フィールドを起動していた。

 人工魔素フィールドはダンジョン環境を

 ダンジョンの外で実現する魔導具。


 使用するには許可がいる。

 許可なしで使用すれば、厳しい罰則が待っている。

 最悪、処刑になる。


 ダンジョン環境下におかれる、ということは、

 ダンジョン・レベルをダンジョンの外でも実現できるということ。


 超人的な能力になる。

 レベルの高い人ならば、100m走を数秒、

 ジャンプ力は5m以上、握力は200kg以上という

 とんでもない能力を発揮する。

 その上で、魔法をバンバン使用するのだ。


 その賊とジョエルが戦えていた。

 液体の助けはあったにしても、そんなこと可能なの?


 しかも相手は三人。

 私の護衛を簡単に排除した人たち。

 しかも、私たちは結界で保護されていた。

 彼らはそれをものともしない攻撃力を持っていたということ。


 そんな相手でもジョエルは相手にできたのだ。


 確かに彼はダンジョンでは強い。

 多分、1年では一番強いと思う。


 でも、ダンジョン外で見せた彼の強さは?

 中3までは私のほうがダンジョンの外でも中でも

 強かったのに。

 ジョエルの強さはそんなレベルを遥かに越えている。


 今まで、強さを隠してきたってこと?

 急にジョエルが謎の人物になってきた。


 その反面、襲撃事件で私はジョエルを見直した。

 ちょっと格好良かった。


 でも、ときめきとは違うわね。

 ジョエルは一緒にいると安心できる。

 幼馴染で兄弟姉妹のように育ってきたからかしら。



 彼にはここでのできごとは黙ってろって言われたけど。

 もちろん、しゃべっちゃいないわ。


 彼との信頼関係もあるし、そもそも信じてもらえそうもない。

 いや、信じたら信じたで騒動が起こりそうだ。


 だから、全ては彼の用意した溶液のお陰、ということにした。

 


 この件で私は家に帰るのを控えるようになった。

 だから、護衛はいない。

 土日も寮で生活するからだ。


 教会からはあれこれ言われたけど、

 護衛の失態もあって、私は自分の意志を押し通した。


 家の結界も解いてもらった。

 もっとも、その代わりにアレクさんたちが

 結界魔導具を設置してくれた。


 新品を買ったから、今まで使ってたのを貸してくれるという。

 結界魔導具は高価だから、両親も喜んで使っている。

 省エネタイプで魔石使用量もそれほどではない。



 今でもジョエルは私の荷物持ち、ということになっている。

 もう、私の送り迎えはしないんだけど。


 でも、周囲の雰囲気は以前とはちょっと違ってる。

 やっかみで言ってるようなのだ。

 ちょっと周りが彼を見直した感じがする。


 だって、私の実力はA組のみんなが知っている。

 素の体力はずば抜けたものじゃない。

 あっさり倒されたボディガードを上回るはずがない。


 あの溶液のお陰もあるけど、

 私を守り抜いたのはジョエルだってことを

 みんながうすうす知りつつある。


 彼は、目立ちたくないって言うんだけど。


 そんな中、次の事件がおきた。


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