動く学園生活

第36話 ロレーヌ襲撃事件

【ロレーヌ襲撃事件】


 6月に入った。

 日本なら梅雨の季節だ。


 しかし、王国には梅雨がない。

 台風もなく、夏もさほど雨がふらない。

 気温は高くても、カラッとしているので過ごしやすい。

 35度を越えるような気温でも、木陰に入るとかなり涼しいのだ。


 これが日本だと30度くらいでも不快な時がある。

 蒸し暑いのだ。


 学園校庭の立派な花壇、5月から今が花の最盛期だそうだ。

 ベルサイユ宮殿のような立派な校舎に、

 面前に広がるシンメトリーで広大な花壇。

 公園だったら、すぐに観光名所になって混雑するだろう。



 さて、ロレーヌも女神アスタシアもそしておまけのライリーも

 レベリングは順調に行っている。


 俺も彼らにつきあいつつ、自分のレベルもどんどん上げてる。


「父ちゃん、レベル19になったよ」


「おお、良かったな。でも、おまえのレベルはわかりにくいからな」


「そうよ。もう、敏捷性はアレクさんよりも高いわよね」


「だな。マロンも敏捷性はすごいが、家族ではジョエルが一番高いな」


「身体強化が数字よりも2ランク上になるのが効いてるね」



 魔素フィールドスキルのお陰で、

 身体強化スキルのレベルがプラス2になる。


 ダンジョンレベル19になったことで、

 身体強化レベルもレベル6になった。

 本来ならば、基礎ステータスを約5倍近く上昇させる。


 ところが俺の場合はレベル2プラスされるから、

 身体強化レベルはレベル8になるのだ。

 上昇倍率は8倍以上になる。


 この数字はダンジョンレベル34に等しい。

 通常のレベルアップに伴うステータス上昇分があり、一概に言えないが、

 すでにレベル30程度のステータスになっているといえるだろう。



「俺は拳だからな。敏捷性が命だしね。力はあまり必要ない。むしろ、体の使い方で拳を出すタイプだから」


 俺の言っていることはわかりにくいかもしれない。

 俺のパワーは敏捷性とタイミング、そして筋肉ではなく、

 むしろ骨の使い方でパワーを出していく。


 よく言われるのは肩甲骨の使い方だ。

 ここを柔軟にしてパワーを出す。


 だが、肩甲骨も大事だが、

 その肩甲骨を動かすために背骨や肋骨、

 そして腰骨などの適切な使い方が大切なのだ。



「お前の言っていることはなんだか達人っぽくなってきたな。俺の盾の使い方と通底する部分があるぞ」


「ああ、今度技術交流してみようか。盾と拳、共通点が結構ありそうだ」


「うむ。俺も若くはないが、拳で新たな世界を見つけるかもな」


 実際、父ちゃんと拳を交えることで

 お互いに盾と拳技術が高まることになる。


 昔の達人たちもよく言う。

 一芸は百芸に通ずって。

 あれ、俺にもわかりかけている。


 ◇


 さて、本日は月曜日。

 ロレーヌと一緒に登校だ。

 ボディガードがいるから、当たり障りのない会話に終始する。


 するといきなり3人の黒尽くめが現れた。


「だまって、その女学生を渡してもらおう」


 ボディガードはプロだ。

 何も返答せずに、3人の男たちに切りかかった。


 黒尽くめも会話などせずに、

 いきなりボディガードを倒せばいいのに。


 俺は悠長にそう考えていたわけじゃない。

 それは後で彼らの素人くささをあげつらっただけ。


 

 しかし、その後の彼らの行動は素人ではなかった。

 あっという間に、ボディガードを叩きのめしたのだ。


 俺の見立てでは、ボディガードたちは女性としては最上位、

 男と退治しても並みの男では太刀打ちできないような

 格闘技技術をもっていそうだ。

 

 それは体捌きや漏れてくる強者のオーラから、

 そう感じるからだ。


 しかも、俺たちは結界魔導具で保護されている。

 確かに護身用の結界魔導具は魔導具の小ささゆえに

 十全な機能をもっていない。

 それでも、通常の暴徒程度には有効なはずだ。


 その彼女たちが何もできずに一方的に倒されてしまった。



「ロレーヌ、このゴーグルはめて目を閉じて!」


 俺はマジックバッグからゴーグルと溶液の入った小瓶を取り出した。

 ゴーグルの一つはロレーヌにわたし、そう指示する。


 そして、俺はロレーヌの前に立ちながら、

 ゴーグルをはめつつ、小瓶の中身を彼らにぶっかけた。


 その溶液は。

 エンジェル・リーパー、

 天使の死神という名前を持つ危険な唐辛子エキスを薄めたもの。


 直接種ごと食べると“死ぬ”とすら言われている唐辛子だ。

 直接皮膚で触ると火傷したり、目に入ると失明する。

 かなり薄めた溶液だが、

 それでも目に入ると目に問題を起こすだろう。


 実際、俺の肌がチクチクする。

 飛沫が空中に舞っているからだ。

 これがゴーグル無しだと、目を開けていられないだろう。

 

 直接中身をぶつけた男?が目を押さえて地面でのたうち回っている。

 他の奴らも目を押さえて痛そうだ。


 ロレーヌも目を押さえてうずくまっている。

 ゴーグルをはめきれなかったようだ。

 雫がかかったんだろう。

 俺はロレーヌに回復薬をぶっかける。


 俺は、奴らに攻撃を加えた。

 一人をぶっ飛ばすが、ものすごい抵抗に驚く。

 防御力が半端ないのだ。


 あとでわかったのだが、奴らは人工魔素フィールド魔導具を

 起動させていた。


 だから、超人的な体力を誇るようになる。


「ピーポーピーポー」


 突然、警報音が鳴り響いた。

 この街には人工魔素フィールドの検知魔導具が張り巡らされている。

 その一つが奴らを捉えたのだ。

 突然、と言ったが、3人組が現れてから警報音が鳴るまで

 数秒程度しかたっていない。


「おい、退却だ」


 一人が地面にうずくまる男を担ぎ上げ、

 さっさと退却していった。



「ロレーヌ、大丈夫か」


 目を押さえてうずくまっているロレーヌに、俺は再び回復薬をふりかけた。


「ああ、ジョエル、どうなったの?」


「逃げてったよ」


 直後に警邏隊がワラワラと到着。

 俺たちは事情聴取を受けたあと、ようやく開放された。


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