第35話 あるD級パーティの1日

【あるD級パーティの1日】


「ふう、ようやく今日も終わりか」


 俺たちはD級パーティ、サウス・ウィンド。

 いつも南風が吹いてくるような緩~い活動がしたくてこの名前にした。


 しかし、現実は本当に厳しい。

 朝の9時ごろにダンジョン1階から5階に転移。

 5階と6階がオレたちの主戦場だ。

 5階に転移魔法陣があるから、ここで稼ぐ奴らは非常に多い。


 転移魔法陣は5階ごとに設置されている。

 一度使うと、ずっと使えるようになる。

 もちろん、1階からこのフロアへも直で来られる。


 活動は午前と午後の2回に分けるのが普通だ。

 昼飯をダンジョンの外で食べる。

 ダンジョンを出ると、飯屋と備品店が並んでいる。


 ダンジョンの外に出るには、

 入り口にあるダンジョン管理所にいかなくてはならない。


 ここはダンジョン入退を管理している。

 それと、獲得した魔石をここでチェックしてもらう。



「はい、ご苦労さま。魔石をこのボックスに入れてください」


 午後の部が終了した俺たちは、

 管理所でもう何度繰り返したかわからないやり取りを窓口の職員とする。


 魔石は機械でチェックする。

 受け皿に魔石をザラザラ入れると、一つずつ機械の中に吸い込まれていく。


 そして、すぐに出口の受け皿に魔石が吐き出されていく。

 魔石には大きさ・密度が刻印される。


 これだけで基本価格、つまり公的な売却価格がわかる。

 そして、D級上位以上の魔石はここで売る必要がある。

 これは非常に重要で、隠したりすると重罪に問われる。

 最悪、死刑だ。


 ゴブリン程度の魔石は持ち帰って良い。

 まあ、通常は冒険者ギルドに売るんだが。


 小さい魔石は管理が煩雑になるのと、

 民間の魔石流通も保護する必要があるからだ。

 というのは建前で、魔石利権をめぐって

 魔石管理省庁と冒険者ギルドの綱引きの結果だ。



「こちらが結果になります」


 機械から吐き出された魔石情報をもとに、魔石引換証を発行してくれる。

 ダンジョン管理所が引き取った魔石の一覧表と、

 引取金額が載っている。


 これをお役所や街の通貨引換所で金貨や銀貨などといった

 通貨と交換してもらう。


 交換時には、通貨を金属比重魔導具で価値を示す。

 金貨・銀貨・銅貨を鋳造するのはいろいろな機関がやっている。

 しかも、同じ鋳造所だとしても、比重が同じだとは限らない。

 通貨ごとに価値を判断する必要がある。


 この金属比重魔導具は、広く使われている。

 少なくとも、お金のやりとりをする場所では絶対に必要だし、

 家庭でも備え付けている人が多い。


 なお、魔石引換証はそのままお店で紙幣の代わりにつかってもいい。



 一応、公的な交換レートが決まっている。

 1万sならば王国大銀貨1枚とか。

 王国通貨は金属の比重を一定にしている。

 このことは通貨安定のために非常に重要である。


 話がややこしくなるのは、民間の交換所だ。

 ここの交換レートは市場に左右される。


 大きな変動はないが、それでも20%前後のブレがある。

 

 さらに闇の交換所もある。

 主に犯罪者が使う交換所だ。


 足元を見られているため、市場価格の1割とかになる。


 あるいは、金銀等の価値が高い場合に、

 倍以上の交換レートになる場合もある。


 違法であるため、見つかれば店も客も御用となる。

 ただ、袖の下を当局に渡していることが多いため、

 お目溢しされているケースが多い。


 経済を回すためには多少の違反は見逃したほうがいい、

 という判断もある。

 歪をどこかで吸収する必要があるからだ。

 一概に当局が悪代官とは言えないのだ。


 結局、魔石を通貨として使う人が多い。

 魔石は確実だからだ。

 通貨は補助扱いだ。

 店側も通貨だと嫌そうな顔をすることがある。

 物々交換も庶民間では根強く残っている。



「まあまあか」


 本日は午前の部と合わせて

 ゴブリン     39体 18000s

 ホブゴブリン級  10体 10000s

 ゴブリンキング級  6体 30000s

 合計で5万8千s


 となった。

 ダンジョン管理所が引き受けたのは、ゴブリンキング級だ。


 残りは冒険者ギルドで売るか、自分で使用することになる。

 自分で使用する場合には届け出がいる。

 俺はいつも同じフロアにある冒険者ギルド出張所ですべて売ってしまう。



 これをパーティメンバー4人で按分する。

 一人14500s。

 俺はこうして月30万sほど稼ぐ。


 ここから宿代・食費・武具代・薬代などを払うと、10万sほど残る。

 半分は遊びに使い、半分は貯金だ。

 いつまでも続けられる職業じゃないからな。


 俺は独身だからまだいい。

 妻帯者は大変だ。


「いつもぎりぎりさ。今のうちに貯金を忘れるなよ」


 これはパーティの最年長メンバーの言葉だ。

 最年長とはいうものの、俺の2個上、小学校の先輩だ。


 若い頃から一緒にパーティを組んでいるが、

 彼は2年前に幼馴染と結婚した。

 子供も一人いる。

 親元で生活して、ギリギリだという。

 事故や病気があれば明日をもしれぬ毎日となる。



 俺たちはまだ20代前半だ。

 しかし、30歳ぐらいになればレベルの上がらない限り

 体力が続かなくなる。

 そのぐらい、ダンジョン活動は厳しい。


 レベルを上げれば体力が増えるから延命できる。

 しかし、強い敵を倒さないとレベルは上がっていかない。

 それもまた大変なんだ。


 そもそも命のやり取りをしているから、生存率が低い。

 冒険者が30歳になるとお祝いをしてもらえるぐらいだ。


 俺だって、いつ死ぬかわからない。



 冒険者になりたての頃は夢ばかり見ていた。

 トップ冒険者。

 A級の看板をしょった奴ら。

 年収が軽く億を超えてくる。

 10億sを越えるのもいる。


 そこまででなくても、

 B級クラスだと頑張れば5千万s

 C級で1千万s以上だ。


 ところが、C級とD級の間に大きな壁がある。

 俺のようなD級は、なんとか暮らして行けるという収入しか得られない。


 これがEとかFとかになると、これ一本では暮らしていけない。

 アルバイトしたほうがまだマシ、になる。


 でも、そのアルバイトがなかなか見つからない。

 だから、冒険者でもやろうか、あるいは冒険者しかできない、という

 『でもしか』冒険者となる。


 そして、95%以上の冒険者はDクラス以下なのだ。



 冒険者生活、ぼんやりとだが終わりが見えてきている。

 冒険者を引退したらどうしよう。

 親類を頼って農業をするか。


 ならず者だけにはなりたくない。


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