第31話 ロレーヌの相談事1

【ロレーヌの相談事1】


「転移魔法陣さ、父ちゃん、使うだろ?」


「ああ、ジョエルのスキルに頼ることになるがな。ちょっと魔石使用量が半端なさすぎる」


「ダンジョンとの往復は今のところ、俺とマノンのためだし」


「じゃあ、さっそくダンジョンに設置してみるか」


「ガリエルんとこで隠蔽の魔導具買ってこよう」


 ◇


「魔法陣をこの9階に設置するのね?」


「うん。9階は人気のない場所だからな」


「転移魔法陣なんて、それこそ夢見たいね」


「ダンジョン内にはあるけどな」


「私達の家からダンジョンまでひとっ飛びなんでしょ?」


「うむ。それを今から実験してみる」


 俺たちはゾンビ・モンスターハウスの裏手にある山陰に

 転移魔法陣を設置して、隠蔽魔法をかけた。

 1週間はこれで大丈夫だ。


 心配なのは、ダンジョンに吸収されてしまうのではないか、

 ということだったが、問題ないようだ。

 


「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」


 父ちゃんは転移魔法陣にたって、魔法陣を起動させた。

 光り輝き、父ちゃんは姿を消した。


 そして、直後に再び光輝き、父ちゃんが姿を現した。


「よし、成功だ。次はみんなで往復してみようか」


 4人で往復してみた。

 ダンジョンの転移魔法陣のように、

 ふと気が遠くなったと思ったら、自宅のトレーニング室だった。

 そして、再びダンジョンに戻ってきた。


「なんか、凄いわねえ」


「ジョエル様様だな」


「おう、父ちゃん、今日は旨い飯頼むわ」


「まかせろ」



 さて、そんな成功に沸き立ち、意気揚々と自宅に戻ってくると、

 誰かが店に来た気配がした。


 今日は休みにしているが、出てみると、

 ロレーヌが自宅前でウロウロしていた。


「ロレーヌ、どうした?」


「ああ、ジョエル。ちょっと相談があって」


 ロレーヌは家の訓練場を自宅の庭のように使っていた。

 度々飯も一緒に食べるし、

 あちらの家族とも家族ぐるみの仲だ。


「あらあ、ロレーヌちゃん、いらっしゃい」


「ロレーヌ姉ちゃん、こんにちは」


「どうした?」


「実は……」


 と話し始めたロレーヌ。


 

「私、運よくアカデミーに受かってA組に配属されたんだけど、ダンジョンスキルがまるで足りてないんですよ」


 アカデミーは素の基礎学力とか体力を見るからな。

 ダンジョンレベルは関係がない。


「でも、クラスの子たちって貴族とかそんな子ばかりで、中学時代はダンジョン攻略バッチリなんです」


「ああ、E組だと入学時は最高でもダンジョンレベル5とかだもんな。庶民ばかりで。でも、他のクラスはD組でもレベル10とかだからな」


 俺はボコボコにしてやったモルガンを思い出した。


「A組だと攻略の進んでいる子が15とかそんな感じなんですよね」


「ほー、中学時代にレベル15にまでいくのか。さすが、お貴族様だな」


「ほら、7月の初旬にクラス別対抗戦があるでしょ?」


「そうだっけ?」


「お兄ちゃん、私だって知ってるよ」


「なんで、おまえが」


「アカデミーのクラス別対抗戦、3年生のとかになるとみんな見に行くよ」


「うわっ、そんな恥ずかしいことやらせるの?」


「で、ほら、私ってA組でしょ?いろいろ言われているのに、ダンジョンレベル5じゃちょっと恥ずかしくて」


「ロレーヌお姉ちゃんって神聖魔法が使えるから、注目されたんでしょ?ダンジョンの強さってあんまり関係ない気がするんだけど」


「まあ、その通りだな。教会もあんまり気にしてないだろう。でも、A組でもロレーヌのポジションって微妙そうだからな」


「そうなの?」


 俺が簡単に説明する。

 学年の1位、2位、3位が3人共、貴族とか守旧派じゃない。

 ところが、A組に配置されるような優秀な学生には

 守旧派が多い。


 A組も3人以外は貴族などの守旧派ばかりだそうだ。


「なるほど。そりゃ、やりにくそうだ。3人が浮いているってわけか。俺たちの班とは真逆だな」


「?でね、実は3人とも、ダンジョンはあんまり得意じゃないの」


「アスタシオさんもか?」


「そうよ。ジョエル、目が開いて怖い」


「ロレーヌお姉ちゃん、アスタシオさんってお兄ちゃんの女神様なのよ」


「へえ?」


「いやいや、ただ遠くでも見つめるだけで十分でございます」


「まあ、そんな人がいるのね」


「残念だけど、お兄ちゃんでは力不足。美人で物凄く有名、アカデミー迷宮学園首席合格。歩くパーフェクトなのよ」


「美人って、ロレーヌよりも?」


「私もよく知らないけど、ロレーヌ姉ちゃんは親しみが湧いて、あっちはちょっと隙がない感じ?」


「まあ、どっちも俺がどうこういうほどじゃない。チビデブだし」


「ジョエルちゃん、アレクさんだって若い頃は背が低くて太ってたのよ。今のジョエルちゃんみたいに」


「ああ、でもダンジョンやり始めたら上には伸びる、体は引き締まるでな。今じゃ、190cm、90kgだ」


「だから、ジョエルちゃんもすぐにアレクさんみたいになるわよ」


「そうかな」


「それに、ジョエルの顔ってカワイイと思うわよ」


 おお、幼馴染も持ち上げてくれる。


「そうよ。お姉ちゃんの言う通り!」


 マノンよ、お前はいつでも俺の味方だ。


 ま、俺は自分の容姿にあんまり興味がないんだけど。

 そういうフリしてるんじゃないぞ。

 泣いてもいないぞ。

 格好いいにこしたことはないが。



「で、何?俺たちとダンジョンを周りたいってこと?」


「ええ、不躾なお願いなんだけど」


「ロレーヌちゃん、不躾なんてこと全然ないわよお。あなたも私達の娘みたいなものだし」


「そうだよ。なんなら、今から行ってみるか?」


「本当にありがとうございます。私がA組で多分最下位だから少しでも上げておきたい」


 おお、ロレーヌが泣いてるよ。

 そんなに苦労しているのかね。


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