第28話 アグリカルチャな古代書 ガリエルさんとバジルさん

【アグリカルチャな古代書 ガリエルさんとバジルさん】


 俺は寮に戻ると、早速古代書の解読にとりかかった。

 魔石回復薬で苦労したお陰で、割とスラスラ読み進める。


 この古代書は、農業関連の技術が多数収められていた。



 ますは農業機器系統の魔導具・魔導機械


 トラクター 耕起・砕土・播種・施肥・防除をする

 コンバイン 穀物の収穫・脱穀・選別をする

 

 特筆するのは、魔石消費率が低い。

 農作業のかなりの効率性アップにつながるだろう。


 魔石はゴブリンサイズで1個で1日作業できる。

 買うんじゃなくて自分でとってくればタダだ。

 C級以下の魔石に限ると、

 魔石は自分で消費するのであれば売らなくても

 罰せられないのだ。

 ただ、その旨書類化しなくてはならないが。


 機械の移動には人力か、馬・牛といったものが必要になる。


 一応、移動の自動化、つまり自動車の原理も載っている。

 ただ、魔石消費量が半端ない。

 

 

 なお、魔石はホブゴブリンサイズ程度までなら、

 冒険者ギルドから購入することになる。

 それ以上は迷宮省庁とかのお役所だ。


 ゴブリンサイズの魔石は売ると500s。

 ホブゴブリンだと1000s。

 買うとその3倍の価格になる。


 じゃあ、いっそのこと冒険者から直接買えばいいじゃないか。

 と誰もが考える。


 だが、それはご法度。


 売った冒険者はバレると冒険者登録を抹消され、

 様々な流通から締め出される。

 魔導具、回復薬、武具の購入はできなくなる。

 場合によっては投獄される。


 魔石の売買は冒険者ギルドを成立させるものだからだ。

 冒険者ギルドは冒険者の互助会である。

 そのギルドに後ろ脚で砂をかけるような行為には、

 相応の報復がなされるのだ。


 冒険者ギルドカードも失う。

 ギルドカードはIDとなるが、ない人は信用を失う。


 冒険者ギルドカードを失効させるようなヘマをしたものは、

 他のギルドにもブラックリストが回される。


 他のギルドのIDも失効する可能性がある。

 各ギルドは対立することが非常に多いが、

 この件に関しては、統制が整っている。


 冒険者ギルドの運営がガタガタになると、

 冒険者の統制がきかなくなり、世情が非常に不安定になるからだ。


 何しろ、彼らは荒くれ者が多い。

 それを冒険者ギルドの拳一つで統制をかけているわけだ。

 野獣が街なかをうろつくことをみんな承知しない。



 古代書には他にも農業にかなり貢献できそうなものが載っていた。

 特筆するのは、


 魔石肥料 

 魔石飼料

 魔石防除薬(農薬)


 考え方としては魔石回復薬と同じだ。

 

 

「解読、終了したよ」


「え、今回はやけに早いな」


 俺は父ちゃんに説明する。


「ふーむ。ガリエルが喜びそうなもの持ってくか。それからもう一度薬師のアンリのところに出向くか?」


 ◇


「いらっしゃい、アレク」


「ガリエル、今日はおもしろそうな魔導具のネタを持ってきたぞ」


「ほう」


 ガリエルさんはドワーフだ。

 商売人というよりは根っからの職人。

 魔導具大好きのオタクである。


「なんだと、古代書を解読して、古の技術を復活させただと?」


「おうよ。アカデミーの優等生、俺の自慢の息子の力量を見ろ」


 いや、父ちゃん。

 俺はアカデミー補欠合格なんだって。


「ふーむ。農機具か」


「ああ。魔導原動機なんてのもあるぞ。これを応用すると、馬車も馬無しで動かせるぞ」


「おお!」


 ガリエルさんが俄然やる気を出してきたようだ。


「よし、早速開発にとりかかってみよう。ああ、魔法契約書、忘れるなよ」


 ドワーフたちは非常に遵法精神が高い。

 PL(製造者責任)に非常にうるさい。


 というのは、魔導具の世界では事故が起こりやすい。

 その事故が製造物の欠陥なのか、使用者のミスなのか、

 昔から騒動のネタになってきたのだ。


 それと、新規開発ではお決まりの利潤の奪い合いも問題。


 だから、分厚い魔法契約書を作成する。


「しばらく開発にとりかかるから、完成したら知らせるよ」


「おお、待ってるぞ」


 ガリエルさんはドワーフである。

 ドワーフは王国では特殊な集団を形成している。

 職人というのは通常ギルドをつくっている。

 当初は職人のための団体であったのが、

 この時代では根強い既得権益集団に成り果てている。


 その中でドワーフ職人はギルドからは自由であり、

 ドワーフ独自の価値観で動いている。


 一言でいえば、より良いものを造る。

 ドワーフの求める最上の価値観だ。

 だから、ギルドとは価値観が合わない。

 ギルドはギルド員の安寧が第一だ。

 製品はたいてい横並びになりやすい。


 ◇


 さて続いては薬師のアンリさんだ。


「おーい、また来たぞ」


「何だ、まさか新ネタか?」


「そのまさかだ」


 父ちゃんはアンリさんに魔石肥料、飼料、防除薬を説明する。


「で、解読したのがこちらの大坊っちゃんか」


「そうだ、崇めろ。アカデミーの大天才だ」


 いや、だから俺は補欠合格……


「うーむ。まあ、作ってみるが、これも魔石回復薬と同じだな。冒険者ギルドのギルマス・ジャックに話を通しておくか」


「ああ、その前にどの程度の効果があるかだな」


「農業ギルドもうるさいからな」


「どうかな。昔の仲間のバジルに連絡とってみては」


「ああ、そうか。冒険者で稼いで大農地を買った男がいるな。やつは確か元気にやってるはずだ。ちょっとコンタクトを取ってみるか」


 父ちゃんの旧友とか仲間は元冒険者が多い。

 たいていはギルドと関係がない、独立した事業者ばかりだ。

 バジルさんもその一人だ。

 通常、農家は農業ギルドに入るもんだが、

 バジルさんは大規模農家で、ギルドの存在が不要だ。


 ◇


「おお、アレクとアンリ、久しぶりだな。5年ぶりぐらいか?」


「バジル、おひさ。ちょっとした同窓会だな」


「で、突然どうした」


 父ちゃんとアンリさんは説明する。


「なに、古代書を解読して、古の農業関係技術を復活させたと。なんだか、すごそうな話だな。どこの学者先生なんだ」


「頭を垂れよ。アカデミー在籍の我が大天才の息子がだな……」


 いや、だから俺は補欠……


「バジル、奴の息子は他にも実績がある。その実績は冒険者ギルドで先行販売を行っていて、評判が広まっている」


「それって、ひょっとしたら、新しいオレンジジュースのことか?」


「あれ、耳が早いな」


「いや、馴染みの冒険者が持ってきたんだ。試しに飲んでみたら、やけに体調がよくなってな」


「ほう」


「すぐに売り切れになるらしいからそれ以来味わったことがない」


「ああ、大好評でな。今増産体制を整えているところだ。なんなら譲ろうか?」


「お、そうか。是非譲って欲しい」


「じゃあ、後日送るわ。まあ、久しぶりっていうことでお中元がわりだ」


「そうか、悪いな」


「あとな、夜用のジュースもあるんだが」


「夜用?大人用ってことか?」


「そうだ」


「あー、それは遠慮しとくわ。俺、毎晩ヘトヘトなんだ」


「そうか。爺になったらいつでも言えよな」


「あほ。心臓が止まるわ」


「で、新肥料、飼料、防除薬を開発してみたんだ」


「それでうちに顔を出したってわけか」


「ああ。一通り置いてくからちょっと試してくれんか」


「よし、わかった。結果が出たら連絡するよ」


 ◇


 一週間後。


「おい、アレクいるか?」


「おお、バジル。遠いところをわざわざ」


「いや、お前たちにもらったやつな、効果が高いってもんじゃないんだ」


 バジルさんが説明した効果は次の通りだった。


 肥料 発芽も生育も従来の倍以上の速さ。

 飼料 食いつきがよすぎて、他の飼料を食べなくなった。

    しかも生育が非常に良い。

    鶏の卵を食べてみたが、プリッとしていて臭みがなく、

    非常に美味。超高級品レベルだ。

 防除 見事に虫がよりつかなくなった。

    虫がよりつかないだけで、害はないようだ。

 

「だからな、ちょっと真剣に販売してみないか?」


「おお、冒険者ギルドのジャックに話を通しているところだ」


「ジャックってギルマスか」


「ああ、見事に頭が禿げ上がってたぞ」


「なんで、冒険者のギルマスはハゲの大男ばっかりなんだ?」


「あとな、農機具の魔導具もある」


「ほう」


「いま、魔導具師のガリエルが開発を進めている」


「ああ、凄腕のドワーフか。それも期待できそうだな。できたら俺に真っ先に回してくれ。金に糸目はつけん」



 アグリカルチャな古代書には他にも良さげなものが載っている。


 その一つが爆音魔導具だ。

 爆音を録音して、カラス対策にするというもので、

 応用で普通に録音機やPAを作れる。


 録画機というものも作りたいが、

 これは実現できるかどうかわからない。


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