第26話 ある屋敷の一室で

【ある屋敷の一室で】


 ここはある貴族の館の一室である。


「では、報告を聞こうか」


「懸案となっております魔石関連事業ですが」


「うむ」


「結論から申します。売上の低下傾向に歯止めがかかりません」


「理由は」


「昨年、一昨年と同じです。守旧派陣営がヘリ、反守旧派陣営が増えております」


「傾向が変わらんか」


「はい。特に、中間派、自由陣営に近い中間派がどんどんと増えております」


「冒険者上がりの新興大規模農家が増えておるのだな」


「ええ。ここ数年のブームです」


「法律もまずいな」


「はい。無主の荒れ地を開拓すれば、それが自分のものになる、という法律ですね」


「どうにかならんのか」


「背景には人口増加に伴う絶対的な食料不足があります。農地を拡大しなければ、深刻な飢餓は免れません」


「ううむ」


「あとは誠に言いづらいのですが、守旧派の厳しい統制を離脱する元守旧派が目立ちます」


「誠にけしからんな」


「ええ。そういう輩には厳しい制裁を課しておりますが、それでも離脱を選択してしまいがちです」


「深刻ではないか?」


「かなり、だと思います」


「どうすれば、いいのか?」


「おそらく、歴史的な曲がり角にあるのかもしれません。この流れは押さえきれないでしょう。反守旧派がなぜ増加しているのか。それを分析し、我々にもフィードバックをしていかねばなりません」


「それでは、奴らと変わらんではないか」


「さらに申し上げれば、そういった提言をしても受け入れるものがいかほどいるのか」


「ううむ」



「ところで、アカデミーはどうなっておる?」


「魔法学園は守旧派のまま。魔導工学園は中間派で変化はありません」


「迷宮学園は」


「肝心の迷宮学園なんですが、ラ・シエル街と学長は自由派、教職員の過半数は守旧派。学生の多くも守旧派です」


「だが、昨年度初めて生徒会長が自由派の学生になったのだったな」


「はい。迷宮学園の卒業生は王国に最も影響力を与えると言われており、

実際、トップ省庁の官僚を多数排出しております。そこの生徒会長がいずれの陣営になるのかは、将来の王国を占う意味で重要な意味がありまして」


「そんなことはわかっておる。多数派工作をしたんだろ?」


「はい。特に1年生に対しては念入りに。A組からD組までは守旧派で押さえられそうでした」


「E組か」


「毎年、E組は庶民が多数在籍することが多く、力技で制圧しようと試みております」


「首尾のほどは?」


「残念ながら、意外な伏兵がおりまして反撃にあった模様です」


「誰だ、そいつは」


「ジョエルという学生です。彼がことごとく工作員を撃退しまして」


「拳で言うことを聞かせられなかったのか?E組なんだろ?劣等生の集まりではないか」


「はっ。ジョエルという学生は補欠合格という話なんですが、腕力はかなり強い模様で」


「うーむ、頭の悪いチンピラということか」


「はい、そのようです」


「学生の手に余るようなら、他の手を考えればいいだろう。あの組織を使うという手もある。搦め手も考えてみよ」


「はっ」


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