第25話 生徒会選挙の闇

【生徒会選挙の闇】


「ジル、ちょっといいか」


「いいけど、ジョエルから話しかけるなんて初めてね」


「ちょっと、特別訓練室へつきあってくれないか?」


「え?告白とかじゃなさそうね」


「俺にそんな色恋沙汰が似合うわけないだろ。エマとジャンヌもいるから」


 ◇


「で?」


「昨日の屋外授業な、ダンジョンの中で俺たちは例のいじめっ子3人とD組のモルガンという奴に襲われた」


「えー!」


「まあ、返り討ちにしてやったから、しばらくは大丈夫だと思うが」


「ああ、だから3人が休んでいるのね」


「高性能の回復薬をかけておいたから大丈夫だとは思うが、熱出して寝てるかもな」


「あなたってさ、とんでもなく強いみたいね」


「いや、ダンジョンで少しレベリングが進んでいるだけだ」


「でも、4人を相手でしょ。しかも一人はD組」


「まあ、それはおくとしてだ。モルガンが言うには、自分たちはトカゲの尻尾だと」


「誰からか命令されているっていうの?」


「ああ。名前はわからんらしいがな」


「身元不明の誰かから命令されてるってこと?」


「そうなるな」


「変でしょ、それって」


「ああ。さらにだ。奴ら4人はE組をコントロールするために動いていたと言うんだ」


「なんでそんなことを?」


「わからん。だから、ジルに相談している」


「……ひょっとして、生徒会選挙絡みかしら?」


「はあ?」


「私もちょっと小耳に挟んだ程度なんだけど。アカデミーの生徒会選挙ってちょっと大変らしいのよ」


「たかが、生徒会じゃねーか」


「たかが、じゃないみたいなのよね」


 ジルが言うには、この学園はある程度の自治権があり、

 生徒会権限もそれに応じて強化されている。

 脳筋思想の色濃く残るこのアカデミー迷宮学園では、

 揉め事なんかは拳で解決することが多い。

 そして、腕力の強い学生が生徒会長になり、

 学園自治の権限の一部を生徒会に与えられることになる。



「ああ、脳筋だってのはわかる。かなり荒っぽい学校だよな。生徒会権限が強いのもわかった。自警団みたいなものだな。だが、生徒会長になったところで、メリットがあるのか?ただのボランティアに聞こえるが」


「生徒会長とか役員とかになると、卒業後の優遇が凄いらしいわ。ずっと長く社会的に称賛されるって話」


「ふむふむ。名誉欲だけじゃないってことか?」


「そうらしいわ。それに個人の話にとどまらないかも」


「ほう」


「守旧派と自由派の争い、知らない?」


「うーん、政治的なものはさっぱり」


 またもや、ジルの説明。


 守旧派は王族、古くからの貴族や大規模地主。それから教会。


 自由派はここ最近盛り上がりを見せている新興派閥で、

 主に魔石に関係してのし上がってきたグループ。

 冒険者で貢献度が高くて貴族の称号をもらった新貴族、

 魔石関連で莫大な利益をあげている新興商人、

 といったところ。


 この両者は仲が悪い。

 守旧派は自由派を成り上がりとコケおろし、

 自由派は守旧派を時代遅れと罵る。


「でね、口喧嘩だけならいいんだけど、いやよくないんだけど、問題は魔石利権が絡んでいるのよ」


「ほお」


「魔石に関して守旧派を代表するのは、いわゆる省庁よ。そして、自由派を代表するのは冒険者ギルドね」


「なるほど。魔石の買い取り先だな」


「そう。ダンジョンの魔石は大粒のD上位クラス以上の魔物の魔石が省庁。それ以下のホブゴブリン級以下が冒険者ギルド、というのが慣習的に振り分けられているけど、ダンジョン省庁は小粒の魔石も買い取りたい。冒険者ギルドは大きな魔石も買い取りたい。当たり前よね」


「争点はそこか。その利権奪取にむけて、人材確保をこの迷宮学園でもやってるってか?」


「そうみたい。人材椅子取りゲームをしてるのよ」


「その対象者が学生ってわけか。なんだか、回りくどいような」


「それだけ、アカデミー迷宮学園の名は重いのよ。さらに、条件付きとはいえ、統治に関与している生徒会、特に生徒会長はさらに重要ね」


「はあ。まあ、数十年後は王国のトップクラスに君臨する卒業生もいるだろうしな」


「そうね」



「でもさ、E組をコントロールするってどういうこと?」


「この学園独自なのかもしれないけど、選挙はクラス単位で行われるのよ」


 ジルの説明

 各クラスごとに投票を行い、

 生徒会長にふさわしい立候補者を各クラスが選択する。

 そして、自分を選択したクラスの一番多い立候補者が

 生徒会長に当選する。


「少しアメリカ大統領選挙みたいだな」


「なにそれ」


「いや、独り言。なんでそんな方式に?」


「よくわかんないけど、古くからの慣習らしいわ。村ごとに立場を決めた時代の名残ともいわれてるけど」


「ふーん。だから、奴らはE組を抑えようとしたってことか」


「ええ、力でね」


「随分と野蛮なんだな」


「ここはそういう学校みたいね。でもさ、その標的の一番手にあなたが選ばれたってことよ」


「ええ?チビデブピザの俺にか?」


「ピザってのがなんなのかわからないけど、まあ、身も蓋もなく言えばそういうこと」


「いや、少しはかばってくれよ。チビデブって言われて傷ついてるんだから」


「ああ、ゴメン。私、正直で」


「いや、それ追い打ち」


「でも、E組で話し合いが必要かしら」


「ああ、俺はどっちでもいいけどな。喧嘩売られたんなら買うぞ、って言いたいんだが、そこまで度胸も自信もないけどな」


「向こうは数も多いしね」


「で、生徒会選挙はいつあるんだ?」


「例年、2月の終わりよ」


「ふむ。そうか、頭に入れておくか」


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