第21話 魔石回復薬 ギルド対策1

【魔石回復薬 ギルド対策1】


「アレク、なんだと?魔石から回復薬を作るって?」


「アンリ、そうだ。ひょんなことからダンジョンで古代書を発見してな。解読したら、そんな規格外なことが書かれてあった」


 父ちゃんは旧友の薬師アンリさんを訪れていた。


「だれだ、そんな頭の良さそうなことをするのは。おまえじゃないよな」


「当たり前だろ。俺の自慢の息子だ」


「ああ、アカデミーに合格したんだってな。おめでとう。鳶鷹って噂されてるぜ」


「ほっとけ。で、どうしたらいいか、相談したくてな」


「うーむ、まずそんなものが本当にできるのかどうか」


「聖属性持ちしか作れんらしい。俺の知り合いで信用のおける聖属性持ちはおまえしかいない」


「しかも薬師だしな。よしきた。ちょっと待ってろ。あ、その前に仮の魔法契約書を交わしておこう」



 約1時間後。


「ふう。おまたせ。割りと簡単にできたぞ」


「どうだ、効能は」


「ちょっと待て。俺の知り合いの薬師で検討してみる。心配するな。薬師ギルドの紐はついていない。独立派だ」


 職人ギルドは職人の地位向上のために結成されたのだが、

 現状では制約の非常に多いやっかいな組織になっている。

 その代表格が薬師ギルドだ。

 既得権益の塊のような組織である。


 もう一つやっかいなことがある。

 薬師ギルドのバックには教会がいる。

 多くのギルドのバックには教会がいるのだが、

 その中でも教会の結びつきの強いギルドがいくつかある。

 薬師ギルドはそのうちの一つだ。


 そんな状態を嫌い、アンリさんのように

 薬師ギルドに加盟していない薬師もいる。

 薬師ギルドもそういう独立した薬師には様々な妨害を仕掛けてくる。

 アンリさんは元冒険者で腕っぷしが強く頭脳明晰で、

 妨害を跳ね返せるだけの気持ちの強さがあるわけだ。


 ◇


 そして、約1週間後。


「結果が出たか」


「おお、とんでもない効能だぞ。これ、伝説の薬エリクサーじゃないかって騒ぐやつもいる」


「わかってるよな?」


「当たり前だ。こんな薬、簡単には世の中には出せない。危険すぎる。それに、みんな口の固い連中だ。信用しろ」


「どうする?」


「これだけの薬だ。なんとか世に出したい。貢献度が半端ないんだが」


「いろいろ寄ってくるな」


「ああ、ハイエナどもがな。特に薬師ギルドは黙っちゃいるまい」


「避けられんな」


「手がないわけじゃない」


「ほう」


「薬師ギルドに関係する薬ってのは、

 1 効能を謳うこと

 2 薬師ギルドに登録されている薬草を使うこと

 3 薬師ギルドに登録された薬レシピを使うこと

 以上のうち、一つでも当てはまれば、薬師ギルドの認可が要る。もちろん、俺たちは薬師ギルドに加盟していないからそんなの関係ないんだが、薬師ギルドはそんなことおかまいなしだ」


「がっぽり金を取られるか」


「レシピを開陳しろとか普通に言ってくるぞ。公共性が大きいとかで、無料でな」


「ああ。俺も奴らの手口を知らんわけじゃない」


「まずは、薄めて単なるジュースで販売するとか。で、本物のはダンジョンに落ちてたとして、秘密のエリクサーもどきとして販売するとか。もちろん、両方とも効能は謳わない。あくまで自然発生的な口コミに頼るわけだ」


「うーむ、良さげだが、それで奴らをかわせるかな」


「まあ、無理だな。ずかずかと上がり込んでくる未来がはっきり見える」


「では?」


「冒険者ギルドをかますってのはどうだ」


「なるほど。ギルマスならオレたちの仲間だ。あそこに魔石ジュースをおいてもらうと」


「ああ」


「できれば、魔石をダンジョンから直接使いたいんだが。魔石使用を隠したい」


「冒険者ギルドには魔石利権があるからな。ふむ。交渉してみるか。金額がかさばるわけじゃない。ギルドが魔石を売る変わりにジュースに変身しているだけだ。しかも、金額が高くなる」


「ああ」


「利益なぞ、冒険者ギルドにほとんどやってしまえばいいだろう。おまえは開発者利益として数%もあればいいだろ。それでもとんでもない額になるかもしれんぞ」


「いや、相談・技術料としておまえも仲間に入れ」


「うーむ。リスクヘッジか。まあ、いいだろう。遠慮なく、お言葉に甘えるよ。じゃあ、正式な魔法契約書を交わしておくか」


「ギルマスにアポとってみるわ」


「まあ、待て。一ヶ月は副作用を調べてみるわ。下痢でもされたら大変だからな」


 ◇


「で、なんだって?ジュースを置かせてくれって?」


「ああ」


「おまえらがわざわざ俺んとこへ来るってことは、普通のジュースじゃないってことか」


「うむ。ここで質問だ。俺たちは効能を謳わない。お前も効能なんて知らない。単においしいジュースの販売を持ちかけられた、さあ、どうする?」


「なるほど。薬師ギルドか。色々大丈夫なんだろうな」


「うむ。内輪で検討をしてみた。今のところは問題がない」


「いくらぐらいで納入したいんだ?」


「いや、販売価格は普通の果実ジュースを想定している。だから、その3分の1だな」


「ふむ」


「あと、魔石が関係している」


「ほう。魔石入りのジュースか」


「お願いがあるんだが、魔石はうちが直接使いたい」


「ギルドを通さないってことか」


「ああ。魔石を使っていることをできるかぎり隠したいんだ。そのかわり、魔石を売るよりもいい商売になる。1粒の錠剤に必要な魔石は1sだ」


「1sが100sになるわけか」


「まあ、濃縮ジュースもはいっているけどな」


「そういうことならいいぞ。前例があるからな。他のギルドの製品なんかで魔石を使うときにウチを通さずに魔石を使ったりする。ウチにも悪い話じゃないからな」


「でな、評判を聞いてほしいんだ」


「いいだろう。とりあえず、そのジュース、俺が試してみるわ」


「よし。試供品だ」


「ほお、錠剤を水で溶かせと……オレンジジュースみたいだな……まるっとオレンジジュースだな」


「少し砂糖で甘くしてるけどな」


「普通に美味いぞ……む?なんだか体がポカポカしてきたな……おお、活力が出てきたぞ」


「ダンジョンでメニューを見てみな。変化がわかるぞ。でな、こんなものもある」


「ほう。これはアップル味か……これも体が熱くなるが」


「へへへ」


「いかん、下半身が元気になってきやがった」


「これは夜用のジュースだ」


「なるほど。これは効果てきめんだ。女房が喜びそうだな」


「いいか、俺は効能は一切言っていない。売るときは決して効能を謳ってくれるな」


「わかってる。薬師ギルド対策ってわけだな」


「うむ」


「で、俺んとこに持ってきたと」


「へへ」


「よし、とりあえず、あるだけ置いてけ。納入価格は販売価格の3分の1。いいな?」


「よろしく頼むよ」


「おーい、納品書切ってくれ。あと、販売契約書もな。で、追加は?」


「しばらくは1日10個ペースでどうだろう」


「新商品だしな。まあ、ゆっくり様子を見るか」


「あとな、もしこれがうまくいくようなら、超弩級のものを持ってくる」


「脅かすなよ」


「この錠剤の原液みたいな錠剤だ」


「ほう」


「一応、俺たちでチェックを続けている。ただ、凄い性能だ」


「そうか、冒険者ギルドとしても気を引き締める必要があるかもしれんな」


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