第19話 家族レベリング5

【家族レベリング5】


「ガギッ!」


 父ちゃんは盾で攻撃をガッチリと受け止めた。


「アレクさん、マミーよ。そのまま!」


 母ちゃんはすぐに魔法を発動した。


「フレイム!」


 火魔法単体攻撃としては最上級レベルの魔法だ。

 ダメージを与えたようだが、一発では倒れない。


「Bクラスの魔物じゃないか。三人とも、少し距離をとって遠距離攻撃に徹しろ!」


「マノンちゃんは、ホーリーアロー、ジョエルちゃんは周囲を警戒して!」

 

 母ちゃんはフレイムを連発。

 マノンはホーリーアローで攻撃。


 俺はヤツへの攻撃手段がないから、

 母ちゃんに言われた通り、周囲の魔物を警戒する。

 こんな場面で後ろから襲われた、ひとたまりもないからな。


 母ちゃんとマノンの連続攻撃にも関わらず、

 マミーは執拗に父ちゃんを攻撃していく。

 見事なヘイトコントロールだ。


 やがて、マミーは炎を上げて燃えだし、

 そのまま霧散した。


 ちなみに父ちゃんの頭は結界で守られている。

 母ちゃんとパーティを組んだ当初はよく髪の毛を燃やされていたので、

 現在では対策は万全だ。



「ふう。なんでこんな場所に」


「これってこの階のボスクラスとしても強すぎるわね」


「ああ。だが、マミーは聖魔法と火魔法を弱点としている。俺たちには都合が良かったな」


「いえ、アレクさんのヘイトコントロール、凄かったわ」


「ジョエルもだ。今回はお前には相性の悪い敵だったが、それでもすることがある」


「そうよ。それにアレクさんがいない場合はタンクする場面ね」


「でも、なんでこんな奴がいるんだ?この小屋になにか秘密が?」


 父ちゃんは慎重に扉を開け、中に入っていった。



「おい、何か本が置いてあるぞ」


「なんて書いてあるのかしら」


「ああ、俺の出番みたいだ。マルチリンガルのスキルが発現しているから」


「マルチリンガルだって?またまた凄そうなスキルだな」


「黙ってたわけじゃないんだけど、言う機会がなくて。多分、いろいろな言葉を翻訳できる」


「わあ。お兄ちゃん、次から次へと凄いスキルばっかり」


「えっと、なになに?これ、古代書みたいだ。魔石回復薬?」


「なんだと、魔石回復薬?」


「どういうこと?魔石で作った回復薬ってこと?」


「そんなの聞いたことないな」


「ペラペラとめくってみたけど、記号の羅列でよくわからない。これ、暗号文書に近いと思う」


「そうか。ジョエル、どうする?」


「チャレンジしてみたい。なんとなくだけど、解けそうな気がする」


「そうか、流石はアカデミーだな」



 とんでもないものを発見したかもしれないという高揚感の中、

 俺たちは早々に10階に向かうことにした。


 ちなみに、この戦闘で俺とマノンはレベルが11となり、

 さらに少し戦闘を重ねて結局レベル12でこの日を終了とした。


 10階には1階に戻る転移魔法陣がある。

 それを使い、瞬時にダンジョンを抜け出し、

 晩ご飯とするのであった。


 もちろん、俺は古代書にかかりっきりになった。

 それにしても、古代書か。


「ダンジョンで古代書が宝物から出てきたなんて、聞いたことがないけどな」


 父ちゃんたちはそうのたまう。

 そういえば、神様もどき自称次元の狭間管理者が、


「本をよくよめ」


 ってつぶやいていたような気がする。

 ひょっとしたら、神様みたいな人のアシストなのだろうか。



【魔石回復薬】


 ダンジョンでゲットした本。古代書である。

 魔石回復薬とタイトルにある。


 言葉とおり、魔石を素材とした回復薬なんだろう。

 ひょっとしたら、あの自称管理人の贈り物かもしれない。

 魔石生成スキルが俺にはあるからな。


 しかし、翻訳がまるでできない。

 いや、翻訳しても意味不明な記号の羅列になる。


 暗号文書みたいだ。


 ただ、ある程度の当たりをつけておいた。

 これはプログラミング言語に似ている。


 元プログラマーとしての勘だ。


 とはいうものの、自分の記憶にあるプログラミング言語では

 まるで歯が立たない。


 それぞれの言葉の意味がさっぱりなのだ。



 そこで、俺はより難解とされるプログラミング言語を

 ヒントとしてみた。


 前世で難解とされるプログラミング言語にはいくつかあり、

 俺はそのうちの2つばかりをかじったことがある。


 そして、そのうちの一つ。

 俺はMalbolgeという変態プログラミング言語を思い出していた。


 Malbolgeは、

 C風言語から

  制御付き疑似命令列への変換 (ソースコード)

 制御付き疑似命令列から

  低級アセンブリコードへの変換 (ソースコード)

 低級アセンブリコードから

  Malbolge20への変換 (ソースコード)


 という中間言語を2回も経由したのちに、

 3回の変換を行うことによってようやく生成される。


 そこで似たような過程をとると仮定して

 この暗号文を解釈していくと、

 なんとなく光明が見えてきた。


 俺は自由時間のほぼすべてをこの暗号文の解読に捧げた。

 そして、数週間後。


「解読完了!」


 自分でも驚いている。

 マルチリンガルスキルも凄いが、

 身体強化スキルによって頭脳も活性化しているんじゃないか。

 随分と頭脳明晰になっている。



「解読しただと?」


「父ちゃん、これ、確かに魔石回復薬みたいだ」


「魔石から回復薬を作るのか?どうする?」


「またもや、ゲームチェンジャーのようなものができるよ。俺は魔石を無限に取得できる。それで回復薬を作る。安価で抜群の性能を持ちそうな薬だ。で、作れるのは聖属性持ちの人間らしい」


 ダンジョンでの属性は、ダンジョンの外にも影響を及ぼす。


「マノンか」


「多分、マノンではレベルが不足する」


「うーむ。お前の絡む案件は頭の痛くなるものばかりだな。よし、俺の旧友の薬師に相談してみるか。元B級冒険者で聖属性持ち。ダンジョンレベルは30前後のはず」


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