第17話 班員パワーレベリング

【班員パワーレベリング】


 ふと気がつくと、入学して1ヶ月近くが過ぎようとしている。

 おそらく緊張していたのだろう、

 俺は季節の移り変わりを気にする余裕がなかった。


 だが、今は入学時よりも明らかに気温が緩んでいる。

 校庭のシンメトリーの立派な花壇も花が咲き始めている。



 野外授業までは一ヶ月を切っている。

 ちょっとピッチをあげないと、エマとジャンヌには厳しい。

 俺たちは、放課後の数時間をレベリングに当てることにした。


 アカデミー~ダンジョンは往復30分。

 1階、2階はそれぞれ片道30分、往復2時間。

 3階では約1時間ほど時間をかけてレベリング予定。


 学園は3時半には終わるから、

 レベリングして寮に戻ると夕方7時ごろ。

 夕食には楽々間に合う。


 しかし、初日。

 彼女たちは往復するだけで疲れ果てていた。

 レベリングできず。


 2日めも。

 結局、レベリングを開始するまでに1週間を要した。


 5月に入る。

 屋外授業まであと2週間。

 ようやく3階でのレベリングが始まった。


 俺がタンク。

 後衛の後ろ二人に遠距離攻撃をさせ、

 はずれて魔物が突っ込んできたら俺が対処。


 この調子で初日のうちに二人のレベルは4になる。


「どう?気配探知と気配遮断スキルが発現していると思うんだけど」


「…発現した。嬉しい…」


「…見通しがよくて安心…」


 おお、少し会話らしくなってきたな。


「じゃあさ、君たちが探索を行ってよ。気配を遮断しているから、こちらが先に魔物を見つけられるはずだし」


「…うん…」


「ただ、知ってると思うけど、角兎は素早い。30m程度の距離なら1秒ちょっとで詰めてくる。敵の死角から近づき、先制攻撃をする」


「死角?」


「風下から近づくのは基本中の基本だね。気配を遮断しても、体臭は遮断できない」


「…私、臭くない…」


「はは、そういうことじゃないんだけど。仮に先手取られても、俺が防ぐから。安心して」


「…わかった…」



 実際にやってみると、

 探索距離は30m程しかないが、次々と魔物を探知していく。


 そして、自ら魔法による遠距離攻撃。

 命中率は若干良くないが、

 それでも二人からの同時攻撃で魔物撃破を重ねていく。


「…嘘みたい。私の手で角兎を倒していくなんて」


「…あんなに怖かった角兎があんまり怖くない」


 この人たち、ちゃんとしゃべれるじゃん。

 ちょっと知的障害を疑ってたけど、ゴメン。

 まあ、アカデミーに合格するレベルの人達だからな。


 

 レベル5になるのに更に3日かかった。

 これでレベルの伸びが止まる。


「さて、4階はどうする?ゴブリンなんだけど」


「やりたい」


 言葉に意思が感じられるようになった。


「いいかい、ゴブリンは醜く残酷だ。それに人型ということで抵抗感を覚える人もいる。気持ちを強く持つこと。いいね」


「うん」



 4階に降り立った。


「この先、二股の通路の右側、入ったところすぐにゴブリン1体。いいかい?」


「まかせて」


 慎重に近づく。

 よし、視野に入ったぞ。


「「発射」」


 ゴブリンは問題なく消滅した。


「ゴブリンをやっつけた。信じられない」


「最初の関門と言われるゴブリンを突破した。本当に嬉しい」


「全然、問題なかったね。君たちの実力、ゴブリンを軽く超えてきたね」


「本当にありがとう」


「私達につきあってくれて感謝しかない」


 お、泣いてるよ。

 そんなに泣くようなこと?


「アカデミーに入って、周りが優秀すぎて引け目を感じてた」


「私も無理やりアカデミーに入らさせられたの。魔物が怖いから嫌だったのに」


「でも、私でもゴブリンを討伐できた」


「この調子でもう少し頑張ろうか。レベル6、行けるかもよ?」


「やる」


「頑張る」



 俺たちはさらに1週間ほどかけた。

 彼女たちはレベル6に到達した。


 そして、いよいよ5階に降り立った。

 ここはホブゴブリンに代表される

 ゴブリン上位種の生息地だ。


 流石に彼女たち二人だけでは討伐は難しい。

 俺も攻撃に加わりつつ、獲得経験値を増やしていった。


 そうして、彼女たちはレベル7になることができた。



「とりあえずは、ここで終了しておこうか。多分、Eクラスの中では上位のレベルなんじゃないかな」


「本当にありがとう。これで自信を持って屋外授業に参加できる」


「それとさ、君たち、なんだか痩せてきてない?」


「そうなの。服のサイズがガバガバになってる」


「ジョエルもそうだよね」


「そうなんだよ。ガバガバどころじゃなくて、体重測ったら10kgも痩せてたんだよね」


「私、目がパッチリしてきた」


「魔法を使うと痩せるって聞いたことがある」


「それに、毎日すっごく歩いたり走ったりしてるもんね」


「明日、アカデミーのほうに制服を請求しようか」


 アカデミーでは制服で授業を受ける。

 この服は無償で支給されるし、

 破れ、汚れによる交換、サイズ変更は

 問題なく応じてくれる。


 で、翌日制服交換を申し出たのだけど、

 俺のサイズ測定で体重は85kg。

 さらに身長が165cmになっていた。


 前回測定してから2ヶ月。

 5cmも伸びている。

 父ちゃん・母ちゃんとも身長高いからな。

 俺もまだまだ成長期だし、もっと背が高くなるかもな


 それに体重が10kg痩せた。

 レベリングすると痩せるというが、

 効果がでているようだ。


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