第11話 いろいろお買い物

【いろいろお買い物】


「お買い物♪お買い物♪」


 次の日の日曜日。

 早朝からマノンはテンションマックスだ。

 普段からうるさいんだが、今日は特段だ。

 いちいちスキップしながら移動している。


「マノン、落ちつけ。ものは逃げんぞ」


「何言ってるのよ。今日は私が生まれてこの方、一番ハッピーな日なんだから」


「あら、マノンちゃん。この前のお誕生日会、ケーキを見て嬉し涙を流してたよね。最高の日だって」


「あれはあれ、これはこれなの!」


「まあ、マノンは毎日が楽しそうだけどな」


「フフン、なんとでも言いなさい。今日は、お買い物♪」


 だけどな、マノン。

 口の周りに口紅付けすぎてるぞ。

 それじゃあまるで口裂け女だ。


「マノンちゃん、私が化粧してあげるわよ」


 マノンは頭がパーになっているので、

 いちいち、ヒャッハーな行動をとってしまうようだ。



「家族揃ってお買い物って久しぶりね」


「だな。新年以来?」


 王国では新年になると、プレゼントを交換し合う習慣がある。

 その期間は王国中が大バーゲンセールスとなるのだ。


「言っておくが、まずは武器・防具のシャルルの店。魔導具屋ガリエルの店にも行きたいが、多分来週だな」


「えー、最初に化粧品の店行こうよー」


「そんなのに付き合ったら、数時間店から出てこないだろ」


「で、その後は服買いに行こうって話になって数時間」


「半日潰れてご飯食べに家に戻ってえっと何しにいったんだっけ、となるのがオチ」


「ブー」


「とにかく、行くぞ」


 ◇


 ラ・シエル街は、ラ・シエル・アカデミーとともにある。

 学園街である。


 ただ、元はと言えば、そばに王国でもトップクラスの

 ダンジョンができたことから始まる。


 そのダンジョン目当ての冒険者が集まり街が発展し、

 そのダンジョンからの魔石目当ての研究所が多数できて、

 それがラ・シエル・アカデミーへと昇華されていくのだ。


 街の性格としてもアカデミーの知的な面と

 冒険者の開拓者精神が同居したような街になっている。

 王国からも独立した街で、市民が街を経営している。

 最高機関は市議会だ。


 ラ・シエル街の一等地商店街に大きな店舗を構えるのが、

 ここシャルル武具店。


 街で一番というだけでなく、王国でも有数の武具店である。

 多数の武具職人を抱え、

 遠くからも有名な冒険者が武具を求めて訪れてくる。


 卸もやっており、この店の商品を置かせてもらえると、

 その店も一流の仲間入とされている。


 父ちゃんと母ちゃんもこの店の商品を置くことが

 店の目標の一つとなっているのだ。



「シャルルさん、こんにちわ」


「おやまあ、アレクさん、先月の商店ギルドの会合以来ですね。本日は一家総出で?」


 珍しく店に出ていたシャルル武具店の経営者、

 シャルルさんが応対に出る。


 ふくよかな体つきと商人らしい柔和な笑顔、

 そして決して笑わないワシのような鋭い目が印象的な初老の男である。


「ええ。シャルルさん、いつもお世話になっております」


「こちらこそ。マダムは相変わらずお美しいですね」


 母ちゃんは昔から美人で有名で、

 今だに20代のような美貌を保っているばかりか、

 年齢とともに魅力が増している。


 しかも冒険者として勇猛で名を馳せたこともあり、

 おじさん達のアイドル的存在になっている。


 こうした対応は女性に対するこの国の礼儀でもあるのだが、

 半分以上が本心なんだろうと思う。


「シャルルさんたら。もう、おばちゃんになってますよ」


 ちなみに、シャルルさんの子供も母ちゃんに求婚して

 ダンジョンでぶっ飛ばされた口の一人らしい。

 母ちゃんはそんなこと100%忘れてるだろうけど。

 

 まあ、そういう他愛もない会話がしばらく続いた後、


「で、本日は?」


「4人の武具を新調しようかと思いまして」


「ほお。そうなると、本格的にダンジョン復帰ということで?」


「以前みたいなことはできませんが、それなりに真面目に攻略してみようかと」


「なるほど。それならば、奥へどうぞ」


 そこでシャルルさんからいろいろな武具の説明を受けた。

 父ちゃん・母ちゃんもそれなりに武具の知識はあるが、

 やはり最新の情報となると耳新しいことが多い。


 それでも、父ちゃんと母ちゃんの防具に関しては

 冒険者時代のものがあり、かなり立派なものなので、

 それを修理して使うことにした。


 ただ、盾と小剣、大剣に関しては修理するよりも

 新品を購入することになった。


 それぞれ攻性魔導具として魔法陣を刻み込むからだ。

 ここ10年の魔導具の進歩はかなり速く、

 旧来の製品ではその進歩に追いつかないそうだ。

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