第7話 班編成。ボッチには辛いぜ

【班編成。ボッチには辛いぜ】


 ガラリと扉が開いて、担任の先生が入ってきた。

 名前は確かロックとか言ったな。

 空気のような存在で、やる気のなさがありありと伺える。


「来月中旬に野外授業を行う予定だ。向かう先はそばのダンジョンの3階だ」


 おお、いよいよ実戦訓練か。

 ここまでは机上授業がメインで退屈していたところだ。


 ちなみに、俺は前世を思い出した途端に、

 前世の知識も蘇った。


 超一流の大学をでているわけじゃないが、

 それでも前世日本の大学受験をくぐり抜けてきたのだ。


 しかも、こっちの世界は全体的にレベルが低い。

 アカデミーの1年生が習う学習レベルは、

 あちらでは中学生レベル、

 算数とか数学とかはひょっとしたら小学生レベルである。


 なぜ、こんなレベルで俺は今まで四苦八苦してきたのか、

 と思うほどなのだ。

 入学試験をやり直したら、俺は上位合格するだろう。

 

 いや、負け惜しみなんかじゃないぞ。



「そこで、班分けを行おうと思う。すでに入学から3週間が経とうとしている。そろそろ、気のあったものが出てる頃だろ。1チーム3人か4人のチームを組んでみてくれ」


 うーむ。

 気の合ったものだって?

 いるわけがない。


 いじめっ子連中はやだし。

 向こうも嫌だろ。


 わあわあキャイキャイと声の上がる中、

 俺は見事にスルーされていく。


 俺、ちょっと涙目。

 まあ、ソロでもいいか。

 そう思い始めていた頃、


「ジョエル。おまえボッチみたいだな。ボッチが他に二人いる。どうだ、彼女たちと組んでみるか?」


 先生よ、ボッチと言わないで欲しい(泣)


 でも、彼女たち?

 そう思い、先生の視線の先をたどると、

 オドオドした女性が二人いた。


 二人共、おかっぱ、デブ、ソバカス・ニキビ。

 実に垢抜けしない。


 まあ、俺はピザデブで陰気野郎だから、

 お互い様か。


「俺でもいいか?」


 そう訪ねてみても、下を向いたまま。

 俺以上に陰気臭いな。


「まあ、そういうことだから、三人とも仲良くやりなよ」


 先生は強引に話をまとめてしまった。

 俺たち三人はチームを組むことになった。


 ◇


「俺はジョエル。知っての通り学年の底辺だ。まあ、よろしくね」


「……私はエマ……」


「……私はジャンヌ……」


 ああ、じれったい。

 でも落ち着け、俺。

 先週までは俺も落ち込んでたじゃないか。

 こういうのは元々の性格なんかじゃない。

 ふとしたことで変わったりするんだ。


 俺はそう思い直し、彼女たちの情報を集めた。


 それによると、二人共比較的遠くの街からやってきた。

 エマは大地主の娘。

 ジャンヌは商人の娘。


 庶民でもない、上流階級でもないと言ったところか。


 筆記テストは得意だが、ダンジョンレベルは3程度、

 階層は3階をなんとか経験している。

 ゴブリン討伐せずにアカデミーに入ってきたことになる。


 これはアカデミーでは珍しい。



 ちなみに、大抵のダンジョンは10階ぐらいまでは同一の魔物が出てくる。


 1階 スライム、魔物化した小昆虫

 2階 1階の魔物の強化バージョン

 3階 コボルト、角兎などの小動物系魔物

 4階 ゴブリン

 5階 ゴブリンメイジ、ゴブリンナイト、ホブゴブリン


 こんな感じだ。

 1~3階は比較的スムーズに進む。

 最初の難関が4階のゴブリンだ。


 ゴブリンは子供のような大きさで

 皮膚は緑、腹が大きく出ており、顔は醜悪そのもの。

 日本でいうと、妖怪の餓鬼、

 あれが魔物化したような格好をしている。


 集団生活を営み、言語活動を行う知性が認められるものの、

 その行動には知性が感じられない。


 人間を見れば超攻撃的な姿勢を見せ、

 劣勢だろうと激しくこちらに挑みかかってくる。



 問題は3階と比べて攻撃力が格段と上がることだ。

 子供程度の大きさにもかかわらず、

 力は人間の大人より強い。

 しかも残忍で、ある程度の集団行動を取る。

 だから、気の弱い人は気後れしてしまうのだ。


 もう一つは、彼らが人型であるということだ。

 魔物と言えども、人間に近い肢体を持つ。

 そのような存在に攻撃を加え命を奪うことに

 抵抗感を覚える人がいる。


 そういう人たちはダンジョンを諦めることになる。

 3階までの魔物では落とす魔石がしょぼくて

 その収入では暮らしていくのが難しいからだ。



 ちなみに、魔石の売値は冒険者ギルド基準で

 1階 スライム魔石     1s

 2階 強化スライム    10s

 3階 コボルト、角兎   50s

 4階 ゴブリン     500s

 5階 ホブゴブリン  1000s


 一人でゴブリン10体程度討伐すれば5000sの収入が。

 これで最低クラスの個室の宿屋2000s程度と

 3食にありつけ、さらに回復薬等に費用を回すことができる。


 これが3階までだと、子供のお小遣い程度にしかならない。

 特に角兎は頭に鋭い角がついており、

 気を抜くと致命傷を負う。


 命を張ってようやく50s。

 20体やっつけても1000s。

 割が合わない。


 ゴブリンを討伐できる、というのは、

 冒険者にとっては最低限の基準といっても良い。



 とにかく、一応、班編成は終わった。


 ちなみに、俺に話しかけてたクラス委員長のジル。

 性格は明瞭活発で、フレンドリーだ。

 すぐに人の輪ができるタイプである。


 しかも長身だから、女学生を中心に

 クラスメイトが群がっていた。

 ある種、宝塚的人気がありそうだ。


 委員長に指名されたということは、

 入学テスト基準でE組のトップだしな。


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