第6話 次の日

【次の日】


 次の日の朝、教室に向かう。

 あの3人が教室の掃除をしていた。

 俺が命令したからだ。


 3人は俺を見かけると、

 途端にペコペコし始めた。


 俺は彼らを制して


「ご苦労さま」


 と軽く声をかけた。


 何人か他にクラスメイトがいるが、

 驚いて俺たちを眺めている。


 その日からはクラスメイトの俺への嘲りの声はなくなった。

 俺は相変わらず大人しくしているのだが、

 以前のようなオドオドしたところがなくなっていた。


「やはり、見せるべきは力だな」


 この国は脳筋国家だ。

 力が尊ばれる風潮がある。



 だからといって、俺に対する冷ややかな視線が減った、

 というほどではない。

 そもそも、俺の力はいじめっ子だけにしか見せていない。


 それに、俺が学年で最下位の成績で入学した、

 という事実があるからだ。


 心の中では、


「補欠合格」

「デブ、チビ」

「根暗野郎」


 この程度の言葉は普通に浮かんでいるだろう。



 さて、このクラスはE組。

 迷宮学園1年のドベクラスだ。


 しかし、劣等生が集まったというわけではない。

 そもそも、アカデミーに合格すること自体が誉なのだ。

 そのエリアでもトップクラスの連中がここにやってくる。


 しかも、クラス分けは入学試験の成績順。

 そんな一時的なものを参考に振り分けられているのだ。

 そもそも、落ちた受験生にもここにふさわしい人物が

 たくさんいたはずだ。


 成績順など、今後どんどんかわっていくんじゃないか。

 場合によっては、優秀な編入生が来ることも考えられる。



 ただ、この時点で相当なレベル差を生んでいるものがある。

 ダンジョンでのレベル差だ。


 公式にはダンジョンには12歳未満は入れない。

 12歳になっても、3階までだ。

 それより下層に行くには、最低でも中卒の資格か

 または16歳以上にならないとムリだ。


 ところが、アカデミーに合格するような受験生の多くは、

 すでにダンジョンの深い層に到達している。


 彼らは貴族や富裕層の子弟であり、

 そうしたダンジョン規則を見逃してもらえるのだ。



 これがダンジョン外でも大きな差を生む。


 ダンジョンでの活動は、

 通常はダンジョン外に影響をもたらさないとされる。


 実際は、ダンジョン内レベルが上がると、

 ダンジョン外でも身体能力が高くなるのだ。


 大幅な向上を示す訳では無い。

 数%~10%程度の向上であるが、

 それでもそれが長期に渡ると大きな差となる。


 差は累進していくからだ。

 例えば、1年で5%の差が出るとする。

 2年目は1.05*1.05で約10%増し。

 3年めは、更に1.05をかけて約16%増しの差となる。


 流石に年月が重なると増加割合が著しく落ちてくるが、

 この年代の数%の差は大きい。


 ただ、低年齢層はダンジョンでの活動を厳しく制限される。

 小学生でダンジョンで活動するケースはない。

 というのは、低年齢層の場合はダンジョン活動が

 マイナスの影響を与えると考えられているからだ。


 だが、12歳になるといわゆる上級国民は

 こぞって子弟をダンジョンに送り出す。

 王族、貴族、富裕層といった連中だ。


 もちろん、護衛付きでパワーレベリングとなる。


 パワーレベリングというのは、

 レベルの高い護衛の助けを借りて経験値を稼ぎ、

 レベル上げ(レベリング)をすることである。


 レベルが低くても、護衛が強大な敵をやっつけてしまい、

 現在のレベルに不相応といえる大量の経験値を獲得するのだ。


 こうして、多くの子弟が大幅なレベルアップを獲得し、

 それに伴い、ダンジョン外でもその影響を享受するのだ。



 アカデミーには多くの貴族や富裕層が入学してくる。

 元来、そうした層はもって生まれた素質の高いものが多い。

 ステータスの高い者同士で婚姻を繰り返すのだから。


 さらにダンジョンレベリングで強化されていく。


 だから、アカデミーでも一般庶民は少ない。

 国民の99%が庶民であるにも関わらず、

 アカデミーの4分の3は上流階級出身だ。


 ここアカデミーでも、上位を上流階級出身者がほぼ独占する。

 多少誇張して言えば、上流階級の殆どは受験した段階で合格する。


 アカデミーの定員150名のうち上流階級で埋まらなかった定員を

 庶民が埋めていく。

 だから、E組はほとんどが庶民階級だ。



 俺にイジメを繰り返していた奴らの親は貴族に属する。

 しかし、士族、つまり騎士階級である。

 一代限りの誉であり、子どもは栄誉を継ぐことができない。

 つまり、子供たちはほぼ庶民まっしぐらだ。


 しかも、彼らはドベクラスに所属してしまった。


 いじめっ子らはコンプレックスが邁進して、

 下に横柄になり、上に卑屈な態度をとりがちだ。


 いじめっ子たちは俺に横柄だっただけではなく、

 他のクラスメートたちにも傲慢に接していた。

 だから、彼らはクラスで浮きつつあったと言えるだろう。



「ジョエル、彼らになにかしたの?」


 そう聞いてきたのは、E組のクラス委員に指名された

 ジルだ。


 平民出身ながら、長身の優等生顔をした美少女だ。

 前世のエマ・○トソンに若干の丸みを加えた少女である。


「いや、何も」


「そんなことないでしょ。個別訓練室で彼らとあなたが何かしたって噂が出てるわよ」


「彼らも話し合うと、物分かり良かったよ」


「ふーん。まあいいか。彼らの態度はちょっとE組で浮きつつあったからね」


「大人しいもんだよ」


「そうね。あなたって、ひょっとして見かけと違うのかもね」


 いや、俺はチビデブピザの劣等生だよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る