第5話 イジメには正当な反撃を

【イジメには正当な反撃を】


 聖女候補とアカデミーの正門まで同行し、

 そこで分かれる。


 これも俺がイジメにあった原因の一つだ。

 まず、彼女がA組の生徒で学年3位で入学してきたこと。

 しかも、回復魔法を発現し将来の聖女候補に祭り上げられている。


 つまりエリート中のエリート。


 その上に、美貌の持ち主。

 前世にアナスタシア・ベルスコワという美少女がいるけど、

 彼女を柔らかくして東洋成分多めにしたのが、この聖女候補。


 この世界は美男美女が多いのだがその中でも目の引く美しさだ。

 笑顔の清潔さに惹かれて目がハートの男子多し。


 その彼女と登下校する俺は彼らの怨嗟の対象となっている。


「俺、ロレーヌと登校したのは3回。下校は1回だけ。それでも彼らのアンテナに引っかかったのか」


 いや、入学式で一緒に登校しただけでも

 彼らのアンテナにひっかかったのだ。

 入学時からすでに彼女の追っかけが彼女の門前に待機していた。

 俺の姿を見てブーイングが起きたもんな。



「ロレーヌとはいろいろ釣り合わないんだよな」


 俺の学力と容姿。


 俺の学力は既出の通り。

 アカデミーでは底辺の底辺である。


 そして、容姿。


 俺の両親は自分で言うのもなんだが、かなりの美男美女だ。

 俺の1個下の妹も随分と可愛い。


 で、俺。

 なぜだか、チビピザデブ。

 身長160cm、体重95kg。


 父親は190cm、90kgの筋肉質。

 母親は170cm、55kgの痩身。

 妹など150cm、40kgの発育途上。


 俺の目は脂肪に埋もれているし、

 体も脂肪でタプンタプンだ。

 なぜなんだ。



「太いのはまだいい。問題は身長なんだ」


 この世界の貴族の世界では身長が高いほうが尊ばれる。

 これも見栄え重視の世の中だからだ。


 軍隊の号令をするには背の高いほうがいい。

 政治家もそうだ。

 リーダーたるもの、背が高いほうが民衆に言うことを聞かせやすい。


 だから、男子貴族の平均身長は180cm前後ある。

 庶民は170弱程度だ。


 その中で、俺の身長は160。

 平民の間では身長の高さはあまり問題ではないが、

 ここアカデミーは貴族の子弟が多い。

 身長がどうしても話題の一つになりやすいのだ。



「もうさ、初日から意地悪な奴らのせいで落ち込むし、どうみても俺、陰キャになっちまったよな」


 チビデブと根暗なイメージの組み合わせは最悪だ。


 元々、E組の学生は他のクラスから馬鹿にされる。

 その鬱憤を俺に晴らすかのように、イジメが加速。


 そして、ついには殺人一歩手前にまで来てしまったのだ。



「(どうにかしなきゃ)」


 俺がこの場所に転生した理由。

 そういうものがあるのかどうかはわからない。

 しかし、このままでは身体的にも精神的にも破滅まっしぐらだ。

 ここに居場所を作らねば。


 思い出せ。

 この世界の掟を。


 この世界は、前世日本よりもずっと過酷だ。

 かなりの脳筋世界である。

 弱肉強食が当たり前であり、

 やられてやり返さなかったら、どんどんつけあがってくる。


 やられたら、やり返せ。


 これがこの世界の掟の一つだ。

 俺は学園に入学して気持ちが萎縮してしまい、

 そんな大事なことを忘れていた。


 これは俺が強い・弱いとは関係がない。

 強い気持ちを持ち、それを相手に示すことが大切なのだ。

 

 幸いにも、俺には神様?からもらったスキルがある。

 俺は決意した。


「(少しだけスキルを開放しよう)」


 俺のスキル。

 魔素フィールドスキルのもたらすもの。

 身体強化と正拳スキル。


 爆発的な攻撃力を生む。

 それを俺はダンジョン内で確認した。

 このスキルをダンジョン外で披露する。



「おい、荷物持ちがのこのこやってきたぜ」


「なんだよ、あのまま退学すればよかったのに」


「今日も体育館で『修行』するか?」


 イジメの中心人物はこの3人だ。

 俺は彼らをじろりと睨み、


「ああ、もう一度頼むよ。放課後、個別訓練室な」


 アカデミーには数多くの小さめの訓練室が用意されており、

 各自が周りを気にせずに練習できる環境がある。


「あっ?生意気な奴め」


「この場で制裁するか?」


「おいおい、教室で暴力沙汰すれば退学になるぞ。放課後まで待ちな」


「ふん。今度こそは学園から追い出してやるわ」



 先週までなら、彼らのキツイ言葉に俺は下を向くしかなかった。


 でも。

 今は精神的にも余裕がある。

 当たり前か。

 俺は15歳の心とともに、20代後半の心も持っている。

 こいつら、単なるガキだ。


「(うざいとは思う。しかし、制裁しなくてもイジメぐらいスルーできそうだが)」


 とは思うものの、俺は思い直した。

 やり返さないと、ますますエスカレートする。

 それに、彼らのようなイジメっ子は是正すべきだ。

 俺に通用しないとなればその矛先は他にむけられるだろう。

 実際、彼らは他のクラスメートにも傲慢に接している。


「奴らをギタギタにしなくちゃ」


 ◇


「おうおう。よく来たな。部屋はこっちだ」


 彼らに案内されて、個別訓練室に入室する。

 個別訓練室は学生たちが個人レッスンしやすいように

 敷地内に数多く作られた特別室だ。

 

「へっ。荷物持ちのチビデブが生意気にも俺たちに意見しようってか?」


「その面の厚さは評価できるな」


「無謀さに気づいていないようだから、今から教育してやるわ」


「おまえら、ここにおしゃべりしに来たのか?」


「なんだと?」


「その軽いベラをひっこめろよ。口が臭いぞ」


「くそったれ!」


 いじめっ子の一人が不用意に殴りかかってきた。

 うわっ。

 フリが大きすぎる。

 本当に素人レベルだな。


 俺に発現した正拳スキル。

 どうやら、格闘技のセンスもかなり上昇しているようだ。

 俺は奴の拳がこちらに届くまでに冷静にやつを観察した。


「グボッ!」


 俺は奴の拳が俺の顔面に届く瞬間に

 軽く奴の腹に俺の拳をめり込ませた。


「ウゲエエ」


 床にうずくまり、ゲロを撒き散らす汚いいじめっ子。


「なんだと!」


 残りの二人が俺に挑みかかってきた。

 相変わらずフリが大きい。


 俺は右から振りかぶってきた奴に右手裏拳。

 左からの奴にはカウンター気味に左手掌底で顎。

 脱力してやはり軽く相手に合わせる。

 

「グギャ!」「ヘボっ!」


 二人とも床に這いつくばった。

 俺はその隙を逃さず、

 3人に蹴りを入れまくった。


「ウガガ、頼むやめてくれ」

「お願いだ。俺たちが悪かった」

「もう二度としないから」


 そんなことで止める俺じゃない。

 ただ、全力を出すとマズい。

 さすがに生死に関わってくる。


 死なない程度に力を抜いて蹲る彼らを蹴りまくる。

 恐怖を植え込むためだ。

 この世界では普通のやり方である。

 とことん、やり切る。


「ググッ、や、やめてくださ……」


「……」


 やがて彼らは沈黙した。



「ふう」


 俺はそこで息を吐き、

 再び彼らの顔面を蹴り上げて奴らを起こした。


「おい」


「ヒィィ」


「おまえら、今後は俺の舎弟な」


「ヒィィ」


「ヒィィしか言えんのか」


「もう、ゆ、許してください」


「許すも許さないもないぞ。今後は俺の言うことに絶対服従だ」


「…わ、わかりました…」


「逆らったら、もっとひどい目に合わせるからな」


「ヒィィ」


 俺はその時、新たなスキルの発現を確認した。


 威圧。


 じぶんよりも弱いものに対して

 精神的な圧迫を加えるスキル。


 威圧を彼らに加えてみる。

 真っ青だった顔がさらに白くなる。

 床に彼らの体液が広がっていく。


 俺は彼らに回復薬をかけて回復させた。

 回復薬は両親の経営するショップに

 簡易なものが売られている。

 俺はスキルで生成したビー玉サイズの

 魔石と回復薬を交換していた。


「軽く治してやったから、後は医務室で治してもらいな」


 なお、体育館で行われる事柄はほぼ一切が無視される。

 流石に死亡とか肢体欠損に至ると問題になるが、

 それ以外ならば回復薬で治してしまう。


 また、荒っぽいことを目標とする学校であり、

 荒ごとが好まれる土壌もある。


 それにしても、俺も見事にこの世界に適応している。

 前世では虫も殺せないような男だったのに。


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