第4話 ついたあだ名は荷物持ち2

【ついたあだ名は荷物持ち2】


「ところで、ジョエル。聞いたんだけど、先週大変だったんだって?」


「ああ、ちょっとね」


「保健室にかけこまれたって。だから、先週は一人で帰ることになったわ」


「ボディガードがいたろ」


「ボディガードは別、彼女たちはお仕事なの」


「(俺だって、お仕事みたいなもんだけど)」


「え?なに?」


「いや、ひとりごと」


「体、なんともない?」


「ああ。問題なし」


「ていうか、先週まではなんだか暗かったけど、見違えるように元気になった気がする」


 ああ、平常心でいようと思っているのだけど、

 ついつい気持ちの強化が現れてしまうようだ。


 俺は、転生者。

 しかも、チートスキル持ち。


 そのことが俺を高揚させる。

 いや、実際に体が強化されている。


「(なんだ、この身体能力は)」


 俺はそれを週末の実家で確かめた。

 握力がらくらく100kgを超える。

 垂直跳びは1m以上。

 飛んでいるハエがスローモーションになる。

 どこかの剣豪のように、箸でつまめそうだ。


 ダンジョンを攻略する上で発現した身体強化スキルが

 ダンジョンの外でも有効になっている。


 そして、手のひらを上にして両手を体の前に出す。

 精神統一すると、青白い渦が巻き起こり、

 すぐに一つの青い石に収束した。


 魔石だ。


 ダンジョンの外では魔素密度が薄い。

 だから、小指の先程の大きさでしかない。



 ダンジョンはレベル制になる。

 ゲームのような世界だ。

 その世界がダンジョンの外でも展開されるのなら。


「メニューオープン」


 眼の前にメニューが展開される。



 氏名 ジョエル

 生別 男

 年齢 15歳

 HP……

 MP……


 などというステータスのあと、


 スキル

 魔石生成

 魔素フィールド

 身体強化

 正拳

 マルチリンガル



「(魔素フィールド。確かに神様が言う通り、チートスキルだわ)」


 魔素フィールドはダンジョン環境を

 ダンジョン外でも実現するスキルだ。

 このスキルがあるとダンジョンの外でも身体強化がなされる。


 つまり、俺はダンジョン外で通常よりも

 ずっと強化された人間になっている。


 魔素フィールドは魔導具でも実現されている。

 人工魔素フィールド魔導具というやつだ。


 この魔導具の使用は非常に統制されている。

 許可のない人間は使用を厳禁されている。

 破れば厳しい罰則、最悪処刑される。


 この魔導具をダンジョン外で使用すれば、

 そこは無法地帯になるからだ。

 実際、犯罪組織で使うことがある。


 だから、街中にこの魔導具を検知する器械が

 張り巡らされている。


 検知器はかなりの高性能だ。


 しかし、俺のスキルを街なかで使用しても、

 この検知にひっかからない。


 このスキルはいわゆるパッシブスキル。

 スキルに気づいて以来、常時稼働しているようになった。


 それでも、アカデミーでも街なかでも検知にひっかからないのだ。



「(まるで超人ハルクじゃないか)」


 俺の身体強化は常人を超え、

 それ故に週末は体をならすので大変だった。


 りんごを掴むと簡単につぶすことができる。

 ちょっと走れば100m走で世界記録レベルだ。

 バスケットボールならダンク仕放題。


 一時が万事そんな感じだ。


 強化された力をセーブするのに、

 週末をかけて訓練したが、今だに慣れない。

 無意識だと今だにとんでもない力が出る。


 慣れるまでにはまだしばらく時間がかかりそうだ。



「(このスキルってかなりやばいよな)」


 問題はそれだけじゃない。

 こんなスキルを持っていることが周囲にバレたら。

 間違いなく、どこかの組織に目を付けられる。


 国で強制的に働かせられるとか。

 家族を拘束され、犯罪組織に利用されるとか。


 碌でもない未来しか見えない。


「(絶対に隠さなきゃ)」



 隠すべきスキルはもう一つある。


「(魔石生成スキル)」


 先程生成した魔石は米粒程度の大きさだった。


「(時間をかけてみるか?)」


 俺は、集中力の続く限りスキルを稼働してみた。


 目の前、両手の手のひらの上には、

 青白い渦が巻き起こり、その渦が一つの物質に収斂していく。


「(おお、見たことのない大きさになったぞ)」


 野球ボールより明らかに大きい。

 ソフトボールよりも大きい。



 今までに俺の獲得した最大の魔石はゴブリン。

 直径2cmほど。

 売ると500s程度になる。

 sはエスとよみ、1s=1円程度だ。

 だが、大きくなればなるほど、魔石の値段は加速度的に高くなる。

 

 直径10cmの魔石だと、100万sになるという。

 大きくなればなるほど、密度も高まるらしい。


 この魔石はとんでもない大きさだ。

 一体いくらになるんだろう。


「(売れるわけがない)」


 俺のダンジョンレベルでこれほどの魔石を持つ魔物、

 かなりの深度に生息するであろう魔物、

 そんな強敵を俺が討伐できるはずがない。

 というか、そこまでの深度に到達できない。

 実力的にも制度的にも。


 というのは、公式的には12歳でダンジョンが解禁される。

 しかし、3階までだ。

 4階より下層にはいくことができない。


 アカデミーに入学したばかりの人間が、

 ずっと下層に行くことなど誰も信じないし、

 信じるとしたら、いわゆるパワーレベリング、

 誰か強者がそばについていた場合くらいだ。


 だけど、そんな強者は俺の周囲にはいない。

 俺の両親は二人共元B級冒険者だ。

 冒険者というが、この世界ではダンジョンを攻略する人たちのこと。


 彼らの獲得した魔石は最大でも直径10cm程度だ。

 そんな魔物でも彼らは大変な目にあった、

 つまり重傷を負い、冒険者を引退する原因になったのだ。


「(異世界魔法チートハーレムの世界。簡単じゃないぜ)」


 だから、俺はできる限り目立たないこと。

 そのような毎日を送ることに決めた。

 現状ではそれ以外の選択肢がない。



 他のスキルは。


「(マルチリンガル。神様のような自称管理者がコミュニケーションしやすくしてやるって言ってたな)」


 多言語能力ってことかな。

 いまのところは出る場面がない。

 外国に行ったときにすぐに外国語が話せるようになるのだろうか。



「(俺が保健室で目が覚めたとき、やけに体の調子が良かった。あのときにスキルが発動したんだな)」


 以上のスキルは俺が転生者であることを自覚してから

 一気に発動することになったようだ。


 もっと早くから転生者であることに気づいていたら?

 俺はきっと調子にのっていただろう。

 

 スキルの優秀さに本来の実力以上の優越感を感じ、

 嫌な男になっていたかもしれない。


 いや、そんなことよりも、周囲に俺のスキルが漏れて

 今頃は国家機関の実験室かどこかで

 つまらない毎日を過ごしていただろう。


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