第2話 転生を思い出したのはアカデミー入学直後だった

【転生を思い出したのはアカデミー入学直後だった】


 転生したことを思い出したのが、保健室で目覚めた時というわけだ。

 次元の狭間の管理者という老人とのやりとりと

 前世日本のことを思い出したのだ。


 そういえば、あの老人、こんなことを言ってたよな。


「転生したらここや前世の記憶はなくなるからな」


 しっかり思い出してるんだけど。

 イレギュラーで死んでしまったとか、

 天界とかいう管理所はいろいろと粗雑なのかもしれない。



 この世界での俺はジョエル、15歳だ。

 ラ・シエル・アカデミーの迷宮学園1年。

 入学したてだ。


 迷宮学園とあるけど、第1にはダンジョン攻略を目的とする。

 ただ、最終的にはダンジョン管理者になることを目的とする。


 ダンジョン管理は、ダンジョンを管理する省庁の管轄で、

 王国、貴族領、教会領、市議会領などのトップ省庁だ。



 この世界は文明レベルが前世の中世程度だ。

 それを除けば、前世とさほど変わったところはない。

 スマホとかテレビとか車とかいった便利グッズのない世界だが、

 日々の営みは前世と同じようなものだ。

 

 ただ、前世と大きく違うことがある。

 この世界にはダンジョンがあり、ここが不思議の空間なのだ。

 ダンジョンに入るとレベル制になる。

 ゲームのようになるのだ。


 地上とは全然違う強靭的な体を持つようになり、

 魔法もバンバン使えるようになる。

 逆に、ダンジョンから外に出ると、強靭な肉体も魔法も消えてなくなる。

 ゲームの世界から普段の生活に戻るわけだ。


 

 ダンジョンでは魔物が湧く。

 魔物をやっつけると消えてなくなるのだが、

 そのかわりに魔石を落とす。


 この魔石がこの世界の仕組みを激変させた。

 前世でいうと、石油に相当する。

 石油はエネルギーの元であり、

 化学繊維とか合成樹脂とか多方面に利用される。


 魔石もそうだ。

 エネルギーの元となり、様々な製品の原料となる。


 そして、ダンジョンから外へ出ると、今まで通りの普通の生活になる。

 ダンジョンで獲得したレベルは奥にひっこむ。

 再度ダンジョンに入ると、前回の続きでレベルが復活する。



「あら、目覚めたのね?どうかしら、体調は」


 白衣を着た女性にそう尋ねられる。

 察するに保健室の先生かなにかだろう。


「問題ないです」


 俺は全身に意識を張り巡らせ、

 寝たままながら、体を簡単に動かしてみた。


「おきあがれるかしら?」


 俺は上半身だけ起き上がり、フンフンと調子を確かめてみた。


「問題ないです」


 というか、以前よりもずっと体の調子がいい。


「入学したばかりで練習に精を出すのもいいけど、程々にね」


 段々と分かってくるのだが、

 この学園では少々の傷とかは問題にならない。

 骨折程度ならば、回復薬で瞬時に治してしまう。

 気絶程度はここでは日常茶飯事で、大事にはならない。


「じゃあ、しばらく休んだらもういいわよ」


 軽く言われて俺は寮に戻ることになった。

 寮はアカデミーの学生全員が入寮することになっている。

 もちろん、俺も寮生だ。



【ラ・シエル・アカデミー】


 この世界では

 6歳で小学校に入学。

 小4まで基礎的な事柄を学ぶ。

 小5・6は高等小学校。

 中学校は3学年。


 そしてアカデミー。

 前世だと大学に相当する。


 いずれの学校も授業料は無料だ。

 アカデミーだと寮費とか食費も無料だ。


 ただし、高等小学校からは入学試験がある。

 これが厳しい。

 合格率はいずれも10%以下。

 

 結局、アカデミーに合格する確率は千人に一人程度となる。


 アカデミーと名のつく学校は、ここフローレンス王国には3つしかない、


 首都ルルド・アカデミー魔法学園

 ストラス・アカデミー魔導工学園

 ラ・シエル・アカデミー迷宮学園。


 これに首都にある王立騎士団学校、

 この4つが王国のエリート養成学校とされる。


 (他の特殊な学校として教会系の聖伝導学校がある)


 4つの中でも迷宮学園が花形とされる。

 迷宮、つまりダンジョンがこの世界を支えているからだ。



 学園の敷地は非常に広い。

 2km四方程度の広さがある。


 その広い敷地は結界で覆われている。

 相当程度の魔法攻撃、物理攻撃両方をシャットアウトする。


 4人の守衛に守られた正門をくぐると、素晴らしい庭園が目に入る。

 シンメトリーの幾何学的庭園。

 1年中美しい花で彩られるが、特に春は美しい。


 その庭園の向こうには、

 ベルサイユ宮殿のような3階建てのコの字型校舎が。


 3階建ての豪奢な校舎だ。

 レンガ張りで、この世界では高価なガラス窓がふんだんに使われている。


 この校舎には広い体育館がいくつか併設されている。

 壁は物理・魔法への強い耐性がある。

 個別訓練室といって、個人単位で訓練が行えるよう、

 小さな練習室も数多くある。


 校舎の遥か後方には寮がある。

 平日だと学生はここで寝泊まりする。

 俺は家が近いので、週末は家に帰る。



 迷宮学園は定員1学年150名。

 それが3学年450名弱。

 (退学・編入がある)

 さらに研究室やら教職員やらがいて、

 ここのアカデミー全体では1000名ほどがいる。


 合格した150名は30名ずつ5クラスに分かれる。

 クラスは上からA⇒Eへの能力別。

 1年は入学テストにより配されている。


 俺はEクラスである。

 ドベクラスだ。

 しかも補欠合格であり、補欠合格は俺しかいない。

 つまり、学年で俺が最下位であることを、1年全員が知ることとなる。


 王立アカデミー迷宮学園は王国で最高峰である。

 そこに合格した時点で誇るべき成果である。


 しかし、それは外部からみた場合。

 中にいれば厳しい格付けチェックがなされる。

 A~Eというクラス差別も厳しいが、

 学年でドベという評価には学生からの厳しい視線が浴びせられる。


 格付けは卒業後の評価につながる。

 首席合格などとなれば、エリートが約束される。

 首席でなくとも、3年A組在籍のまま卒業すれば、

 エリートの一員として評価されていく。


 もちろん、卒業後も厳しい競争が待っている。

 だが、王国のトップクラスの組織に入るには

 まずはアカデミーの成績が求められるのだ。


 アカデミーでの厳しい競争は生徒の格付けを生む。

 それがそのまま彼・彼女の学園での位置づけとなる。


 クラスであれば、AクラスとEクラスでは天と地。

 Eクラスは底辺クラスである。

 就職時にも曇った眼鏡で見られることになる。


「補欠で受かったが、俺の位置づけは最下位。Eクラスのドベ。つまり底辺中の底辺ってことか」


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