可愛いだけでスイマセン
茉莉花-Matsurika-
第1話 ざまあみろ
スパーン・・・
左利きのエリカの腕が振りかぶって私の右頬を打った。住宅街のマンションに響くような音がしてすぐに涙がでてくる。
芦屋市朝日が丘町は六甲山の山を切り開いたような坂の多い街には住宅地が広がり、国際色豊かな人種がいる。
エリカはバービー人形の様な顔立ちにブロンドの髪色大きな目はグリーンがかり高圧的な態度はみくにの嫌いなタイプだ。いつも両手を腰に当てて喋る仕草はかの有名な金八先生とは程遠くなめらかに日本語をしゃべる口からは命令口調が染み付いている。声も態度も好まないただ年上というだけでこうも偉そうにできるものか。できるだけ近寄らない様にしていたが、親友の真希の誘いで一緒に公園で遊んでいたところでビンタをくらった。
テレビドラマで見たビンタに感化されビンタごっこをしようと言いだしたのはエリカで、優しくやるからと言って真希にはスローモーションかの如く優しく叩き、みくに対しては容赦なく振りかぶった手を頬に叩きつけた。怒りそして痛みで頭はいっぱいになり結局泣くのはみくにだけで、真希は一つ年上のみくにを慰めて二つ年上のエリカを叱り喧嘩の仲裁をすることになった。みくにはこうなる事を予想できたかもしれないが、ビンタごっこを断ることができずにいた事を後悔していた。
「これだからエリカちゃんが嫌いなんだよ。みくににはいつも冷たくて、真希ちゃんと遊びたいなら二人で遊んでよ!エリカちゃん大嫌い性格悪いから大嫌い」
「ごめんね、みくに」
謝るならやらなきゃいいのに。頬の痛みで涙がとまらないみくにはエリカに日頃の思いをすべてぶつけて公園を離れた。泣き顔のままでは家には帰れない、かといって公園にはいられない。泣いていることもその原因も誰にも知られたくない。泣くことは恥ずかしい事で悔しくても誰にも知られずにいたい。
真希とみくには学校から帰ると毎日の様に一緒に過ごしていた。高級マンションではないほうのマンションに住むみくにと真希は高級マンションに住んでいないにも関わらず自由に行き来することができる。高級マンションには特別なものがある。高低差のある土地にマンションを建てたことでエレベーターは斜めに上下するハイクオリティのものだ。オートロックは外扉と内扉の二つあるが斜めに上下するエレベーターは学校で話題になりパスワードは学校中で噂になっていて解除は容易にできた。
泣きながら家に帰るのがしゃくになり、一人で高級マンションへ入るみくにを真希が追いかけてきた。
「行くの?いつものとこ?」
「うん、今日は穴に入る」
「わかった、じゃあ真希も行く」
決意を聞いた真希はみくにと共に高級マンションに向かった。あの事件から、疎遠になったエリカは2年も経つと激変していた。背が伸び横に大きくなった巨体に、歯列矯正の銀の口元を持ちバービー人形からずいぶんとかけ離れた容姿になっていた外国人さながらの成長という名の変異だった。あれからみくには一言もエリカと言葉を交わしていなかったが、エリカの姿を見つけると、勝ち誇る勝者の笑みを隠す事なくみくには露呈した。
可愛いだけでスイマセン 茉莉花-Matsurika- @nekono_nomiso_
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