第6話

捕まえた小型地動系魔獣は、子・地動虫(ワーム)、子・土竜魔獣、

幼体・高硬度甲虫だ。

高硬度甲虫の幼虫は少し育ててみたくもあるが・・・従魔術とかないのかな。

まあ、この世界の魔法原理でも従魔術は可能だろうが、魔王や龍級の魔力でも

中型魔獣1匹を何日か従魔に出来るだけで終わるんだろう。

とても現実的な魔法ではないな。

どうにもならないことはさて措き、殺虫剤や土竜魔獣が嫌がる薬を手っ取り早く

作ってしまいますか。

まずは、どういった効果が必要かを考えよう。

1,小型地動系魔獣が嫌がったり、死んだりする効果がある。

2,広範囲に効果があり、持続性もあるモノ。

3,特殊だったり希少(レア)だったりする素材を使わないモノ。

4,できれば、村の周辺にある植物。

5,雨風の影響をあまり受けないモノ。

6,なにより、畑の作物に影響がないモノ‼

これくらいかな?

2~6のどの条件もクリアしていたら最高だけど、最低2つクリアしていれば、

実用段階には持ち込めると思う。

素材集めから始めないといけないのは面倒だが、仕方ないな。

サボるための努力は仕方ないと割り切って、俺は周囲の探索を開始した。


結果から言おう・・・何も、なかった。

何となく分かってはいたことだが、はてさてどうしたものか。

いや、違うな。

魔法の研究の時もそうだったが、固定観念を捨てなければならない。

俺としたことが、大切なことを失念していた。

と言うことで、考え方を変えよう。

小型地動系魔獣は、今の所害獣でしかない。

だが、需要を生み出すことに成功すれば、こいつらを殺すことにも大きな

意味が出てくる。

しかし、小型地動系魔獣の素材はあまり使い道がないと言われている。

家畜魔獣用に捕獲する、と言いたいところだが、それは不可能だろう。

そもそも、家畜魔獣は専門の調教師が子・魔獣に刷り込みを行った上で飼育する。

そして、家畜魔獣の増やし方は自然から捕まえてくるのではなく、牧場内だけで

増やす。

新種か余程需要の高い魔獣でもない限り、家畜魔獣を買ってくれる魔獣農家は

存在しない。

この村での飼育も現実的ではない。

そもそも、家畜魔獣を飼うには専用の調教師が法律上必要だ。

現在、魔帝国で家畜魔獣牧場を経営しているのは

国営魔獣牧場、ダルク大商会農業部家畜課が経営しているダルク家畜魔獣牧場、

デ二ール家畜魔獣牧場、

第1畜産都市ソヴィット領主ネイサン・ジョルダーク経営ソヴィット家畜魔獣牧場

の4つらしい。

調教師の試験も、その4カ所で行うのだが・・・受かった者の殆どが、そのまま試験を受けた所に就職する。

そのせいで、調教師を新たに迎え入れることが出来ずに、家畜魔獣業はその4つに

独占されている。

まあ、そんな感じで 家畜魔獣用に捕獲! と言うのは現実的ではない。

では、小型地動系魔獣の価値について研究するのが一番現実的だろう。


では、只今より小型地動系魔獣の価値についての研究を開始する。

とその前に、可哀そうだが生きているこの小型地動系魔獣達は、

屠殺させてもらう。

お前らの素材、無駄にはしないからな。

まずは地動虫(ワーム)から。

子・地動虫(ワーム)、と言うか地動虫(ワーム)自体にあまり利用価値が

ない・・・どうしたものか。

そうだ、アレはどうだろうか。

地動虫(ワーム)は、他の生物のメスを巣に連れ帰る時、一度飲み込んでから

巣へ持ち帰る。

その時、メスが傷つかない用途と獲物やメスが地動虫(ワーム)の体内を傷つけない用途として

『保護粘液』を分泌する。

控えめに言って、保護粘液の匂いは最悪、腐った卵の20倍の悪臭と言われている。

だが、保護粘液自体は有用性があり、地方都市や町、村などでは、自衛のために建物に保護粘液を使うことも少なくない。

無論、消臭効果のある植物や魔獣の素材を使って、最大限に匂いを落としたモノを

使う。

だが、それでも匂いは多少残るし、何より物凄いコストが掛かる。

そこで、俺は少し思ったことがある。

地動虫(ワーム)の臭さは何処から来ているのか・・・と。

もし、生まれつきならどうしようもないが、後天的に染みつくモノだとしたら、

子・地動虫(ワーム)は別に臭くないのではないかと。

俺は勇気を出して、子・地動虫(ワーム)を解体してみることにした。


「臭くない」


これが結果だった。

殆ど無臭、少しだけ・・・ほんの少しだけ‼顔を近づけて嗅いでみても、

何の匂いもしない。

でもだ、本題はここからだ。

地動虫(ワーム)は体内に、消化液袋・保護粘液袋・媚薬粘液袋・麻痺粘液袋・

栄養液袋を持っている。

{地動虫(ワーム)の体内構造解説!地動虫(ワーム)は、細長い体をしており、

成体になればある程度の生き物を丸呑みに出来るようになる。

更に、巣の長や長年生き残った地動虫(ワーム)は、大型の魔獣でも

丸呑みに出来る。

そんな彼らの体内構造は意外と単純だ!体の内側の殆ど全体が、人間で言う胃、

大腸、小腸の役割を持っているのだ!不思議なことに排泄器官は一つもない。

俺が思うに成体の地動虫(ワーム)が臭い理由はそれだと思う。

そして、他の主要器官は管と5袋である。5袋、さっき紹介した

消化液袋などのことだ。

消化液は獲物を溶かす為に、保護粘液は自らの体内とメスを保護する為に、媚薬粘液は苗床の抵抗を少なくさせ子を産むのに適した体にする為に、麻痺粘液は保存食が逃げ出さない様にする為、にあるのだが一緒くたには出来ないので、

地動虫(ワーム)は時と場合によって、体内の液体を管で交換する。

無論、体内の液体を全て袋に仕舞うことも可能だ。それと、栄養液袋は単純に

栄養を貯めておくだけの器官だから、一方通行の管しか通っていない。

以上!喰屍鬼(グール)による地動虫(ワーム)の体内構造解説でした‼}

前世(ニートになる前)の俺は、よく趣味で釣りに行っていた。

そして、釣った魚を捌いていたのだが・・・間違えて胃袋を切ってしまった時の

悪臭、アレは今でも覚えている。

まあ、釣り人である以上、魚が何を食っているのか気になるから、結局は胃袋

切って中身を見るんだけど。

とりあえず、袋とつく器官で臭くなかったモノは、俺の経験上では浮袋くらいだ。

え?何が言いたいかって?・・・はぁ、要は5袋を切って、中の匂いを嗅ぎたくないと言うことだ。

魚の胃袋はまだ分かる、何を食っているのか気になるし、捌く以上、ミスって

切ってしまうこともある。


「はぁ」


仕方のないこと!仕方のないこと‼仕方のないこと‼!仕方のないこと‼‼

よし、気合を入れた俺は、ゆっくりと、一つ一つ袋を開けて匂いを確認する。

『状態異常無効』のスキルがなければ、媚薬効果や麻痺効果のある液体が入っている袋なんて絶対に開けてなかっただろうな。

それは措いといて、袋の中身の見分け方は少し難しい。

成体の地動虫(ワーム)は、前も言った通り腐った卵の何倍も臭い。

たが、袋の中の液体だけはそれ固有の独特な匂いを持っている。

それは、前に成体の地動虫(ワーム)を解体した時に確認済みだ。

恐らく、液体の匂いに個体差はないはず。

匂いが無くても、前回解体した時にどの袋がどの位置にあるかは把握済みだ。

でもまずは、液体を貯めるための容器が必要だ。

と言うことで、村の魔物にお願いして、少しだけ木材を分けて貰うことにした。

この木材と、金属蜥蜴の分厚い皮膚を利用して、樽を作ろうと思う。

少し勿体ないが、鉄がない以上、背に腹は代えられない。

『開発家』のスキルは便利だ。

製造系の職業に就職したことのない俺が、思い描く通りに作りたいものを

作れるのだから。

まあ、知識は自前じゃないといけないけど。

でも、技術が一瞬で身に着くのはとてもありがたいことだ。

そうこうして、数時間もすれば樽を5つ程作り終えていた。


「では」


子・地動虫の解体の続きを行おう。

無論、村の外でだ。

後は5袋を取り出すだけだな。

栄養液袋と媚薬粘液袋、麻痺粘液袋は生殖器、と言っても男性器だけで

女性器はないのだが。

兎に角、尻尾の近くにあるということだけ分かってくれればいい。

消化液袋は下腹に、保護粘液は上腹についている。

地動中の素材は、この5種の液体と酸でも溶けない頑丈な防水性の体内の皮膚だ。

肉は、この世のモノとは思えない程の臭みがある上、ゴムを食べている様な

感触をしているため腐肉を好んで食うような魔獣や魔物しか食べない。

でもまあ、子供から皮膚を回収したところで、使えるだけの量を取るのは

不可能だろうし、今回は5袋だけ集めよう。

それ以外は・・・地面に穴を掘って、埋めよう。

ああ、結局サボることは出来なさそうだな。

でも、素材が手に入るなら一生出来るな!

説明しよう‼俺は何十時間もぶっ続けで、レベリングや素材集めを出来る

質なのである。

今の疲れを殆ど感じない体になった俺は、放って置けば何時間でも

魔獣退治(そざいあつめ)を行うだろう‼


「残り期限は三日か、頑張れば樽一つは一杯に出来るだろう」


そう、既に俺は素材収集モードに思考回路を切り替えていた。

そうして俺は四日間、道具(アイテム)製作と小型地動系魔獣の素材集めに

没頭したのだった。

そして、出発の日。


「なんで、四日も休める日がありながら、村に来る前よりやつれた顔を

しているのですか?」


麗香に呆れられている、主人公とフィアナ・・・。

端的に言えば、俺は一切休まずに道具(アイテム)制作と素材集め、その他諸々に

没頭していた。

フィアナさんは、軽い気持ちで大鬼(オーガ)の相手をしたらしいのだが、

考えが甘かった。

大鬼(オーガ)は絶倫だ。

それだけならまだよかったのだろうが、この村の大鬼(オーガ)達は日中の警備と夜の警備に別れている。

つまり、大鬼(オーガ)が警備の交代を行っている時しか休みがない状態で、

ずっとヤッていたわけだ。

淫魔(サキュバス)なら大丈夫な様に思えるが、フィアナさん曰く

「無理して食事したら、お腹壊したり、吐いたりしてしまうでしょ?

淫魔(サキュバス)も同じよ」

とのこと。

それに、淫魔(サキュバス)の食事には激しい運動が付いてくるしな。

とりあえず、馬車で移動するから良かったものの、徒歩での移動なら俺達二人とも

ぶっ倒れていたな。

でも、俺に関しては、樽一杯の、消化液、保護粘液、媚薬粘液、麻痺粘液、栄養液を手に入れた上地動虫(ワーム)以外に、子・土竜魔獣の毛を毟(むし)った、

残りの頑丈な皮膚に利用価値を見出すことに成功した。

泥の中でも、硬い土の中でも、活動できる様に進化した土竜魔獣の皮膚は、防水性能と強度に優れており地球で言う、頑丈なゴム手袋?の様な物が作れる。

あと、肉が柔らくて美味しい。

幼体・高硬度甲虫は・・・カブトムシの幼虫をイメージしてもらえればいい。

全く利用価値が無いように思えたが、亜人種の中の肉食蟲族や食蟲獣人族が、

幼体・高硬度甲虫を絞った汁を好んで飲むらしい。

種族によって食が異なるのは理解できるが、その食文化を体験したいと思うことは

一生ないだろうな。

とまあ、有用性のある液体6種と柔らかく美味な肉、ゴム手袋擬きを入手できた。

それと最後に、俺は村の魔物達に作った道具(アイテム)の作り方と、利用方法を

教えた。

この村に目立った産業はない。

基本的に自給自足だが、それでも生活必需品は都市や町から

買わなければならない。

幸い、この村はテルク樹海の近くに位置しており、一攫千金を狙う傭兵や冒険者が

やって来る。

そうすれば、宿屋と飯屋、道具屋くらいは金を得られる。

今までは、宿屋を経営している村長と、村唯一の飯屋の店主、そして道具屋の店主が金を折半して月に一度ベベールから生活必需品を買い付けていたらしい。

だが、冬になって冒険者や傭兵が来なくなる12~2月の間は、殆ど利益がない

状態になる。

だから、村の警備と同時に行える上、それなりに稼げるであろう方法を、

お世話になった村の魔物達に教えたのだ。


「喰屍鬼(グール)さん、私達に貴重な知識を与えてくださり、

ありがとうございました」


馬車になる前に、ゾルさんが俺なんかに対して御礼を言ってくれた。

別に大したことでもないのに、律儀な人だ。

だから俺は

「大したことはしていないので、気にしないでください」

と言っておいた。

恐らく、これが悪魔(ふたり)だったのなら、礼を言うどころか、更なる知識を求めて来ていただろう。

そう考えると、やはりゾルさんは良い人だ。

まあ、人間との戦争が落ち着いたりして、自由になったら、無料で魔獣の素材が手に入る此処に戻って来るだろうし、この村の魔物達に恩を売って損することは

ないだろう。


「ゾルディアス殿、御世話になりました。村の方々にも私達が感謝していたことを

お伝え下さい」


麗香さんはそう言うと、ゾルさんに頭を下げた。

俺とフィアナさんも続けて頭を下げる。

そうして、俺達は馬車に乗り込んでベベールへと向かって出立した。

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