第7話
俺は、馬車で移動する5日間の間に、現状整理と今後についての考えを
まとめることにした。
俺は現在、人間との戦争に備える為に、魔王のいる魔帝都に徴兵されている。
ラノベの主人公なら
「面倒事に巻き込まれたくないし、人なんて殺せないよ」
と言っている所かもしれないが、俺は違う。
戦争では多くの人間や魔物が死ぬ。
つまり、愛すべきモン娘や人間の女性が死んでしまうのだ!決して
許されないことだ。
幸い、俺は小さい頃から歴史について、軽い趣味程度だが研究を重ねてきた。
この世界は、地球に比べて歴史が浅い。
俺は地球の歴史から多くの知識、疑似経験、そして思想を学んだ。
どういった軍隊が勝ち、どういった軍隊が負け、どういった国が勝ち、どういった国が負けたかそして、超大国と言われた国がどの様な滅び方をしたか・・・。
俺達が魔王軍に集められているのは、単純に富国強兵の意味もあるが、
一番の理由は新たな魔王様の側近を、決めることにあるらしい(麗香さん曰く)。
集められた魔物達が、試験を受け、最後まで残った者を魔王様は自らの
側近にするらしい。
何でも、魔王軍は人手不足だとか。
少し言い方がアレかもしれないが、俺は既に魔帝国をどう導くべきかを決めている。
そしてなぜ俺がそこまでするのかと言うと。
それが俺の夢だったからだ。
特に、半分鬱になってからは、そういったことを成すのに強く憧れる
様になっていた。
昔、悪ガキと一緒に遊んでいたことがある。
幼稚園から小学校中学年くらいにかけてだ。
最寄りの駅まで車で1時間かかる様な田舎に住んでいた俺は、近所の人間としか友達になれず、それがたまたま性根の腐った悪ガキだったのだ。
小さい頃から歪んだ人間と関わった俺は、案の定まともな人間にはなれなかった。
その上、小学校高学年の時・・・俺は悪ガキ達からイジメを受けることになる。
あれだけ長い間一緒にいたのに、あいつらは容赦なく俺をイジメた・・・否、俺は最初から友達ではなかったのだ。
奴等にとって、俺は都合のいい人間でしかなかった。
約束はよく破られていたし、金を取られたこともある。
あの頃は必至だった。
人間と関わりたい、捨てられたくない、馴染みたい、仲間でありたい。
社会と言うモノの中で生きる、人間の本能みたいなモノだったのかもしれない。
このことに気が付いた俺は、人間不信になって、人間と関わることに抵抗を
持つ様になっていた。
否、他にも色々ある。
常識が周りの人間と大きく違っていた。
考え方や、行動、趣味、兎に角色々だ。
子供は幼少期の経験から、人格や考え方を織りなす。
そう、子供の頃に植え付けられた俺の 経験(トラウマ) は、大きな
傷跡となり、俺を蝕み続けた。
最初は、周りの人間を憎んだ。
何故理解されないのか、何故俺の行動を否定するのか、俺の何が間違っているのか。
中学校の頃は、毎日の様に親に八つ当たりをする。
そんな日々を送っていたある日、ふと、全てを諦めていた。
過去に憤っても、他人に理解を求めても、親に八つ当たりしても、
理想を追い求めても、その何もかもが無意味であることに気が付いた。
今思えば、この時に完全に鬱になっていた。
俺の周りにいる全ての人間を嫌い、現実から逃げる。
そう、俺は現実から逃げた。
歴史とアニメ、漫画にゲーム、これらが俺の生きる世界で、現実になっていた。
これらから、俺はあることを・・・否、多くのことを学んだ。
そうして、俺の行きついた夢が
『勇者パーティで、ヒロインと主人公を庇って死ぬ、メインキャラクターAに
なること』
無論、そうでなくとも、帝国からの侵攻軍を退けて死ぬ、軍団長Aでもいいし
王国内の腐った貴族と戦って、自らの命と引き換えに味方を勝利に導く
高潔な貴族Aでもいい。
まあ結局は 『理想の死』 を望んだわけだ。
そして今度の人間との戦争では、俺は死ぬ気で 両者 を救って見せる。
だが、魔帝国を豊かにしてから死ぬつもりだ。
俺の持っている知識と、地球の『失敗の歴史』を参考に、俺の理想の
国家を創り上げる。
不幸な人間を、極限にまで減らした、多くの幸福に満ちる世界を・・・自らの命と引き換えにしてでも、創り上げて見せる。
とまあ、長い話になってしまったが気にしないでくれ。
狂人の戯言と思ってくれて構わない。
要は
「異世界転生して脱ニートに成功したから、俺のやりたい様に、
自由に生っきるよ~‼」
てことだ。
俺のやりたいことは、普通の主人公と大きくかけ離れているがな。
大きな問題はないだろう。
それはさて措き、馬車での移動はとても快適だった。
何故なら、べネス村以降からは、魔獣の襲撃が殆どないからだ。
時々、D級魔獣が襲って来るが、交代で退治している。
そして、数日間馬車に揺られると、ベベールに到着した。
「毎度」
運賃は3人で金貨三枚、魔王様の親書を見せても金貨二枚までしかまけて
くれなかった。
{大金貨1枚=10万円:金貨1枚=1万円:大銀貨1枚=5千円:銀貨1枚=1000円:
大銅貨1枚=100円:銅貨1枚=10円:小銅貨1枚=1円}
麗香さん曰く、これで手持ちのお金が銀貨8枚になってしまったらいしい。
ははは、8千円だって、ははは・・・笑えねえよ。
けど、冒険者協会に行けば解決するはず。
「じゃあ、早速冒険者協会に行き・・・」
ましょうか、と俺が言おうとするのを、麗香さんが
「ません」
と遮って来た。
何でも、先に町長であるカエラ・フォン・ベベール男爵に挨拶をしに行かなければならないらしい。
・・・貴族に会うなんて、俺には出来ないぞ!
日本の礼儀作法すらままならない俺が、他国の礼儀作法なんぞ出来るわけないぞ!
だが、行かなければ行かないで、不敬罪に当たってしまうんだろうなぁ~。
まあ、一応超辺境の村出身だし、多少は許してもらえるよね?ね?
不安しかないまま、俺は半ば強制的にベベール男爵邸へ連れていかれた。
カエラ・フォン・ベベール男爵の種族は、亜人種:肉食蟲族・蜘蛛人で
あるらしい。
アラクネではないのか?と言う疑問を持つ者もいるだろうから、説明しておこう。
アラクネはモン娘・・・つまり、女性のみに当てはまる。
だが、蜘蛛人には男性も女性も存在する。
故に、蜘蛛人と言われているのだ!
でも、見た目はまんまアラクネだ。
この世界は、俺の知っている異世界物の作品と異なっている所がありすぎる。
固定観念を捨てて、この世界について学ばないと、何も出来ないかもな。
それはさて措き、俺達はベベール男爵邸の応接室に案内された。
麗香さんには、俺はただ黙って隣にいて、麗香さんやフィアナさんの動きを
真似ればいいと言われた。
だが、それでも何かミスを犯してしまわないか、ビクビクしている。
元々、自信のないことや苦手なことには、とことん臆病になる質なのだ。
事実、俺は21歳になっても尚(なお)、一人で電車に乗ったことがないんだぞ!
まあ、ニートに電車も何もないが。
でも、本当に、小さい頃から、まじで、臆病で、超ビビりの
小心者なんだよ‼‼‼‼
内心まじで死にそうなんだけど、嫌だはもう通らないからな。
胃と心臓が締め付けられるような思いをしていると、その時はやって来た。
コンコン、とノック音が響くと共に、扉が開く。
それと同時に麗香さんとフィアナさんが立ち上がった。
それを見た俺は、慌てて立ち上がる。
「ああ、そんな、わざわざ立ち上がらなくともいいですよ」
柔らかい声が、頭上から聞こえてくる。
彼女が、ベベール町長カエラ男爵だ。
美しい、上半身の人間の部分もそうだが、やはり人外娘である所が良い!
地球では人間種以外いなかったから、俺の持つ趣味が多くの人間に
理解されることはなかった。
だがこの世界では色んな種族がいる。
俺の好みドンピシャの女性が見つかるかもなぁ~。
その点で言うと、麗香さんも俺的にはかなり好みの女性である。
体の所々に残る鱗、龍人に勝らずとも劣らぬ立派な尻尾、フッフッフ・・・
はっきり言って、最高だ。
でも、女性の体をまじまじと観察する程の勇気は俺にはない。
まあ、俺の女性の好みは措いといて、麗香さん達の話に集中しよう。
「まあ、わざわざ挨拶しに来てくれたの?麗(レイ)ちゃ・・・麗香さん」
ん?今、麗(レイ)ちゃんって言いかけなかったか。
二人の話を聞いて行く内に、色んな事が分かった。
1,二人は恐らく幼馴染だ。カエラ男爵は明確なことを言っていないから断言は
出来ないが、麗香さんは一応貴族だったようだ。
2,宿代をケチるために此処に来たようだ。
コネを使うことは否定しないが、宿代くらいS級・A級の魔獣の魔石や素材を
売れば、容易に手に入るだろうに。
3,一応幼馴染と言うことで、町に寄ったからには挨拶しなければ、と思って此処に
来たらしい。
これらの理由に、プラスしてもう一つ、これは旅に関係することだった。
「カエラ男爵、ジブリエル殿に魔帝都付近まで運んでもうらうことは
不可能でしょうか?」
俺は最初、麗香さんの質問の意味が分からなかった。
だが、フィアナさんがこっそりと何のことかを説明してくれた。
ジブリエル・フォン・ベベール男爵は、カエラ男爵の弟君らしい。
魔物の国では、異種姦が結構当たり前、例外はあるものの、基本的にこの世界はどの種族と交わろうと子を生すことが出来る。
無論、種族同士の相性などで多少の、妊娠の確率に変動はあるが。
基本的に魔物は、卵胎生(らんたいせい)か胎生で子供を妊娠するらしい。
だから、兄妹で種族が違うことも珍しいことではない。
簡単に言えば、カエラ男爵の弟君、龍種:竜人ジブリエル男爵に竜人が生まれ
持っている『竜化』のスキルで、魔帝都まで運んでほしい、と麗香さんは
頼んでいるらしい。
ついでに、龍人と竜人には明確な差がある。
龍人は、人間と龍との純血で、龍・純粋な人間・龍人、以外の血は混じっていない。
もし、龍や龍人が他の種族と交わってしまうと、二度と龍人は生まれなくなり、
竜人が生まれることになる。
龍人は『龍化』のスキルを、竜人は『竜化』のスキルを生まれ持っているが、
そのスキルの強さが格段に違うらしい。
まあ、『竜化』でも十分に強いし、小型の魔物3体を運ぶくらい造作もないらしい。
だが、カエラ男爵は何かを悩んでいる様だ。
そして、暫く考えに耽っていた彼女は
「良いですよ、私から弟・・・ジブリエルに掛け合いましょう」
と言ってくれて、俺達は安堵したが・・・それも束の間、カエラ男爵は続けて
「条件付きでですが」
と言ってきた。
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