第5話
森からべネス村までは意外と近いらしいのだが、毎時約3回の魔獣の襲撃に遭う。
素材も魔石も肉もウハウハなのだが・・・如何せん体力的に辛い。
いや、魔獣の襲撃は一瞬で撃退出来るのだが、鬼人の如き二人組の、ハイペースな
行動に俺の肉体がついて行かない。
二人とも、連日の戦闘にも疲れず、休憩も一日に4回だけ。
あらゆる状態異常を克服している俺でも、疲労には勝てない。
でもな!、でもな‼、でもな‼!、魔獣の素材の回収を行うのは毎回俺だけなんだぜ!
まあ、殆どの魔物は二人が倒して‼それを俺がありがたく使わせていただく
わけだから!
回収の役割は俺が担うのは!納得できますが!
でもな‼‼毎時3回だぜ!魔獣の襲撃ぃぃぃぃぃぃ!
歩いて、戦って、死骸を回収して、歩いて、戦って・・・の繰り返し。
二人の場合、歩いて、戦って、休んで、歩いて、戦って・・・の繰り返し。
無論、二人の体力自体も大概化け物なのだが、休憩量が圧倒的に違う。
この労働環境に文句を言いたい!・・・のだが、俺が二人に物申せる程の
発言力はない。
俺→→→→→→→→→→フィアナさん→→→麗香さんの順番で発言力が
異なっている。
魔人であるフィアナさんの発言力が、亜人である麗香さんより下なのは謎だが、
そこを除けば当然の結果と言えてしまうだろう。
「喰屍鬼(グール)殿!まだですか?」
麗香さんの一言に、俺は背筋をピンと伸ばし、大きな声で はい と返事を返す。
そして考えることを放棄して、全力で倒した魔獣の死骸を回収する。
えっ?異空間道具箱(アイテムボックス)の容量が異常じゃないかって?
・・・気にすんな‼
そうして一週間後、無事?にべネス村に着くことが出来た。
村に近づくほど魔獣の襲撃は減っていったが、その分二人の移動速度が
上がってしまった。
あの二人、容赦がないんだよ。
麗香さんは淡々としているし、フィアナさんはすぐ煽ってくるし。
ヘロヘロになりながら二人から離れない様に歩いていると、村の入口に到着した。
「おお、御二方、御無事だったのですね」
二人が立ち止まったかと思うと、低い声が頭上から聞こえてきた。
俺がゆっくりと上を見上げると、そこには角のある巨人が佇んでいた。
大鬼(オーガ)族だろう。
身長は4m程度、彼が背に掛けている鞘にしまってある剣・・・否
それは剣と呼ぶには、大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた!
ああ、結局ベ〇セルク読み終わらないまま転生してしまったな(涙)。
否、色んな漫画や小説を読み終われなかったし、あの作品はアニメ化
決定してたのに。
クソ‼好きなゲームのストーリーも完結出来ないままだったな。
何だかんだ、異世界に来てから9年と半年が過ぎた。
あまり良い思い出もないし、異世界転生してからはこちらに順応するために必死
だったから、前世のことなんて思い返したりもしなかった。
でも、アニメや漫画、ゲームがないのだけは辛い?かなぁ~?よくわからんけど。
なんて、馬鹿なことを考えていると、何時の間にか3人に顔を覗き込まれていた。
「どうしました?」(麗香)
「どうしたの?」(フィアナ)
「どうかされましたか?」(大鬼)
と、三人から同時に声を掛けられる。
スン、と前世でなら気配を完全に消せた俺も、異世界では無理らしい。
見知らぬひ・・・大鬼(オーガ)にガン見された俺は、体が硬直し
「ハイ、ダイジョブデス」
と小声で返事をすることしか出来なかった・・・が、話してみるとめちゃイイ人
だった!
彼は精密には大鬼(オーガ)の上位種、巨大鬼(ビッグオーガ)らしい。
本来の大鬼(オーガ)の身長は2m30から3mちょっと程度とのこと。
だが、頭領大鬼(マスターオーガ)や大鬼王(オーガキング)や
大鬼皇帝(オーガエンペラー)は5m~8m程度の身長をしているらしいぞ!
(例外有)
ついでに、彼の名前はゾルディアス、このべネス村の自警団団長であり、
元魔帝国巨人戦士団の切り込み隊長だそうだ・・・どっかで聞いたことある様な。
存在格は麗香さんやフィアナさんに劣るが、戦闘の力だけなら麗香さんも認める
程の強者。
強面優男?まあ何にしろ、麗香さんやフィアナさんより関わりやすい人であるのは確かだ。
それはさておき、現在俺達は宿屋に案内されている。
理由は、べネス村とベベールの間を行き来する馬車は、週に一度しか
来ないらしい。
前に来たのが3日前、だから4日程この村に滞在することとなるからだ。
ああ、やっと休める・・・と思っていたのも束の間、麗香さんからとんでもないことを言われる。
「喰屍鬼(グール)殿、この4日間は村の方々を手伝ってください」
俺が口を魚の様にパクパクさせて、何か反論しようとしていると、フィアナさんが
追い打ちを掛けてくる。
「残念、提案とかじゃなくて、決定事項だからね!」
満面の笑みでそう言う彼女は、周りから見れば天使の様な存在に思えるかも
しれないが、俺からすれば真の悪魔の笑みにしか見えない。
そしてトドメにゾル(ゾルディアスの略)さんに
「そうですね、村の警備の数が少し足りなかったので、助かります」
と言われてしまった。
悪魔(ふたり)からの命令なら嫌がることも出来たが、ゾルさんの 助かります と言う言葉を聞いてしまった以上、村の警備の仕事を手伝う他ないな。
まあどちらにしろ、悪魔(ふたり)からの命令なら、従う他ないのだけど・・・
ゾルさんの為とした方が気持ちが楽だし、そうしよう。
「ハイ、ワカリマシタ」
と、棒読みの返事を返してから、俺は大きな溜息をついた。
宿屋は魔王様の親書を見せたら、4割引きで使えた。
魔王様スゲー、俺も一つ親書貰えないかな。
どうでもいい話は措いといて、俺が村の警備に当たる時間帯は夜に決まった。
理由は村の中でも戦える体格をしているし、夜中の戦闘経験もあるらだそうだ。
この最辺境の村は、あの森・・・あのテルク樹海から最も近い場所にある。
故に、色んな魔獣が村の中に侵入してくるのだ。
自警団の殆どは大鬼(オーガ)族、村の中の警備に当たっているのは
小鬼(ゴブリン)族らしいのだが10人程度しかいないらしく、かなりカツカツの
状態とのこと。
大鬼(オーガ)族が村の中の警備を手伝えたらいいらしいのだが・・・
足音の騒音問題、戦闘での身動きの取りにくさ等、色々な障害に阻まれて不可能。
その分、村の外周の警備を担っているらしい。
俺は、骸骨人(スケルトン)に生?死?を受けて一つだけ良かったと
思うことがある。
それは、睡眠が不要という特性を持っていることだ。
本来なら日中に寝て、夜中の警備に当たるところだろうが、俺は寝なくても良い!
好きなことを好きなだけ、悪魔(ふたり)から邪魔されず出来るのだ‼
宿屋の部屋、俺だけ安いところ選ばされたから・・・(涙)。
あの悪魔(ふたり)、俺が色んな物を作れるスキルを持っているのを知ってから、
容赦なくあれを作れこれを作れと、無理難題を吹っかけてくる。
化粧品とか、お風呂とか、作れるわけがないだろう‼
まあ、頑張れば作れなくもないと思うが。
せめて魔法陣についての研究が終わってからでないと、厳しいところがある。
魔法陣の性能がどの程度のモノか分からないが、きっといいモノだろう。
魔法陣のことは一旦措いといて、新たな道具(アイテム)製作及び素材の
在庫整理と行こう。
と言っても、未だに道具(アイテム)制作用の道具がないから、あまり凝ったモノは作れないけどな。
魔法がなかったら本当に何も作れていなかったと思う。
でもな~、変形や変化の魔法は消費魔力が段違いなんだよ。
変化という 働き その物の魔法は、最低でも魔人じゃないと、まともに扱えん(例外有)。
兎に角、時間がある内にやれることをやっておかないとな。
素材在庫表
・爆炎土竜{S級低位}1匹
・希少金属蜥蜴{S級低位}2匹
・大毒蛇{A級上位}4匹
・金属蜥蜴{A級上位}3匹
・装甲蟻{集団位A級上位・個体位A級低位}22匹
(群れの大きさによって集団位の上下有り)
・女王・装甲蟻{A級上位}3匹
・守護・装甲蟻{A級中位}7匹
・戦士・装甲蟻{A級中位}8匹
・樹霊(トレント){集団位A級上位・個体位A級低位}26匹
(群れの大きさによって集団位の上下有り)
・長・樹霊(トレント){A級上位}2匹
・魔狼{集団位A級中位・個体位A級低位}14匹
(群れの大きさによって集団位の上下有り)
・長・魔狼{A級中位}1匹
・地動虫(ワーム){集団位A級低位・個体位B級上位}13匹
(巣の大きさによって集団位の上下有り)
・大鯰{B級上位}1匹
・毒瓶改に使った、毒性を刺激し効果を増幅させる植物:毒性刺激草(と呼ぶことにした)。
その他:B級中位以下の魔獣合計78匹+魔獣の卵の殻や植物、魔獣の肉、魔石など。
その内、幾つかの素材は使い終わっている。
簡易手榴弾とベアトラップ改、そして毒瓶改を作るのに使用した。
まあ、毒瓶改以外は殆ど使ってないのだが。
だからこの4日間は新たな道具(アイテム)を作ろうと思っている。
何を作るかは決まっていないのだが。
今日は夜まで素材の整理と、新たにどの様な道具(アイテム)を作るかを
考えることにした。
「では、説明しますね」
今は、自警団の小鬼(ゴブリン)隊隊長である、エディックさんから夜の警備内容について説明を受けているところだ。
『この辺り一帯は、B級中位の魔獣が住んでいます。B級上位の魔獣も稀に村の中に侵入して来ますが、奴らが村に侵入する時は村の正面からしかありません。
でも、正面から村への侵入を試みる魔獣は大鬼(オーガ)の皆さんが討伐してくれますので、我々が対応することは殆どありません。
我々の仕事は、地中から侵入してくる小型地動系魔獣への対応です。他にも、村の外からやってきた冒険者や傭兵が時々問題を起こすのですが、それの対応となります。
この村はベベールの領主様に税を納めてはいますが、騎士団などを村の警護に使ってはくれません。なので、犯罪を犯した者を多少痛めつけても問題へ発展することはないので、殺したり重傷を負わせたりさえしなければ、何をやってもらっても
構いません。それと、小型地動系魔獣は畑や家畜小屋を荒らすので、主に
その辺りの警備を行ってください。』
とのこと。
話には聞いていたが、かなりカツカツの状態で警備を行っているようだな。
俺はこの4日間、畑と家畜小屋の周囲の警備をやることになった。
村の中に侵入してくる、主な小型地動系魔獣は地動虫(ワーム)の子供や、
小型の土竜魔獣だ。
こいつらは踏みつけるだけでも瀕死状態になる様な弱さだから、苦戦したりはしないんだけど・・・。
兎に角、一晩で何十匹と湧き出て来るので、切りがない。
しかも子供だから、殺しても良い素材にならないし。
地動虫(ワーム)、虫・・・虫なら殺虫剤みたいなの作れないかな。
楽したいとか、作業効率を上げたいとか、色んな理由があるけど、
こいつら殺した時に
「ピギィィィ」
って言う断末魔を上げてから死ぬんだよ。
この声、何回か聞くだけなら大丈夫なんだけど、何回も聞いてると頭がおかしくなりそうになる。
と言うことで、俺は畑や家畜小屋の周りに現れる生き物をを、種類ごとに1匹ずつ
捕獲した。
こいつらを使って、殺虫剤や土竜除け見たいなの作れたらな~、って思ってる。
そして、魔獣を捕獲している内にいつの間にか夜が明けていた。
夜間警備と日中警備の交代の時間となり、俺の初勤務は無事に終わったので
あった。
「喰屍鬼(グール)殿、お疲れ様です」
俺が宿に帰ると、既に麗香さんは朝食を取っていた。
俺を発見した麗香さんは、一言だけそう言って、食事に戻る・・・
冷たくない?(涙)。
ついでに、フィアナさんは大鬼(オーガ)専用の寝床に行ったっきり
帰って来てないらしい。
まあ、森で生活している時は、血抜きして軽く塩を振りかけただけの肉をずっと
食ってたしフィアナさんはずっと魔獣という、意思疎通の出来ない奴とヤってたわけ
だからな。
この宿屋の食事にありつけて、俺自身も感動している。
だが、俺は捕まえた魔獣を使って研究しなければならない。
子供とは言え魔獣は魔獣、何時までも宿屋に置いておくわけにもいかないし、
出来るだけ早く研究を終わらせて、処分しないと。
お世話になっている以上、迷惑は出来るだけ掛けたくないからな。
俺は麗香さんに、村の外でやりたいことがあると伝え、夜までに戻ります、と言って
村の外へと向かった。
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