第4話

結論から言おう、魔石が欲しくなった。

魔導具に興味を持ったのも一つの理由だが、一番の理由は他の素材の

有用性にあった。

S級やA級の魔獣の素材は、捨てる部分が殆どない。

ならば、その魔石の利用価値は計り知れないだろう!?

現在は真夜中、麗香さんがフィアナさんと見張りを交代している頃だ。

フィアナさんはよく見張りをサボってるし、こっそりと行動するには最適だ!

それに、夜行性の魔獣とはまだ戦っていない。

新たな素材も入手できて一石二鳥、最高だ!

拠点の洞窟を出た俺は、新たに考案した魔法を使って辺りを探索する。

と言っても、これも異世界転生定番の探査魔法だ。

構成初期原型は『強化』『指定』『増幅』『収集』だ。

『強化』では聴力の機能を一時的に強化し、『指定』で増幅させる対象を決め、最後に『収集』で対象の情報を集める。

今回は、心音を指定、生き物の心音を増幅させ、その音を収集、方向を割り出して

狩りに行く。

一人での狩りは久しぶりだが、今回は二人が旅の順路を決めている間に作った

道具(アイテム)がある。

これらを使えば、ある程度の魔獣は確実に狩れるだろう。

目標は、使い捨て魔石20個、常用魔石10個だ!

それくらいあれば、満足な道具(アイテム)を作れるはずだ。

さて、心音から魔獣の位置を特定している間に、今回の狩りの御供を紹介しよう!

No1:超簡易手榴弾。導火線に手動で火をつけて投げる、旧式の物だ!

No2:ベアトラップ改。巨大な魔獣でもビクともしないモノを作ったぞ!素材は

希少金属蜥蜴の分厚い皮膚だ!

No3:毒投擲瓶。色んな魔獣の卵の殻に、これまた色んな魔獣の毒を詰め合わせた

混合(ミックス)だ!

以上3点があの短時間で作ったモノである!

まあ、二人に気づかれたら駄目だから、今回の主武器(メインウエポン)は

ベアトラップ改と毒投擲瓶になるがな。

簡易手榴弾は護身用だ。毒投擲瓶の毒は猛毒だがそれが効かない魔獣が出てきた

場合、簡易手榴弾を使う。

それも不可能な場合のみ、魔法を使う予定だ(あくまでも予定)。

俺の最大魔法は俺自身も殺しかねないからな。

超弩級魔獣などの危険度クラスがS級の中でも上位の魔獣でもない限り、

使いたくない。

っと、これは・・・どうやら、何かの群れを見つけることが出来た様だ。

距離は800m先、北西方向。

さて、狩(ハント)の開始だ!

『強化』を足に掛けて、俺は早速魔獣の群れの方向に向かって走り出す。

それにしても、単語が魔法になっていると、とても扱いやすいのだが、純粋な魔力量を要求されるのが辛い。

魔法は便利だ。

上位種族への進化が重視されることや、骸骨人(スケルトン)が最弱とされるのも、それが原因なのだろう。

調べたところ、骸骨人(スケルトン)は魔物の中で最も内在魔力が少ない

存在らしい?

スライムの方が魔力を持っているとは・・・俺、スキルが無かったら

やばかったかもな・・・。

俺も、初期原型の存在を発見できなければ、恐らく魔法を使えないまま存在進化を行うことになり今まで以上に時間が掛かっていただろう。

やはり、異世界に行ったら何よりも先に魔法の研究だな。

皆も異世界転生した時は魔法の研究を怠らない様にな!先達からの助言だ!

馬鹿なことを考えている間に、どうやら謎の群れがいる場所に着いた様だ。

こいつらは・・・装甲蟻だな。

昼間に一度麗香さん達と共に狩ったことがある。

こいつらは蟻なのに、特定の巣を持たない。

一匹の女王蟻を守護しながら、移動を続けるのだ。

そして冬が近づいて来ると、巣を作り餌を蓄えて越冬する。

まあ、危険度はA級上位程度、集団で行動している上その名の通り戦車並みの

装甲外骨格を保有している。

今の俺の道具(アイテム)ではかすり傷一つ付けられない。

だが、一度戦っている分、倒し方も分かっている。

こいつらの弱点は 付け根 だ。

足や頭などの、所謂 関節 と言われる部分が脆い。

風の刃などで頭を斬り落とせば、こいつらは簡単に死ぬ。

だが、戦車並みの装甲は伊達ではない。

魔力が生温い練り方しか出来てなければ、斬り落とすことはできない。

それに、奴らは仲間意識がかなり強い。

一体でも倒されれば絶対に仇を討とうとしてくる。

しかし、俺も強くなっているし、魔法の原理をある程度理解している数少ない存在。

『発生』『風圧』『調整』『移動』『加速』この四つの初期原型を用いて、俺は

装甲蟻に攻撃を仕掛ける。

もっと魔力があれば、複合原型を使用したのだが・・・。

ああ、複合原型は更に魔法を便利にするモノの一つだ。

例えば、初期原型は『風圧』と『調整』を使い分けなければならない。

だが、魔力を少し多めに消費し『複合原型式』を組み、複合原型を作ると、

短時間魔法行使が可能となる。

複合原型式(例):『風圧』+『調節』→『風圧調整』

みたいな感じ。

これの利点は幾つかある。

まず、発動までの時間を短くすることが可能となる。

最大の利点は、最終的な魔力消費量を大幅に抑え込むことが可能となるのだ。

前に詠唱の非効率性について説明したと思う。

だが、複合原型式を活用した原型文のみの詠唱文を作ることが出来れば、余分な

魔力の消費を抑え込み単純にその魔法の威力を上げることが出来る。

まあこれも、大量の魔力があるという前提の話なのだが。

俺の様な喰屍鬼(グール)程度なら、初期原型のみで構成した魔法を

行使する他ない。

フィアナさんの様な魔人なら、複合原型を活用して強力な魔法を行使することも可能かもしれないが。

と、無駄なことを考えている間に、魔法の準備が完了した。

仕上げに『複製』の初期原型を使い、風刃の複製を幾つか作り同時に発動する。


「ピギィィィ」


俺が魔法を行使すると同時に、装甲蟻の群れが混乱状態に陥った。

なんせ、最初の悲鳴を上げたのがあの群れの女王だからな。

そして俺は、残りの風刃を混乱している装甲蟻に撃ちまくった。

今日は綺麗な満月のお陰で、視界もそれなりにいい。

4発に1発は外れてしまうが、問題はない。

俺は可能な限りの風刃を撃ちまくる。

風刃が無くなる頃には、装甲蟻は全滅していた。

結局、道具(アイテム)を使うことが出来なかった。


「はぁ」


少し残念に思いながらも、俺は早速装甲蟻を異空間道具箱(アイテムボックス)に

仕舞う作業を開始する。

今回の収穫は『装甲蟻10匹』『戦士・装甲蟻3匹』『守護・装甲蟻2匹』

『女王・装甲蟻1匹』である。

目標より少し少ないが、森から出るまでに何度か狩をするチャンスもあるだろう。

あまり長い間拠点から離れると、麗香さんに感づかれてしまう可能性があるし、

一刻も早く拠点に戻らねば!

そう思いながら女王・装甲蟻を異空間道具箱(アイテムボックス)に仕舞った瞬間、後方から聞き覚えのある、恐ろしい声が聞こえてきた。


「不死(アンデ)・・・喰屍鬼(グール)殿、ここで一体何を」


ビックと、体が反応してしまう。

この森で最も恐ろしい存在が今、自らの後ろに立っている。

更に、その存在は今、とても、すごく、やばいくらい、いやもう本当にやばい

くらい、怒っている状態だ。

考えろ俺。ここで選択を誤れば恐ろしい結末が待っている。嘘をつくか本当のことを言うか、どう誤魔化すか、どうこの場を切り抜けるかを考えろ・・・


俺の思考回路が導き出した結論は


「ちょっとお手洗いに・・・いやぁぁぁぁ」


その後の記憶がない・・・。


気が付いた時には朝だった。

酷く頭部が痛む。

だが俺の体は瞬時に起き上がり、正座をする。

何故かって、そんなの決まってるじゃないか、己の命が掛かっているのだから。

ふと横を見たら、フィアナさんも正座している。

どうやれ見張りをサボっていたのがバレた様だ。


「おはようございます、フィアナ殿、喰屍鬼(グール)殿」


この世のモノとは思えないくらい怖い声が頭上から響く。

怒っている、とてつもなく怒っている。

この場での弁解は愚策、生き残るには麗香さんの望んでいる答えを最適解で

導き出すしかない。

だが、俺にそんな高等技術があるわけなく、結局黙り込んでしまった。

ドン、ドン、ドン、と麗香さんが立派は尻尾を地面に叩きつける。

フィアナさんも俺も黙り込んでしまったことに苛立っているのか、尻尾を叩きつける音は時間が経つにつれ大きくなっている。

俺が何もできないことを悟ったフィアナさんは、恐る恐る口を開いた。

だが・・・それは特大級の爆弾発言となってしまう。


「麗香ちゃん、あれは寝てたんじゃなくて瞑想してたんだよ」


次の瞬間、目にも止まらぬ速さで麗香さんの尻尾がフィアナさんの下腹部に

叩きつけられた。

ドス、という到底女性の体からは鳴らないであろう音が聞こえてきた。

そして、ぐふ、という声と共に・・・フィアナさんは一切動かなくなってしまう。


「で、喰屍鬼(グール)殿の言い訳は」


全てが無意味であることを悟った俺は、正直に全てを話すことにした。

何してるんですか、最初の一言はそれだった。

完全に呆れらている。

その後俺は、何時間も説教を受けることとなる。



説教を受けてから数週間、俺達は森から出ることに成功していた。

ついでに、拠点にしていた洞窟はそのままにしてある。

S級A級の魔獣が沢山いる地帯だから、絶対にまた来ると思ったからだ!

・・・・うん、多分!

それと、麗香さんに事情を話したら、後日魔石狩りを手伝ってくれた(優しい)!

それに、結構沢山の道具(アイテム)を作ることが出来た。

これを礎に、後々に銃や野砲と言った兵機関連も作れたら、と考えている。

この世界にはとても便利な魔法形態『魔法陣』と言うモノが存在している。

魔法陣を利用すれば、第二の科学・・・否、魔導兵器を作り出すことが

可能となるだろう!

まあ、魔法陣についての研究は一切進んでないから、まだまだ遠い未来の話だけど。

それにしても、もう素材集めが終わってしまうのか。

家畜魔獣のお陰で素材自体には困らないだろうが、金が掛かるのが問題だ。

そう言えば俺一文無しだけど、魔帝都での生活・・・保証付きだよね?

俺、半ば強制的に招集かけられたけど、ちゃんと生活保証付きだよね、ね?


「ここから何日か掛けて、最辺境の村、べネス村へ向かい、馬車に乗ります」


俺の不安を他所に、麗香さんはここからのルートを丁寧に説明し始める。

最初に、最辺境の村べネスに行き、馬車を使ってべネス村と辺境都市カルベルトの間にある町ベベールへ向かい、その後に辺境都市カルベルトへ、大幅な変更があるかもしれませんが、と取り合えずはここまでの説明で終了。

大体、長くても1ヵ月程度で着けるらしい。

凡そ12月くらいに辺境都市カルベルトに到着するだろう。

そこからは3か月もあれば、魔帝都に到着出来るらしい。

第二農耕地帯ロンディーヌ地方都市スザンターク、商業都市ハルティン、

第二の首都ヘルバンティア、魔帝都アルバンティアまで3ヵ月程度しか掛からないのは不思議なのだが、まあ後々分かるだろう。

と、考えに耽っていると、急に麗香さんが槍を構えた。

俺も一瞬で何が起こったかを察して、異空間道具箱(アイテムボックス)から

毒投擲瓶改を取り出して構える。

(毒投擲瓶改:毒性を刺激し、効果を増幅させる植物を発見できたため、

量を少なく効果を強くすることに成功したモノ!)

ああそれと、それ瓶じゃなくて卵の殻ですよね?と言うのは受け付けません‼


「来ますよ」


麗香さんのその一言で場の雰囲気が大きく変わる。

次の瞬間、ドォンと言う音と共に地面に大きな穴が開き、魔獣たちが

這い出てくる。

奴等は・・・地動虫(ワーム)だ!

A級低位の魔獣だが、女性冒険者からすればこいつらはS級以上の害獣と言っても過言ではないだろう。

こいつらが、女性冒険者から恐れられている理由は、それは捕まったら最後、苗床にされて、最後には食い殺されてしまうことだ。

こいつらは単細胞生物みたいに、分裂で数を増やすことも可能なのだが、分裂では数が増えすぎて食糧難に陥ってしまう。

故に、人間の女性のみならず、魔物、魔獣、動物、大人の人間以上の大きさの生き物の、全てのメスを巣へ連れ帰る。

そして、メスを孕ませて生まれた子供に母体を食わせるのだ。

そうやって奴らは繁殖している。

ついでに男性は問答無用で食い殺されるか、非常食として巣へ連れ帰られて悲惨な

運命を辿ることとなる。

そういった性質を持っているからだろう、地動虫(ワーム)を見た途端に二人の

表情が強張る。

淫魔(サキュバス)とは言え、最終的に食い殺されては無意味だからな!

はっはっは‼

まあ俺も他人事ではないのだが。


「喰屍鬼(グール)殿、奴らは私達を丸呑みにしようと飛び掛かってきます、

そこに毒瓶を投げ込んでください」


戦闘開始前に、麗香さんは助言をくれた。

まあ、触手系魔獣なら傍観も良かったのだが、今回は地動虫(ワーム)。

性別関係なく外敵、巣ごと徹底的に潰す気持ちで戦ってやる。

俺達の戦闘形態(バトルスタイル)は、後衛2・前衛1である。

俺とフィアナさんが後衛で、麗香さんが前衛。

職業で例えれば、俺が盗賊、フィアナさんが魔術師、麗香さんが戦士である。

バランスが崩壊しそうなパーティではあるが、麗香さんやフィアナさんは共に

実力がS級冒険者クラス。

この中なら俺が一番弱いくらいだ。

っと、無駄なことを考えるのはここまでだ。

害獣(ワーム)殿がおいでなすったぞ‼

害獣(ワーム)はその名の通り、地中での戦闘を得意とする。

だが、地上に出てもしっかりと戦える程度には強力だ。

奴等は謎に物凄い跳躍力を持っており、飛び跳ねながらこちらに突進してくる。

そして、先程麗香さんが警告してくれた様に、大きな口で俺達を丸呑みにしようと

してきたのだ。

そこへ俺はすかさず毒投擲瓶改(毒瓶改)を投げ込む。

すると奴らは

「キュㇽㇽㇽ」

と言う甲高い声を上げて、暫く悶え苦しんでから死んだ。

我ながら恐ろしいモノを作ってしまった・・・な。

俺が頑張って数匹倒している間に、二人は地上に出て来ていた地動虫(ワーム)を

全て倒していた。

はぁ、俺も二人ぐらい強かったら良かったのに。

まあ二人は圧倒的上位種の亜人と魔人、更には魔王に仕える精鋭で、恐らく格も

かなり高いはず。

性能(スペック)で敵うはずがないのだ。


「喰屍鬼(グール)殿、回収するならさっさと回収してください。

それと、地動虫(ワーム)の這い出てきた穴に・・・なんでしたっけ、あの爆発する筒を幾つか投げ込んでおいてください」


男としての尊厳を目の前で叩き潰された俺に、更なる追い打ちが掛けられる。

心臓に幾つもの棘が刺さった俺に、優しく肩に手を置いてくれた人物がいた。

おお、私(マイ)の女神(ゴッデス)と涙を拭い、顔を上げると、そこにいたのは

女神(ゴッデス)ではなく悪魔(デーモン)であった。

最上位悪魔でも浮かべられなさそうな、意地の悪い笑みを浮かべたフィアナさんは

「頑張ってね~」

と言うと、麗香さんが休んでいる木陰に行ってしまった。

奴は・・・あの淫魔(あくま)は、俺の傷ついた心にトドメを刺して

行ってしまった。

この数ヵ月間で、俺の地位は大暴落した。

会いたての頃は、ある程度の配慮があったのに・・・今ではパシリみたいな扱いを受けている(涙)。


「早くしてくださいますか?」


どうやら、俺は傷心を癒す時間すら貰えない様だ。

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