第22話 首都防空戦

西暦2032(令和14)年2月3日 ゾルシア共和国中部 首都アポロウス上空


 共和国の西側がガロアの支配圏内となって1か月程が経ち、ゾルシア本島の南東部に位置する首都アポロウスは連日空襲の被害に遭っていた。


「くそ!また来やがって、これで三度目だ!」


 首都郊外の共和国空軍飛行場にて、第1飛行師団に属する戦闘機パイロットは悪態を吐き捨てつつ、愛機へと向かっていく。


 ゾルシア空軍の主力戦闘機は、長らくレシプロ戦闘機が担っていたが、それをずっと続ける事は出来ない事を理解していた。そこで数年前より、ガスタービンエンジンを動力とする新型戦闘機の開発が開始。そして昨年、正式量産機として〈ミスター〉が完成。早速首都防空を主任務とする第1飛行師団に配備されたのである。


 かつてアメリカが開発していたF-80〈シューティングスター〉戦闘機に酷似したその機の性能は最高時速950キロメートルにも達し、防空戦闘機として理想的と言えた。整備員がスターターでタービンを回転させ始めると、燃焼室に向けて圧縮された空気が送り込まれ、同時に噴射された燃料を燃やし始める。


「出るぞー!」


 〈ミスター〉は次々と滑走路へ向かい、管制塔からの指示を受けつつ離陸し始める。その数は凡そ12機。ゾルシアの工業水準は高かったが、肝心の生産力が追い付いていないがためにその程度しか用意できなかったのである。だが文句を言う余裕はなかった。


「目標捕捉!奴さんは呑気に空を飛んでいるぞー!1機たりとも無事に帰すな!」


『了解!』


 高度7000を編隊を組んで飛ぶ、20機の重爆撃機とその護衛戦闘機を視認し、12機は速度を上げる。ほぼ垂直に空を駆け上がっていく〈ミスター〉は、僅か10分で高度8000にまで到達。そして眼下に位置する敵機に向けて降下を開始した。


「突撃ぃぃぃぃぃ!!!」


 12機はフルスロットルで駆け下り、一斉に機首の30ミリ機関砲を発射。上方より鋼鉄の驟雨を浴びせかける。対する爆撃機は機体上部の連装機銃で対応するものの、〈ミスター〉の音速を超えた降下速度の前に追尾する事が出来ず、瞬時に3機が炎に塗れる。


「反転!敵機が陸軍対空砲兵の防空陣地に入るまでに数を減らせー!」


 12機はすぐさま身を起こして上昇し、そして捻る様に向きを変える。そうして立ちはだかる護衛戦闘機と交戦に入る。


 敵レシプロ戦闘機はいわゆる旋回性能においてジェット戦闘機を翻弄する事が出来るが、一撃離脱を主軸とした一騎打ちでは明確に劣勢に立たされる。故に〈ミスター〉は圧倒的速度で敵機を上空へと吊り上げ、しかる後にある程度余裕を持ってから反転。急降下を仕掛けて仕留めるという徹底した一撃離脱戦術を取っていた。


 そして地上でも、陸軍対空砲兵が155ミリ高射砲を用いて対空戦闘を開始しており、不運にもそれを主翼に食らった爆撃機が墜ちていく。さらに不幸な事に、この時アポロウスには陸上自衛隊より派遣された軍事顧問団の姿があったのだ。


「ゾルシアの連中に、新時代の戦いとは如何なるものか見せつけてやれ!」


 指揮官の命令一過、SAM-31地対空ミサイルによる対空戦闘が開始される。03式中距離地対空誘導弾をベースに、民生品の多用等によって製造コストを下げた対空ミサイルシステムは、レシプロエンジンの爆撃機を叩き落すには十分すぎる能力を持っていた。


 斯くして、この日の戦闘にてゾルシア空軍は10機以上の敵爆撃機を撃墜し、これ以上の戦略爆撃を思いとどまらせる事に成功したのである。

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