第23話 「むさし」就役

西暦2032(令和14)年2月7日 日本国長崎県長崎市 三菱重工業長崎造船所


 この日、長崎の空は晴れていた。


「こんな良い天気の下で、新造艦を迎え入れる事。本当にめでたい事だ」


 式典会場にて、佐久間さくま一等海佐はそう呟く。彼の目前にあるのは1隻の巨大な軍艦。


 3年前の『転移』以前に起工され、安全保障環境の変化もあって建造が継続されていたやまと型広域打撃防衛艦の二番艦「むさし」。それがようやく完成したのである。建造に関わってきた者としては非常に鼻の高い事だろう。


「しかし、情勢の変化が激しいとはいえ、早速戦場へ出向く事になろうとは…訓練も十分に積めるかどうか怪しいというのに…」


 佐久間はそう呟きながら、「むさし」の巨大な艦上構造物を見上げる。艦橋や戦闘指揮所CICが比較的低い位置にある一方で、レーダーや各種センサーと電子機器を収めた構造物は塔の様に天高く聳え立っている。煙突もある程度高さを抑えているために、遠目から見ればもがみ型護衛艦と見間違えるだろう。


 やまと型広域打撃防衛艦の二番艦として就役した関係上、「むさし」は「やまと」の抱える欠点を幾つか解消している。特に電子機器類は『転移』の影響もあり、台湾と共同開発したものを装備していた。


 斯くしてこの日、「むさし」は海上自衛隊の新たなる護衛艦として就役。直ちに対ゾルシア共和国救援作戦に投入される事となった。

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