第15話 皇国襲来

西暦2031(令和13)年9月21日 ゾルシア共和国西部沖合


 大洋を、数十隻の巨艦が進む。縦二列の複縦陣で進む戦艦を中心に据え、その直後に2隻の大型空母が後に続く。その外周には10隻程度の巡洋艦と、その数倍はいる駆逐艦が、主力艦を守る様に陣を成し、堂々たる威容を示していた。


「偵察機より報告。ゾルシア海軍の艦隊を確認したとの事。さらにレーダーに、複数の航空機の反応を確認。艦艇不足を航空戦力で埋めようとしているのでしょう」


 ガロア皇国海軍東征艦隊の旗艦を務める戦艦「シャルマーヌス」の司令塔にて、艦長が報告を述べる。それを聞いた提督のアレク・ゴラン上級大将は、指揮棒を自身の掌に叩きつけ、指示を発する。


「敵の航空機は空母艦載機に対処させよ。水上艦は前衛で処理しつつ、本土へ接近。上陸予定地点を焦土にせよ」


「了解」


 命令一過、2隻の空母よりイギリス海軍の〈シーファング〉戦闘機に類似したレシプロ戦闘機が発艦を開始。高出力の水冷レシプロエンジンを動力とする二重反転プロペラが高速回転し、蒼空に自身の存在を誇示するかの様に轟音を響かせる。そして艦隊の前面に展開する前衛艦隊は、2隻の大型巡洋艦を先頭に速力を上げ、迎撃のために展開しているゾルシア海軍艦隊へ接近。数時間後に交戦を開始する。


「撃て!」


 前衛艦隊指揮官の命令一過、2隻の大型巡洋艦は艦首に集中配置された3基の25センチ三連装砲を敵巡洋艦に指向。砲撃を開始する。砲塔1基当たり毎分12発を投射可能な25センチ三連装砲は、艦橋構造物に有する射撃管制装置の助けもあり、高い命中精度を発揮する。


 対するゾルシア海軍艦隊は、主砲口径は30センチ、装甲もそれ相応の防御力を有していた大型巡洋艦がいたが、すでに台湾艦隊の対艦ミサイルによって過去の存在となっている。今残されているのは、15.5センチ連装速射砲が主砲である軽巡洋艦ばかりだった。


 はたせるかな、悉くが巨弾に貧弱な装甲を貫かれ、大破炎上していく。毎分12発の連射速度を誇る15.5センチ連装速射砲も、巡洋艦の対空砲を破壊するだけの威力はあったが、肝心の船体そのものへ有効打を与える事は出来ず、駆逐艦部隊の突撃もあって一方的に蹂躙されていった。


 上空でも同様に、対艦魚雷を抱えて迎撃に向かう双発爆撃機とそれを護衛するレシプロ戦闘機の編隊は、ガロアの艦上戦闘機部隊に襲われ、30ミリ機関砲の餌食となっていった。海中では数隻の潜水艦が勇敢にも敵旗艦への襲撃を試みていたが、それを警護する駆逐艦はアクティブソナーでしっかりと伏兵の存在を把握しており、新兵器たる35センチ短魚雷を投下して返り討ちにしていた。


 斯くして、ゴラン提督率いる東征艦隊はゾルシア艦隊を一蹴し、50年前の戦争で奪われた地域へと進駐。陸上や空中でも同様に、半世紀前の復讐を果たさんばかりに攻勢を開始していた。

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