第4話 祝福されし生誕
西暦2031(令和13)年2月11日 日本国広島県呉市 海上自衛隊呉基地
日本国とその周辺地域が未知の異世界に転移して半年。呉は大きな賑わいを見せていた。
ダキア王国より食料と石油輸入の目途がつき、急騰していた物価が下がったのも大きいが、この日は海上自衛隊にとってめでたい日であり、現地市民の不満を和らげる目的もあって、政府が食料品やら生活必需品を優先的に供給。官民共同で大盤振る舞いを行っていたからである。
「いやはや、1週間前より経済支援を行っていたお陰で、現地から式典に対して理解を得られてよかったよ」
貴賓席にて西条はそう言いながら、隣に座る
だが、問題は全て解決したわけではない。何せ国防に関して在日米軍に頼る事が出来なくなり、その上で近くに凶悪な帝国主義国家が現れたのである。これを厄介以外の言葉で表せようか。実際、転移後の外交的接触の中で、アーリエンティア帝国を名乗る国は、20隻規模の艦隊で相模湾上に襲来。国力の大きさを視覚的に見せつけてきたのだ。
よって、世論は軍拡を支持した。東方国家同盟の中心的国家である以上、地球のアメリカの様な立ち位置が求められたのが余りにも大きかった。そしてその力を示すにおあつらえ向きの艦が今、進水式を迎えようとしていた。
この艦を建造するにあたり、防衛装備庁の海上自衛隊部門に要求されたのは、1個護衛隊相当の戦闘能力を持つ大型戦闘艦。大量のミサイルのみならず、高出力機関ユニットに支えられたレーザー兵器やらレールガン、そして複数の最新鋭センサー群を装備し、高い戦闘能力を持つ事を売りとしている。建造は2029年に起工され、順調に進められていたのだが、『転移』によって一時中断し、どうにか国交樹立を契機に本格的に建造を再開させていた。そしてこの日、進水を迎えたのである。
「さて…そろそろだな」
西条はそう言って席から立ち、演台に立つ。そして艦首を見据えつつ、1枚の書類を手に口を開いた。
「本艦を、「やまと」と命名す」
くす玉が割られ、紙吹雪が舞う。そして全長222メートル、全幅25メートルの巨体が乾ドックから滑り出し、海の上に浮かぶ。この後2か月かけて艤装工事が執り行われ、3か月の慣熟訓練を経て就役するに至る事となる。
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