第5話 迫る戦争

西暦2031(令和13)年6月5日 アーレンティア帝国 帝都オルディラン


 ダキア大陸より北西に1000キロメートルの位置にあるアーレンティア大陸。そこの南半分を支配するアーレンティア帝国は、80年前のゾルシア共和国との戦争で大陸北部を失ったものの、その後の貿易や交流により、文明水準を大幅に向上。地球換算で西暦1930年代相当の技術水準に達していた。


 その帝都オルディランにおいて、皇帝ガザン7世は多くの閣僚・軍人を招集し、帝前会議を開いていた。議題は当然ながら、『500年前からの人類共通の敵』についてであった。


「昨今、ダキアの汚らわしい魔族共は辺境に現れた『ニホン』なる未知の新興国と貿易を開始し、その国力を急速に上げている。これは非常に由々しき事態であり、我が国の統一政策に於いても深刻な問題となりつつある」


 宰相のドロウスは一同に向けて語り、多くは頷く。そしてカザン帝は口を開く。


「…よって我が国は、生意気な辺境の新参者と、忌まわしい魔王軍の末裔共に、正義の鉄槌を与える事とした。アルデウス大将軍よ、作戦計画を頼む」


「はっ…先ず此度の戦争において、ゾルシア共和国とともに同盟を組んで、裁きを下す方針です。ゾルシアも貿易の面においてニホンを敵視しているため、戦争は迅速に進められるでしょう。動員する兵力は陸軍で2個軍団、海軍も相応の戦力を投じる予定で御座います」


・・・


『転移』と呼ばれる事となった異常現象の後、日本国は多くの変化を迎えた。その一つが政治改革である。


 日本国内にて既存の社会に順応しようとせず、出身地の社会体系をそのまま移植しようと衝突した者達や、治安の急速な悪化に関与した外国人労働者という『不穏分子』、そして利権の構造を盾にこれまで追求と贖罪を免れ続けていた者達に、然るべき対応を取ってあるべき安定をもたらしてくれる『正義の味方』が必要となった。そのために新たな省庁として設けられたのが『保安省』である。


 警察庁と警視庁、国土交通省より移管する形となった海上保安庁を傘下に置く形となった政府機関たる保安省は、小笠原諸島の西隣に現出した無人島地域『八洲諸島』に幾つかの居住区を築き、外国人労働者の多くをそこに封じ込めた。さらに都市部に過剰に集中していた人口の削減と日本全土への適度な分散を行う『人口分布適正化政策』により、東京都内の人口は100万人程減っている。この政策を円滑に実行出来たのも、保安省の直接指揮下に置かれた警視庁が実力行使を担当したからである。


「近年、アーレンティア帝国がおかしな様子を見せている、ですか?」


 保安省が置かれた中央合同庁舎第2号館にて、保安省隷下の情報機関たる広報局長官の渥美真一あつみ しんいちは、部下からの問いに頷く。


「ああ。前からアーレンティアは東方世界の統一を名目とした侵略戦争の準備をしている事は周知の通りであるが、ゾルシアと手を組んで攻め込む様だ」

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