第39話:新武装 ~魔法陣利用~

大帝国某所に新設された魔法陣研究所の実験場にて、王獣魔導隊専用魔法陣利用魔導武装媒体の

最終調整のためにとある実験が行われていた。

新たな魔導武装媒体は、元来の魔導武装媒体の2倍近い性能を誇っている。

現在は量産体制に向けてのコスト削減の研究を行っているのだが、大帝国の一部魔導武装白兵戦隊には

この新作の魔導武装媒体が支給されている。

まあ、主に王獣魔導隊第一小隊と第八魔導武装白兵戦連隊に支給されている。

だが、王獣魔導隊第一小隊に支給されるのは、大帝国初・・・否、恐らく世界初になるであろう

個人の魔導武装媒体、つまり 専用魔導武装媒体 だ。

今までの魔導武装媒体は、媒体の機能に直接干渉し、細かな調整を行う方法はなかった。

魔力の通りや出力の大まかな調整はある程度可能であったが、それ以外の調整や微調整は不可能。

だが、魔力回路にて特定の効果を発揮させたり、魔力の回路みちを作ることによって、魔力の通りや

出力の大小の調節の幅が大きくなり、微調整を可能にした。

これは、魔導武装媒体界の大革命とも言える出来事だ。

それはさて措き、事前に王獣魔導隊の各位に行った意見調査の結果を基に、魔法陣研究所の

技術者達が各位に合わせて作った、専用の魔導武装媒体。

今日行うのはその魔導武装媒体の最終調整であり、その内容は古びた鎧を着せた的に対して、

それぞれが専用の魔導武装で試し斬りを行うというものだ。

実験と言うよりは、ただの試し斬りと言った方が正しいかもしれない。

初めての魔法陣を利用した魔導武装媒体、皆がそれに慣れるまで幾つかの的を試しに斬る必要が

あったが、幾つかの的を斬り終わる頃には、完全に手に馴染み、いつもと同じ動きができる様になって

いた。

しかし、ティナ、アアメル、ソルシャ、エリナ、メイリーンと言った 主力達 は違った。

いつも以上に素晴らしい動きを見せていたのだ。

それは彼女らの技量も大いに関係しているだろうが、その真の理由は大帝国魔法陣研究所の

技術主任である ジークウェル・ベルナルド大尉 が直々に彼女らの

魔導武装媒体を手掛けたことにある。

彼は大帝国内の存在する、数少ない魔法陣についての有識者である。

ジークウェル大尉の手掛けた魔法陣利用魔導武装媒体は、手直しが必要ない程完璧なものであった。

だが、今回の魔法陣利用魔導武装媒体の最も特出すべき点は 『空中展開が可能』 なことだ。

元来の魔導武装は地上などの安定した場で展開し、安定的に魔力を使える状況でしか使えなかった。

絶対不可能と言うわけではないが、ティナの膨大な魔力とシェルの繊細な魔力操作技術、

ミラの内魔力にかなり近い外魔力を持っていると言う、ありえない様な条件をクリアしている者

でもない限り、実行は不可能であるが。

だが、魔法陣の研究が進み自己保持回路を作りだしたことによって、繊細な魔力操作技術を要さずとも

魔導武装の展開が可能となった。

あとは魔力量がA~S級判定の者であれば、問題なく空中で魔導武装を展開し、戦うことが

出来るだろう。

これを研究開発した技術者達は、この魔導武装を 『戦天使ワルキューレの武具リュストゥング』 と呼ぶことにした。

そう、天使の様に舞いながら戦うことを可能にする、正に戦天使の武具である。

が、訓練なしにその様な戦い方はできないだろう。

なんせ、世界初の魔導武装である。

技術者も使用者も、模索しながらこの新作の魔導武装媒体に慣れていくしかない。

だが、この武装が戦局を大きく左右するものになるかもしれないことは、事実である。



一方、この研究所に呼ばれたのは第一小隊だけではなかった。

第三小隊も、この研究所に呼ばれていたのだ。

しかし、その目的は大きく異なっている。

魔法陣を利用する技術者は、基本的に引退した支援魔導師だ。

そう、魔法陣技術者は内魔力の者に向いている。

第三小隊が呼ばれた理由は、魔法陣の基礎知識と技術を身に着けるためだ。

無論、一朝一夕で身に着けられる程単純なものではないが、訓練さえすればある程度は何とかなる

代物でもある。

魔力量が多くなければならないわけでもなく、繊細な魔力操作技術が求められるわけでもない。

知識さえあれば、技術を身に着けるだけでなんとかなってしまうのが、魔法陣技術である。

が、魔法陣の可能性は広がり続けているし、その質の良し悪しは技術者の技量に左右される。

そう、魔法と言う万能な力に頼ることは出来ない。

己の知識、技術、発想力、経験が全てを左右する。

まあそれはさて措き、魔力の宿ったインクさえあれば、魔法陣の回路の構築も可能。

戦場での魔法陣利用も可能である。

が、主な目的は第一小隊の使用している魔導武装媒体の 修理点検メンテナンス を行って

もうらうことだ。

魔法陣を利用している以上、魔導武装媒体に問題が発生しなくとも、魔法陣の回路に異常が発生する

かもしれない。

それに、使っている内に更なる微調整がしたくなることもあるだろう。

残念ながら技術者が直接戦場に付いて行くことはできない。

だが、第三小隊の各位が魔法陣の知識と技術を学ぶことで、その問題に対応することが出来る。

それに、知識は人類が持っている中で最も強力な 『力』 だ。

知っていて損する知識は殆ど存在しない。


王獣魔導隊はこれからも、各戦場にて大帝国の力を示す 大帝国魔導軍の象徴 であってもらわな

ければならない。

その役目が如何に危険で、苦難に満ちているものか、彼らわかっている。

その様な役目を担ってくれる彼女らに、大帝国軍人は尊敬の念を持ち、できる限りの支援サポートを行う。

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