第38話:仲間 ~新たな仲間と古き友~

ティナは自らの家に皆を呼んだが・・・まともな持て成しが出来ないことに気が付いた。

皆はそれを予想していた様で、少量ながらも、酒や食事は持参してきた。

どちらにせよ、大帝国最強の魔導師部隊が、食糧問題が発生している中、盛大なパーティーを開くことも

出来ないだろうし。

しかし、殆どの者がティナがそんな些細なミスを犯したことに気が付いていない。

現状が現状故に 『それが当たり前』 になっているからだ。

だが・・・ティナの些細なミスに気が付いている者もいる。

そう、愛すべき親友、シェルとミラである。


「ティナちゃん、疲れてない?大丈夫?」


執拗に心配してくるミラに対して、シェルはミラの後ろで、ティナを小馬鹿にする様に鼻で笑った後に、

勝ち誇った様な顔でティナのことを見下ろしていた。

まあティナ自身も、自らが疲れていることを否定できなかった。

だが、疲れている様な様子や、弱っている様な様子は一切見せない。

隊員達の士気に影響するのも理由の一つだが・・・主な理由は、ティナだけが疲れているわけではない

からだ。

皆、何時まで続くか分からない戦争に、徐々に疲れを見せ始めている。

それに、大帝国は5ヵ国も相手にしている状況。

大総統が優秀な政治家であり参謀でなければ、大帝国は今頃滅びていただろう。

だが、大帝国が圧倒的な劣勢下にあるのは変わりない。

それに、国民は戦争に対して否定的な意見を持ち始めている。

国民が、厭戦気分にありながら反戦運動を行わないのは・・・大帝国が負ければ、自分達に悲惨な運命が

待ち受けていることを理解しているからだ。

ティナは色々と重く、苦しく、どうしようもないことを考えている内に、無意識に溜息をついてしまった。

そして自らの失態に気が付き目の前に視線をやると、今まで五月蠅いくらい騒いでいた二人が、風の吹かない冬の夜の様な静けさで、ティナのことを見つめていた。


「少し、外の空気を吸おうか」


ティナがそう言い、ゆっくりと立ち上がって屋敷の庭に出るのに、二人は無言で付いて行く。

冬の夜は冷たく、何処まで行っても孤独を感じさせる。

冬の間は殆どの物流が止まる上、今は戦時中、開いている店は、不味い酒と不味い食事を出す下町の酒場か

魔導師を雇用し、無理くり商品を輸送している大商会くらいだ。

しかし、窓の中を覗けば、家族とのひと時を穏やかに過ごしている家もある。

少量の食事と、小さな暖炉に、家族が寄り添い合って、静かながらも幸せな空間が出来上がっていた。

その反面・・一人で寂しく過ごす者もいる。

恋人が、親が、夫が、妻が、子が、兄妹が、親友が、戦場から帰って来ない。

信じて待ち続けている者もいる。

諦めて、絶望に打ちひしがれている者もいる。

ティナは、暫く冬の夜空を眺めた後、ゆっくりと口を開いた。


「私は・・・私は・・・」


シェルの様に明るく振舞えないし、ミラの様に頭が言い訳でもない。

良き軍人であり続けなければならない以上、彼女らを友と呼んで戦うことは出来ない。

だって、シェルやミラが友だとしたら、私は彼女らに 戦場へ行け なんて言えない。

だから・・・だから・・・。

その後にティナが何を言おうとしたかは定かではない。

本人も分かっていないかもしれないし、シェルやミラが感じた『それ』が正解なのかもしれない。

が、そんなことはどうでもいい。


「何言ってんのよ、アンタは十分に凄いじゃない」


シェルのその一言が、ティナの弱った心にどれほど響いたことか。

「可愛いし、揉み心地のイイ胸して、そもそも凛としている女性の美しさを貴方は・・・」

シェルがティナ語りを始めようとすると、ミラが無言の笑顔でシェルの口を押える。

反論しようとするシェルに対して、獅子をも委縮させる無言の圧を掛け、見事に黙らせた。

それを見ていたティナが

「士官学校時代を思い出すな」

と、クスりと笑った。

二人はティナが久しぶりに笑ったことに驚いていたが、それよりも ティナが笑った と言う事実が嬉しく、二人もクスりと笑う。

三人は学生時代に戻ったかの様に、笑ったり、思い出話をしたりした。

冬の空は暗いが、時が経てば月明かりに照らされる。

冬の空の様に暗く、冷たいこの戦争も、何時か月明かりに照らされるのかもしれない。



ティナ達の細(ささ)やかなパーティーの数週間後、魔導温室菜園の建設が完了した。

これは帝国が新たに発見・・・否、発展させた技術を応用したものである。

帝国の武具の進歩は凄まじかった。

魔法陣の用途を支援から攻撃に転換させたこともそうだが、魔法陣の可能性を広げたことが主に該当する。

もし、魔力不全者が魔法を使えるようになる『魔法発動補助具』(仮にこう呼ぶ)物を開発すれば、その国の魔導師戦力が大幅に向上することになるだろう。

日常・・・つまり 『経済』 にも大きな影響を与えることになる。

現に、魔導温室菜園は 冬の間でも農耕が出来る と大商会が目を付けている。

しかし、魔法陣技術は一度は廃れたモノであるので、魔法陣技術者の補充と魔法陣を利用した道具の量産体制への

移行は、まだ時間が掛かる。が、技術者補充の目途は立っている。

この魔法陣技術に目を付けた幾つかの大商会の会長が、条件付きで人員を手配してくれたからだ。

その条件は 『戦後、彼らを商会に返すこと』

戦時中はこの技術が外部に漏れる可能性がある。

故に戦後に彼らを大商会に返すのだ。

彼らは魔法陣技術を身に着けて戻り、軍は魔法陣技術者を育成することが出来る、相互利益と言う

ヤツだ。

まあ、魔法陣を利用した軍事魔導兵器は民間企業である彼らに委託することになるだろうから、彼らの方が

最終的には得する。

戦時中だからこそ、彼らは強気で政府と軍を相手に出来る。

そもそも戦争で得するのは商人くらいだしな。

・・・それはさて措き、ティナ達は 試作・魔導武装媒体改 の実験のために、軍本部に呼び出されていた。

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