第37話:新たに ~作戦と仲間と・・・~

大総統は悩んでいた。

国内は戦争により疲弊し、多くの軍人が戦死し、国境部の国民は何時戦火が自らが住まう所まで広がるかと

怯えている。

厭戦気分は兵の士気や、政治家にまで影響を与えている。

経済も大打撃を受け、国力が戦前よりも大きく低下していることは、赤子でも分かる様な状況だ。

一部地域では少数ながらも餓死者が出ている。

人的資源も物的資源も、何もかもが足りない状況だ。

戦争とは恐ろしいモノだ。

大勝した国は、勝利の味を占め自国が滅びるまで戦争を行う。

敗戦し、とても容認できぬ様な条約を締結させられた国は、独裁者を誕生させる。

戦争で勝利すれば、絶大な 利益 を得られる。

連合国、王国、帝国、共和国、民主平等国・・・彼らは莫大な財宝に目が眩み 獅子の眠る地 に足を踏み入れてしまった。

彼らが見事に獅子を討伐し、莫大な財宝を手に入れられれば、最低でも国民からすれば『意味の有る戦争』になり、ある程度の利益も得られる。

だが、獅子が勝った場合はどうだろう。

残るものは何だ。

傷つき、ボロボロになった自身と、鮮度の落ちた肉切れだけではなかろうか。

そんな時に 別の勇士(諸島国) が攻め込んできて、勝てるのだろうか・・・否、不可能だろう。

それに、獅子が死に、莫大な財宝を手に入れた勇士たちは、その財宝を独り占めせんと、仲間同士で

殺し合うだろう。

他国も、多くの兵士を失い、経済にも打撃を受けているはずだ。

それらを取り返すために、又戦争をする。

そして、その戦争で出た損害を別の戦争で取り返す・・・。


大総統は今になって、この戦争には、もしかしたら終着点がないのかもしれないと言うことに気が付いた。

大陸内だけで戦火は収まるだろうか・・・もしかしたら、世界を巻き込んだ 絶滅戦争 が始まるのではないだろうか、と。


「否」


だが、大総統と言う立場にあるが故か、彼は諦めなかった。

そう、大帝国が勝利し、戦争の火種全てに水をぶっかければいい。

大帝国は、人類のためにも負けることは許されない。

彼は悩むことをやめ、立ち上がり、総統執務室を後にした。



大総統は新たな立体機動作戦の立案を軍部に提案した。

曰く

『{第一作戦・威嚇}では、大陽昇帝国艦隊及び大帝国艦隊で、敵の主要軍港及び貿易港又は貿易商船を襲い、敵に 「大帝国は我々の首をじわじわと絞めるつもりだ」 と思わせる。それに並行して

{第二作戦・潜り込み}で、商人を装った王獣魔導隊が敵首都に侵入し、諜報活動を行わせている陽炎衆と

合流した後、主要機関を 〝強襲‶ する。

{第三作戦・焦らし}では、魔導要塞守備隊に攻撃命令を出す。いきなり動き出し大帝国軍に敵は混乱する。そして、そこに偽の伝令兵(陽炎衆)が首都襲撃の報を持っていく。

そこで敵は 「首都攻撃を成功させるために、我が方面軍を魔導要塞に釘付けにしようとしているのか」、と思い幾つかの部隊を首都に向かわせるはずだ。

{第四作戦・蘇り}にて、陸軍機動魔導師師団4個師団と陸軍魔導武装白兵戦師団3個師団をバル―グラット港に上陸させる。そして、首都方面から帰って来ている王獣魔導隊とこれらの師団で、首都に向かっている敵軍を挟撃し、迅速に殲滅した後に魔導要塞防衛軍と残りの敵前線部隊を挟撃する。

第一作戦も、第二作戦も、第三作戦も、全て欺瞞(フェイク)、真の目的は敵の頭を叩き潰し、足と手を捥ぐことにある。』


「貿易を止めさせ、挟撃作戦も行い、機動性も重視されており、我々独自の情報戦術も取り入れている。

君らの意見をまとめ上げた良い作戦だと思わないかね」


大総統の言葉に、軍部上層は縮こまっていた。

彼はともて優秀な政治家だ。

とても優秀な政治家に、軍部上層の議論が簡単に抑え込まれてしまった。

優秀な政治家なのに、優秀な参謀でもある。

これ程に頼りになる味方はいないが、彼が敵だったと考えると、心の底から震えたくなる。

結局、軍部内では大総統の作戦を実行することが決定され、早速準備に取り掛かることになった。

が、今はまだ2月の中頃、前線部隊が動くことになるのは、まだまだ先の話である。



「宜しくお願い致します」


彼女は武士(モノノフ)であった。

シーシャ・メメントと言う優秀な軍人を失った王獣魔導隊の第三小隊は、副隊長のいない状態にあった。

そこに新たにやって来たのが、 宮崎(みやざき)忍(しのぶ)大佐 である。

武士(モノノフ)の装(よそお)いをしてはいるが、歴(れっき)とした支援魔導師である。

彼女の御家は代々 武士(モノノフ) として歩兵師団を指揮したりしていたのだが、彼女は父方ではなく母方に

似て、剣の才よりも、魔法の才が秀でていいたらしい。

が、彼女の魔法の才は母似ではなく、祖母と同系統の支援魔法とのこと。

まあそれはさて措き、ティナは彼女を含め、王獣魔導隊の皆を家に招待することにした。

シーシャを失い、ティナを含め皆が悲しんでいた。

『皆』が出席するはずだったパーティーを、開く機会を失ってしまった。

仲間を失うことには慣れている・・・否、慣れてしまった。

が、親友を失うことに慣れている者は数少ない。

ティナは、暗いことを考えるより、明るいことを考えた方が良いと思ったし、皆を労うと言う意味でも、

彼女らを家に招待することがよいと考えたのだ。

戦争はまだ続く・・・だが、休みの間くらい、仲間と騒ぎたいではないか。

休暇もそろそろなくなるしな。

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