第36話:上陸作戦立案 ~最強の陸海魔軍立体機動作戦~

ティナは自らの給料から酒を大量に買い(冬×輸入品なので、総額〇〇〇万位した。)、南部提督らに提供した後、大陽昇帝国の状況について詳しく聞いた。

南部提督は、自分達が大陽昇帝国から脱してきた経緯をこと細かく教えてくれた。



数ヵ月前、否、反乱の火種は数年前から燻っていたと言えるだろう。

諸島国は何処も君主制の国であった。

島国の文化は、他の国からの影響がない故か独特なモノになりやすい傾向にある。

が、造船技術が大幅に上がった現代、中央大陸や他の島国との交易が増えた。

結果、島国が大陸と言う列強と対抗するために 『模倣』 を始めた。

そして、独自のイデオロギー乃至(ないし)は社会の形態を『弱い』と断定し、大きな変革が始まった。

大陽昇帝国も例外ではない。

絶対君主制であった大陽昇帝国は、民主平等国との貿易を開いたことによって『共産主義』と言う、新たな

イデオロギーの波に徐々に浸食されていった。

その結果、反乱と言う『共産革命』が発生したのだ。

それはさて措き、ここからは反乱の詳しい内容を教えよう。

数ヵ月前、青年将校30名が率いる共産派の軍人が武装蜂起した。

旧軍事勢力(昔から皇王に仕える軍人)は要塞島(全体を基地化した島)を駆使したり、皇宮に立て

籠もったりと、反抗の姿勢を見せたが、軍人の多くが・・・否、殆どの人間が共産主義の色に

染まっていたせいで、一つ又一つと旧軍事勢力の拠点は堕ちて行った。

運よく、大陽昇帝国の要塞軍港の異名を持つ、小尾島軍港に最新式の戦列艦と共に着任していた南部提督が

最後の大陽昇帝国人となってしまっていた。

しかし、防壁が破壊され、物資も乏しくなってしまった小尾島軍港を、南部提督は後にすることにした。

3隻の軍艦を失いつつも、南部提督は 新政大陽昇民主平等国第2艦隊 の追撃を振り切り、中央大陸まで

来たとのこと。

彼は大陽昇帝国軍人としての誇りを持っていたが、部下の命を犠牲にしてまで貫き通すことはしなかった。

結果、海賊行為を行い、我々王獣魔導隊に捕縛されたわけだ。


「さて、ティナ提督・・・本音を言わせてもらいたい」 


反乱の詳しい内容を話し終えた南部提督は、これまでに見たことのない様な真面目な顔をして、

民主平等国挟撃作戦について、異議を唱えてきた。

(※民主平等国挟撃作戦:軍部上層が立案した大包囲作戦である。作戦内容は、第一作戦 基盤作戦 にて

南部提督率いる第6艦隊と王獣魔導隊、海軍魔導師師団によって、魔導要塞より後ろにある民主平等国の軍港、バル―グラット港を制圧、挟撃作戦の 基盤(きょてん) を確保する。第二作戦 雷速作戦 は、

大帝国輸送艦隊にて、陸軍機動魔導師師団4個師団と陸軍魔導武装白兵戦師団3個師団をバル―グラット港に入港させる。そして陸軍機動魔導師師団は魔導師のいない民主平等国軍の重装歩兵や騎兵を重点的に狙い、残った軽装歩兵などを陸軍魔導武装白兵戦師団が殲滅し、王獣魔導隊が中央突破による、敵本陣の強襲を行う。指揮系統の攪乱と、前後からの魔法攻撃、これにより何百万と言う敵を、何十万で撃滅できる。各戦線から優秀な兵を引き抜き、新兵を替わりに投入する形になり、各戦線の負担が増えるが、もしこの民主平等国挟撃作戦が成功すれば、民主平等国の戦力を大幅に削り、少数精鋭による首都侵攻作戦が実施できる様になる。そうなれば、民主平等国方面戦線に投入していた65万近い兵士が、各戦線に投入できるようになる。そうなれば遅滞戦闘を楽に出来る様になるどころか戦線によっては反抗作戦を開始出来るだろう。迅速に行わなければならない上、一つの失敗も許されない作戦だが、成功すれば勝利への大きな一歩を踏み出せると言える。大総統もこの作戦を大いに肯定した上、第二作戦は大総統からも高く評価されている陸軍軍人である、ディーンツ・ヴィルヘルム・グリッデン大将が立案したものだ。

それに、これ以上よい作戦を、ミラもティナもシェルも、大総統含め軍部上層でも出ていない。)

ティナは、南部提督の異議を聞くことにした。

これは大切なことである。

10人の人間がいて、10人ともが同じ考えを持っていても、それが正しいとは限らない。

常識とは、幼い頃に身に着けた偏見と差別の『アクセサリー』でしかないのだから。

そして、ティナのこの行動は後に、正しかったことが証明される。


艦隊の強みは海路封鎖、輸送船の破壊工作、沿岸部制圧にある。

これは海軍ならば誰でも理解していることだ。

民主平等国は絶大な国土、資源、人的資源を保有している。

が、その人的資源が民主平等国の首を絞めることになる。

奴らは、他の島国との貿易をフル稼働させ、国土全体を配給制にしてやっと食事をしている状況。

金もあり、資源もあるからこそ出来ることだ。

だが、造船所を襲い、港を襲い、艦隊を襲い、敵の貿易を完全に凍結すればどうなるか・・・。

挟撃作戦を行うより、確実に被害を抑えられる作戦であり、成功の確率も高くなる。

これが、南部提督の意見だった。


冬が明けるまでまだ時間がある。

南部提督のこの意見は、軍部上層での議論を生むことになる。



「大帝国軍の損耗は激しい上、ガルベル提督を含め優秀な将校も戦死し始めている。損耗を抑えられる上、成功の確率が高いならば、この作戦の実行を視野に入れるべきだ」


ある将校はそう言う。

だが


「軍の損耗を抑え、優秀な将校を死なせたくないのならば、絶対に民主平等国挟撃作戦を実行すべきだ

我々は迅速な行動により敵を混乱させ、混乱により弱体化した敵を陸・魔による立体機動作戦で殲滅することを得意としている。速さが最も大切なのだ。敵の首をじわじわ絞めて行くよりも 肉を切らせて骨を断つ 方が効率がいい。それに、新兵は先の戦いで3万にまで減っている。元々8万しかいなかったのにだ。新兵を育成し、前線に投入するよりも、精鋭60万の兵士を各戦線に投入できるようにした方が、兵の損耗も、優秀な将校が死ぬことも少なくなるはずだ。」


この二つの意見で軍部は割れていた。

それに、食料問題を抱えているのは大帝国も同じこと、これ以上の戦争はどの国も困難なはずだ。

なのに、誰も講和への道を模索しない。

この異常な事態に気が付き、この大陸大戦の恐ろしさに気が付いていた者は、この時点では殆どいない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る