第35話:新たな戦力 〜越冬の為に〜

ティナ達王獣魔導隊に緊急出動命令が発せられた。

曰く、大帝国に3つしかない港の内の1つ、真威津琉(マイヅル)港が謎の集団に占領されてしまった

とのこと。

見たこともない様な超軍艦が圧倒的な火力で、真威津琉港守備魔導小隊及び海軍上陸隊を殲滅した。

偵察に出た陽炎衆の話では、100門もの大砲を積んでいる戦列艦1隻、70門の戦列艦2隻、残りは40門程度の軍艦が3隻らしい。

最初、誰もがこの報告を信じられなかった。

大帝国最大の戦列艦でも60門であるからだ。

だが、もしこの謎の集団が大陸の外の島国から来た者達ならば納得がいく。

この中央大陸は最強の 陸軍国 が揃っている。

それに対して、大陸の外の国の殆どが 海軍国 である。

そして、彼らの造艦技術は我々を遥かに凌駕している。

故に、100門もの大砲を積んだ超軍艦を建造していても不思議ではない。

そして・・・そんな技術を持っているのは恐らく、大陽昇帝国だろう。

我々が陸を統べる獅子ならば、彼らは海を支配する白鯨だ。

・・・もし、謎の集団が大陽昇帝国の軍ならば、最悪の事態の可能性が出て来る。

敵(中央大陸の何処か)に最強の艦隊が味方するという可能性だ。


海運は大量の物資輸送に向いている。

仮に、帝国と大陽昇帝国が同盟を結び、大帝国の沿岸部(北部)に上陸されれば、その時点で我々の敗北は

確定する。

だが、陽炎衆の話によると、どの艦も国旗を掲げていなかったらしい。

謎の集団の正体を我々は確かなものにしなければならない。


元真威津琉港守備海軍上陸隊駐屯地


「提・・・ボス、倉庫にはまともな物資がありません」


それもそうだろう。

現在中央大陸はどこの国も慢性的な食糧不足に悩まされている。

それは大帝国も例外ではない。

大帝国は陸軍国家。そして現在は 大陸大戦 の真っ只中で、海軍への物資の供給が疎かになっていることは否定できない。

さらに、一部地域は配給制となっており、軍隊自体の物資もかなり乏しくなっている。

その上、彼らは上陸に際して艦砲射撃にて沿岸部の敵の戦力を削った。

その時に、一部倉庫に砲弾が当たり、保管してあった物資が使い物にならなくなった。


冬になり、氷塊が海の上に漂う今、これ以上の航海は危険・・・。

船員達が途方に暮れていると、ボスが

「問題ない」

と一言。

続けて

「人質を使って物資を寄越させればいい」

彼の言葉に、船員達は

「おお」

と、納得のいった声を出した。

が、次の瞬間、彼らの頭上から轟音が響き、次の瞬間には皆が気絶、又は死亡していた。


「ティナ隊長、全ての第三種敵対勢力の排除に成功しました」


シェルの報告にティナは頷き、第三種敵対勢力の生存者確保を命令した。

(※第三種敵対勢力とは、大帝国に仇なす敵国及びその同盟国以外の敵集団を指す。要は盗賊や海賊、パルチザンの類のことだ。ついでに、第一種敵対勢力は敵国の軍隊、第二種敵対勢力はその同盟国の軍である。)

とまれ、ティナ達は軍艦5隻の鹵獲と第三種敵対勢力の制圧に成功した。



「起きろ」


冷たく鋭く重い声と共に、冷水がボスに掛けられる。

刃の如き冬の冷水に、ボスは堪らず

「冷てっ」

と言いながら飛び起きる。

ボスが辺りを見回すと、ここが倉庫であることが一目で分かった。

しかも埃だらけで、何年も使われていないことも簡単に分かった。

彼は自らの影で椅子に固定されており、身動きが一切取れない。

何が起こったを完全に理解したボスは、目の前にいる1人の女性に目を向ける。


「あんたさんらが、俺らを」


ボスの質問に対して、ティナは

「お前に発言の許可は与えていない」

と一蹴(いっしゅう)した。

続けて、ティナはボス、もとい大陽昇帝国海軍第6艦隊司令長官 南部(なんぶ)武吉(たけよし)大将 に幾つかの

質問をすると言い、資料を取り出した。

要は、尋問である。

最初に所属・名前などの個人情報の確認、何故大帝国に来たのか、艦の性能など、多くの情報を聞きだしていく。

南部は諦めた様に、淡々とティナの質問に回答していった。

その中で、最もティナが気になった情報が 『大陽昇帝国内で反乱が起こったこと』 である。

今まで君主制で、帝国軍人と言えば 皇王様 に仕える忠臣と言うイメージが強かったのだが・・・。

話を聞く限り、共産主義の魔の手が伸びているらしい。

恐らく、戦力の増強を狙っている民主平等国の仕業だろう。

大陽昇帝国は海軍の列強である。

もし、民主平等国に海運を強化されれば、複数箇所からの挟撃を受ける可能性も出てくる。

大陽昇帝国の存亡はどうでもいいが、我が帝国の存亡に関わってくるとなると、放っておくわけにもいかないだろう。


「ヴィヴィ中佐」


ティナの声に即座に反応して、ヴィヴィが部屋の中に入ってくる。

ティナは大陽昇帝国内で共産派が内乱を起こしていることを、軍本部に伝えるように命令した。

ヴィヴィはティナの命令を受け、急ぎ帝都へと飛び立った。

その時、ヴィヴィがもう一つの命令を受けていたことを知るのは、ヴィヴィとティナ以外には誰もいない。

ティナは全ての情報を聞き出した後、生き残った南部元大将らにしっかりとした食事を与えた。

最初、何が起こったか分からなかった南部大将らだったが、その答えは一週間後に分かる。



「南部元大将殿・・・取引をしないか」


ティナの一言に南部は目を丸くして驚いた。

捕虜・・・否、重罪人として捕らえられている自分達に取引を持ち掛けてくる、意味が分からなかった。

が、ティナの取引内容を聞いた南部は、即座に部下達に意見を聞き・・・見事に取引が成立した。

その取り引きの内容は

「相互武力提供条約の締結である」

相互武力提供条約、簡単な話、助け合いをしようと言うことだ。

南部は大陽昇帝国を救いたい、ティナ達は優れた海軍戦力が欲しい。

それに、恐らく内乱を誘発させて、共産派の助けしているのは 民主平等国 であることが予想される

以上、これ程良い関係もないだろう。

まあ、敵の敵は味方と言うことで、要は協力して民主平等国を倒しちまおうと言う話だ。

そして、民主平等国打倒のために南部率いる元大陽昇帝国第6艦隊が大帝国軍に最強の海軍を提供し

民主平等国打倒後は、大陽昇帝国奪還のために大帝国が最強の陸軍を提供する。

相互利益(ウィンウィン)の関係と言うわけだ。


「対等な関係になったところで・・・南部提督、何か今すぐ提供して欲しいものはあるだろうか。

貴方の部下を殺めてしまった謝罪の意味でも、できるだけ融通を利かせよう」


真面目なトーンのティナに対して、南部提督は陽気な声でこう答えた。


「俺と部下全員分の酒をくれ」

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