第34話::シーシャ・メメントの葬式 ~戦争は・・・~

怒っている・・・怒っている・・・怒っている・・・怒っている・・・怒っている。

王獣の率いる猛獣の集団に敗れた魔獣が怒っている。


帝国7王騎士統括本部


「・・・諸君、憤っているのだろう、私もだ」


シエル大将含める、全ての王騎士が・・・表に、或いは自らの内に、怒りを覚えていた。

しかし、喜びもある。

敗北したのだ。

被害はこちらの方が少ないが、それは戦術的勝利でしかない。

戦略的には 敗北 が正しいだろう。

敵の数は減らせたが、それだけだ。

こちらも一大作戦の為に幾度も兵士の大移動を行った上、共和国に貸しを作ってしまった。

派兵した兵の一部が、雪のせいで帰って来れていない。

それを共和国が面倒を見てくれている。

冬が明ければ、何かしら要求してくることだろう。

戦争は政治の一部だ。

故に、大帝国は強大なのだ。

経済力も大陸・・・否、世界一であり、最強の陸軍国。そんな強大な国の 切り札 と本気で戦えると

思うと、楽しくて仕方がない。

だが・・・我々は負けはしない。

絶対に奴らの、猛獣共の首を血祭りにあげるのだ。

彼らは、本気で準備する。

年明け、雪が完全に溶け、水分が土に完全に吸われた時、再攻勢を仕掛ける。

その時に我々7王騎士は王獣魔導隊を狙う、皇帝からの許可も得ている。

他の何者にも邪魔はさせない。

奴等の血を啜り、肉を喰らい、骨の髄までしゃぶり尽くす。

部隊の練度を上げ、自身も修行を積み、奴らを殺すことだけを考える。

皮肉にも・・・王獣魔獣隊の手によって、獰猛な魔獣が牙を研ぎ始めた。



「ガディックは戦死、ボンドークは再起不能・・・フフフ」


メリナは馬鹿らしくなって笑ってしまう・・・が、次の瞬間、言いようのない怒りが込み上げてき

机を叩き割る。

部下がやられた。

フィースも怒りを覚えていた。

ビルスク提督は、軍部上層の罪を着せられ、前線司令官をやめさせられた。

本国では軽く責任を追及される程度で終わったが、周りの、昇進と言う名の魔に取りつかれたクズ共によって、

結局ビルスク提督は辞任を余儀なくされるまで追い込まれた。

防毒面(ガスマスク)隊の根回しがあったから、大きな罪に問われることはなかったものの、軍部の権力

争いは醜いものだ。

共和国の軍部上層に復讐をするためにも、フィースは己の牙を研ぎ澄ませる。

王獣魔導隊に直接的な損害を受けていない、他国の切り札も、帝国・共和国の切り札と戦闘を行った

王は獣魔導隊の勇士を聞き・・・己が乱世の王獣にならんと牙を研ぐ。



大帝国では、個人的な葬式が行われていた。

シーシャ・メメントの葬式である。

出席者は海軍参謀本部から数名と海軍元帥斎藤千登勢提督、海軍の同期に王獣魔導隊の隊員達である。

父親は数ヵ月前に病死、母親は数年前に共和国の男性と再婚し、共和国へ移住していたようだ。

端的に言うと、シーシャの親族はとある人物を除いて、誰一人として参加しようとしかなった。

彼女は、親族ではあるが義妹(ぎまい)・・・否、彼女とシーシャは間違いなく 家族 だった。。

そこに血の繋がりは関係ない。


「ありがとうございます・・・ティナ提督」


彼女、シーシャの妹であるエリィー・メメントは、ティナに姉の葬式を取り仕切ってもらったことに

感謝する。

しかしティナは、小さな葬式しか出来ないことをエリィーに謝っていた。

戦争によって沢山の人が死んでいる。

上級将校や国民的英雄ならいざ知らず、それ以外の人間の葬式を戦時下で行うことなど、殆どない。

そもそも、死体すらまともに帰って来るかも分からない。

戦争で家族を失った者達は、皆・・・家の中で涙を流すことしか出来ない。

葬式自体金も掛かるし、戦時下で生活以外に金を当てることなど出来ない。

要は、ティナは上級将校に・・・軍人として、相応しくない行動を取ったわけだ。

故に、葬式はティナの邸宅を使い、出来る限り小規模なモノにしている。

そのため、シーシャと友人か、シーシャに恩のある軍人しか、この場にはいない。

だが・・・それでも、エリィーはティナ提督に頭を深々と下げる。


「大きさは関係ありません・・・姉を・・大切に・・して・・・下さる・・・

その・・気持ちだけで・・・・十分なん・・です」


エリィーは涙を流す。

ティナは、シーシャの親族に手紙を出すために、シーシャの個人的な過去について調べている時に

エリィーの過去についても触れる機会があった。

民主平等議会の議長、大帝国でいう大総統は、残酷で冷徹、現実主義者で、極端なまでの効率主義者。

民主平等国と名乗ってはいるが、彼・・・ディリック・フォン・ヘディ・ヴィークシャン議長は

国民のことなど微塵も考えてはいない。

否、彼は国を機械、国民を部品として考えている節がある。

だが、彼の優秀さはそこにあった。

暗黒の一週間。

彼が行った、誇られるべきではない、伝説的な政策(ぎゃくさつ)である。

民主平等国以前、そこには帝政デデールと言う国が存在した。

そして、帝政デデール首都で民主革命が発生し、今の民主平等国となった。

帝政デデールや民主革命についての話をすると、かなり長くなるからそれはまたの機会に。

とにかく、歴代の議長の中でもディリック程残酷で冷徹な者もいないし、優秀な者もいないだろう。

暗黒の一週間、世間一般ではそう呼ばれているが、一部では 奇跡の一週間 とも言われている。

理由は 『枯渇寸前の国庫金を、たった一週間で最盛期の1,5の金額にまで潤わせた』 からである。

何故、そんな神懸かり的なことを行ったのに、世間一般では 暗黒の一週間 と呼ばれている

のか・・・。

それは彼が行ったことが 国内の富豪の虐殺 だからだ。

極端なまでの富の一極集中が、民主平等国を崩壊の危機にまで追い込んだ。

故に、彼は富豪を皆殺しにし、彼らの財産を国庫に、会社を国営化し、国民の全体的な生活の質の向上を

成功させた事で、民主平等国では未だに 奇跡の一週間 と呼ばれているのだ。

法律の改正、税制の整理、交通インフラの整備、など、彼の代で富国強兵を最後まで完成させたと言っても

過言ではない。

しかし、そこには 躊躇いのない殺人 も含まれているし、人間のことを考えていないモノも多々あった。

無能な働き者は排除し、必要とあらば平気で人を殺す・・・彼は人を『人』では数えない『個』で数える。

それが彼の優秀さであり、恐ろしさである。

それはさて措き、エリィーはそんな暗黒の一週間の被害者である。

殺されるのを逃れるために大帝国に逃げてきたらしいのだが・・・途中で父親は秘密警察に捕まり

母はストレスで病にかかって、大帝国に着く頃には亡くなっていた。

彼女は何年間か、大帝国の孤児院でお世話になっていたのだが・・・民主平等国の人間だとバレると

追い出されてしまった。

まあ、孤児院で働いている女性の殆どが戦争で夫や家族を失った者でもあるので、国外の人間に対して当たりが厳しく

なるのは必然だろう。

そして、路上で倒れているのをシーシャに保護され・・・彼女との生活が始まる。

ティナは一度、家族を失っている。

無論、全員ではない・・・が、家族を失う痛みは知っている。

それが二度ともなれば、悲しみ、なんて簡単な言葉では収まらない程の感情の渦が出来るだろう。

ティナは、優しくエリィ―を抱きしめる。

エリィーも、抵抗することなく暫くは胸を貸してもらうことにした。


戦争は膨大な利益を生む、だからなくならない。

戦争は勝っても負けてもなくならない。

戦争で勝てば、更なる利益を求めて戦争をする。

敗北すれば、理不尽な条約を破棄するために戦争する。

勝った者は驕り、敗北者を見下す。

戦争は、一度始まったらどちらかが諦め、奴隷となるか、どちらか・・・或いはどちらもが滅びるまで

続く。

大帝国は勝者であり続けた。

武力で豊かになった国の国民が、武力を否定することはないだろう。

そして、批判する資格もない。

不条理で、不合理で、人道的でないモノの恩恵を、家族代々受けてきたのだから。

だから・・・せめて、ティナ達の役目は、大帝国を永遠の勝者として君臨させることだろう。

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