超短番外編:シーシャ・メメント ~彼女の人生~
父は気高い軍人だった。
でもある時、市街地の攻略戦時に。
・・・私と同じくらいの子供を誤って殺してしまった。
その頃からだ。
父が。優しかった父が変わってしまったのは。
父はその戦いから帰って来た後、直ぐに退役してしまった。
父の優しさは、軍人には向いていなかったのだ。
でも、それに気が付いた時には、何もかもが手遅れ。
狂った父の世話に母も病んでしまい・・・私を置いて出て行ってしまった。
父も、毎日酒浸りで、週に一度お金を取りに家に戻ってくる以外は外で酒を飲んでいた。
私は、誰からも必要とされなくなった。
そんなある日、父から士官学校に入学する様に言われる。
理由は幾つかあった様だ。
私と顔を合わさずに済むし、面倒を見なくてよくなるし、私が戦争で死ねば自らの過ちを償えると
考えたかららしい。
その時、あの優しかった父が、本当に狂ってしまったんだな、と実感した。
士官学校は、卒業後6年間従軍するれば、学費が免除される。
私は、無償で行ける学校に行くことにした。
でも今考えたら、あれは私なりの意地だったのかもしれない。
私が本当に戦争で死ねば、父も自らの愚かさに気が付くだろうと。
私は、女性の士官候補生にしては珍しく孤立していた。
まあ、魔法や剣術の訓練は大変だったけど、自由に使える大書庫室など、
無償で提供される知識のためなら、それくらい簡単に我慢できた。
私に直接ちょっかいを掛けてくる者はいなかったし、それなりに充実した学校生活を送れていた。
でも、彼女が・・・彼女達が、私の人生に大きな変化をくれた。
「ここ、間違ってるよ」
初めて私に話しかけてくれた人、初めて周りと等しく接してくれた人、それがミラ・エルヴァン先輩だった。
私より頭が良くて、魔法の扱いに長けていて、でも天然な所があって、剣術がとても下手で・・・。
先輩は、士官学校での私の母の様な存在だった。
ミラ先輩の友人の、シェル先輩とティナ大尉も・・・素晴らしい方達だった。
シェル先輩は、全てが私よりも出来る先輩だった。
でも、私のことを見下すどころか、毎日の様に
「可愛い」「食べちゃいたい」「デートする」
と話かけてくれた。
ティナ大尉は・・・私の人生を最も大きく変える言葉を、言ってくださった。
「人間には差があるけど・・・それは『個性』であって、差別するモノではないよ。
得意不得意が発生するのは仕方ないし、差が生まれるのも仕方がない。
でも、差はただの 違い でしかない。
そこには、差別する理由も、馬鹿にする理由も、ましてや要らないなんて理由は存在しない」
要らないなんて理由は存在しない。
私は何に必要なのか、誰にとって必要なのか・・だから私は、ティナ大尉にこう問いかけた。
「ティナ大尉、私は貴方にとって必要な存在ですか」
ティナ大尉は即答してくれた。ああ、と。
そうして私は、彼女達・・・ティナ大尉、シェル先輩、ミラ先輩に必要とされる存在となれるように
努力するという、目標を手に入れられた。
彼女たちのお陰で、新たなお友達もできた。
皆さんに受けた恩は大きすぎる。
お腹が焼ける様に熱かった。
死を覚悟した最後の瞬間に・・・最も愛する 家族達 から
「ありがとう、シーシャ」
と言ってもらえた。
軍人なんて・・・戦争なんて大嫌いだった。
優しい父を、優しい母を奪って、私の心を覆う闇だったから。
でも、皮肉かな。
父が半ば無理やり私を士官学校に入学させなかったら、皆に出会えてなかったから。
軍人も戦争も嫌い・・・でも、家族に出会えたあの場所の記憶は、絶対に忘れない。
でも、一つだけ心残りがある。
あの娘(こ)・・・いや、隊長なら、きっとあの娘(こ)のことに気が付いて、良くしてくれるはず。
ああ、悪くない人生だったって・・言える・・・か・・・・な。
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