第40話:雪融け ~一大作戦の決行~

王獣魔導隊第一小隊専用魔導武装媒体の最終調整も、第三小隊の魔法陣についての基礎知識・技術の習得も、全てが問題なく終わった頃・・・雪が融け始めた。

ここから、雪融け水によって泥濘(ぬかるみ)や泥土(でいど)ができる。

そのため、鎧を纏っての行軍や馬車での輸送が困難となる。

この期間はどの国も、侵攻や防衛のための準備期間となる。

そして、雪融け水が完全に吸収され、太陽によって泥濘や泥土が完全に乾く頃、再び戦が始まる。



「大総統・・・泥濘や泥土が完全に乾きました」


部下からのその一言に、大総統は力強く頷く。

この部下の言葉は、再び敵が攻めてくることと・・・一大挟撃作戦の第一作戦 『威嚇』 の開始を

意味していた。

すでに真威津琉(マイヅル)港にて、大陽昇帝国海軍と大帝国海軍が合流し、『威嚇』の準備は完了

している。

あとは、大総統の許可さえ下されれば、即刻『威嚇』作戦を実行できる状況だ。

そして今日、大総統の許可が下された。



1ヵ月後、民主平等国、民主平等議会


「同志諸君、我らが母なる大地の恵みを狙っている、野蛮人共のことはもう知っているな」


民主平等議会はピリピリとした雰囲気の中、会議を行っていた。

この民主平等国は幾つかの物産・・・主に食料品の多くを輸入に頼っている。

故に、海上封鎖や通商破壊を行われると、国家全体が危険にさらされる。

無論、民主平等国は敵国の通商破壊に対抗するために、海軍を強化し、海上の警戒を怠ったこと

はない。

それに、外の国は島国であり、我々陸軍国家よりも何倍も強力な海軍を有している。

今までは、敵の艦隊に襲撃されることは殆どなかったのだが・・・ここ最近、大帝国海軍が

我々の通商破壊作戦を展開している。

だが、大帝国は所詮 陸軍国 でしかない。

強力な海軍国の艦隊には手も足もでないだろう。

それが、民主平等議会の結論であった。

が、大帝国は謎の巨大な軍艦と、海上戦の精鋭達を手に入れていた。

それも 『大陽昇帝国』 という、最上の手駒。

そして、民主平等国最大の弱点を突かれた、と言う事実は議長を激怒させ、問題解決のための

会議を開くこととなったのだ。

まあ、問題解決のための会議、と言うのは名目で 『粛清対象の決定』 が趣旨となっている。

「これは国防議員である同志ペルシチョフの責任ではないでしょうか」

「ええ、私も情報収集も怠り、海上の警戒も怠った、同志ペルシチョフが悪いと思います」

今回の粛清対象の擦り付け合いの 被害者(たいしょう) となったのは、国防議員である

イワン・ペルシチョフであった。

同志ペルシチョフは、色々と弁解を述べ粛清を回避しようとしたが・・・

「今回の件は、情報収集不足と海上防衛を担う海軍の責任であることは明らかである。

そして、軍の責任は国防議員の責任である。

・・・同志ペルシチョフ、残念だが君には責任を取ってもらう」

と議長に一蹴されてしまった。

議長に一蹴されたことによって、粛清が決まった同志ペルシチョフは、会議室の中で待機していた

同志達の手によって別室へと連れていかれた。


「同志議長。どうか粛清だけはああああああぁぁぁ」


同志ペルシチョフの悲痛な叫びも空しく、議長の心に彼の叫びが響くことはなかった。

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