第30話:激戦 ~最強対最強~
今までに見たことがない程の剣速で二人は戦う。
瞬(まばた)きする暇もない程だ。
先程、他の隊員は己の隊長の邪魔をさせないために、お互いに牽制しあうと言ったが、今ではもう
兵士達にその気はなかった。
厳密に言うと、己の戦いにのみ集中している。
己の隊長達の本気の戦い、それは凄まじく、兵士達をまるで神々の戦を見ている様な気持ちにさせた。
そもそも、相手と戦いながら隊長を守るなど、そんな高度なことが出来る程の余裕が、両者ともない。
帝国最強と大帝国最強の実力は拮抗していた。
互いに、気を抜いた方が死ぬ。
だが、そんな過激な戦場の中に居ながらも、満面の笑みで戦っている戦士が存在する。
5王騎士達だ。
彼らは今、戦っているのだ。
そう、戦っている・・・対等、もしくはそれ以上の強敵と。
「楽しいぞ、大帝国最強の戦士・・・赤の獅子よ」
純粋な笑みを浮かべながら、シエル大将はティナに斬りかかる。
本当に楽しそうだ。
だが、ティナは表情一つ変えずに彼女の斬撃に対応する。
そうして、またしても目に目えぬ速さで斬り合う二人。
ティナは魔導武装、シエルは生身、技量の高さはシエルの方が一枚上手の様だ。
それに、彼女は単純に楽しんでいる様に見えて、意外としっかりとした戦い方をしている。
ティナに魔法を発動させる時間を与えていない。
自らの土俵に立たせ続けている。
だが、ティナも未だに表情一つ変えていない。
これでは、もう余裕がないのか、それともまだ余裕なのか、分からない。
ティナはティナで、相手に迷いを生じさせる様な行動を取っている。
剣技だけではない戦い。
傍から見れば、恐ろしい剣の技だけの戦いに思えるが、それ以外にも、心理戦や先読み、フェイントなど
剣技を超えた、究極の戦いを行っている。
「いいぞ、いいぞ、いいぞ、赤獅子ィィィ」
シエルは、剣撃の速度を更に上げ、ティナに斬りかかる。
流石のティナも、彼女の剣撃を防ぎきれなくなってきた。
一瞬、一瞬だけでいい。
ティナは魔法の発動が出来ないかを考えた。
そして、嘗(かつ)ての師、ジーク中将の言葉を思い出す。
『剣技の運用、武具の運用、魔法の運用、一つの使い方に拘(こだわ)るな。
攻撃が防御になることもあれば、防御が攻撃になることもある。
一つの固定観念に捕らわれるのではなく、無限の可能性を追い続け、多くの手段を模索しろ。
それが、戦の為の剣技だ。』
子供騙しでもいい。
一瞬だ、魔法さえ使えれば、この劣勢を覆せる。
そう思い、ティナが強く剣を握った瞬間、何かを思いついた。
そして、剣を構え、シエルに斬りかかる。
「ハハハハハハハハハ、鋭い踏み込みだな。だが・・・」
ティナの攻撃は余裕で防がれた、かに思われたとき、ティナは魔導武装の剣に対して一瞬だけ魔力の
供給を止めた。
そして、シエルの防御をすり抜けた次の瞬間に魔導武装の剣に魔力を供給しその剣が、
シエルの額を掠(かす)めたが、彼女は大きく後方に飛びのき、頭を真っ二つにされるのを避けた。
が、ティナにとってはそれで充分であった。
魔法を行使する時間が生まれた。
更には、距離も稼げた。
すかさずティナは魔法の行使に移る。
並列思考を行い、弾幕を張って彼女が近づけないようにする。
「ちっ、魔法とは本当に厄介なものだ」
自らの土俵から離れて、魔法の行使に移った赤獅子を見て、シエル機嫌を悪くした。
彼女は、ティナの圧倒的な弾幕の回避に専念するしかなく、攻撃する暇がなかった。
だが、ティナも魔法攻撃を緩めれば、一瞬で距離を詰められる状況。
互いに、打つ手なし。
一方的な攻撃という点では、ティナの方が優勢ではある。
とりあえず、ティナは戦況に大きな変化が出るまでは、魔法の弾幕を張り続けることにした
のだが、シエルはティナに挑発の言葉を掛け続ける。
まあ、見え透いた挑発に乗る程、ティナは馬鹿ではない。
だが、そんなティナにも 逆鱗 がある。
家族、仲間、友、それらへの侮辱や脅迫は、ティナを本気で怒らせるのに持って来いの話題だ。
「今、何と言った」
シエルは・・・獅子の尾を踏んでしまった。
仲間、友への侮辱、脅迫。
ティナはこれらを絶対に許さない。
シエルはそれに加え、魔法についても馬鹿にした。
「魔法という便利な道具に頼る軟弱者。魔法という才能だけで決まるモノに頼っているだけの雑魚」
と、言ってしまった。
ティナは知っている、魔法の才に恵まれなかった者が、どの様な思いをしているか。
魔法への嫉妬、妬み、憎しみを捨てろとは言わない。
だが
「仲間の努力を・・・愚弄するな」
ティナがそう言った途端。
周りの空気に重みが生まれる。
理由は誰でも分かった。
ティナから溢れ出る膨大な魔力、感情に左右されて魔力を暴走させているのだ。
それにしても、まるでティナの後ろに 獅子神 が姿を成したかの様な感覚に捕らわれる。
膨大な力の前に、体が感じているのだ。
本能的に、眠っていた獅子の尾を、自ら踏んでしまった愚かさを。
「総員、退避」
シェルの一言に、軍王騎士とそれに対峙していた者以外が、我先にと逃げ出す。
無論、敵の精鋭部隊も退避を開始する。
いよいよ、本格的な戦いが始まる。
ティナはその膨大な魔力に物を言わせ、身体強化を行う。
速さと力が驚異的なまでに上がったティナの一撃は、掠(かす)りでもすれば、確実な死が待っているだろう。
だが、シエルはとても楽しそうにティナの攻撃を避けて、反撃を行う。
彼女も、より一層素早く、鋭い動きになっていく。
無論、他の戦闘もそれに伴って更に激化していく。
戦闘は、いよいよ大詰めの段階となって来た。
1時間後、戦場に立っていたのはティナとシエルだけだった。
他の者は、相打ちとなり、死には至っていなくとも、既に動ける状態ではない。
だがそれは、ティナとシエルにも当てはまることだ。
膨大な魔力を消費したティナと、ティナの猛攻を受け続けたシエル。
互いの武装は完全に崩壊しており、二人は素手で殴り合っている。
避けはしない・・・否、もう避けられる程の体力は残っていない。
満身創痍の体に鞭打って、二人は相手に向かって拳を叩きつける。
二人の美しい容姿が、腫れと流血によって台無しになった頃、シーシャからとある情報を知らされる。
「ティナ隊長、敵の援軍11万がこちらに向かって来ているそうです」
全てが今になって分かった。
敵の意図の全てが。
共和国方面からも、帝国方面からも、ベルヘンへ向かって進軍する道を確保する気だったのだ。
大帝国相手に、これまた大胆な行動に出たものだ。
共和国方面に向かわせなかった軍隊は、大帝国の侵攻軍に備え、巨壁要塞から最も近い帝国の要塞である、
ジェメルド要塞の防衛に当たっていると思っていたが・・・否、恐らく防衛軍の一部を、それも足の速いのを
こちらに向かわせたのだろう。
情報伝達能力に長けているのは、我々大帝国だけではなかったと言うことか。
ティナの推測は当たっている。
だが、またしても遅かった。
敵の作戦が、我々よりも一枚上手だったのだ。
この危機的な状況を脱する方法を、ティナは模索していた。
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