第29話:帝国最精鋭 対 大帝国最精鋭 ~最強部隊の戦い~

帝国7王騎士直属精鋭部隊は、司令本部から一切動いていないことが確認された。

その数凡そ500名及び6体である。

敵は常に戦闘体制にあり、偵察に出していた斥候7名の内、帰還したのは2名のみ。

敵の数は分かったが、詳細な情報は未だに分かっていない。

そんな状況のせいで、王獣魔導隊は作戦の立案に難航していた。

帝国7王騎士には頭の切れる者が複数人いる。

特に、狂王騎士オスベル大将と冷王騎士ジール大将、そして軍王騎士シエル大将は、大帝国の参謀以上の

策略家だ。

ミラ、シーシャ、シェル、ティナの4名が連日作戦会議を行っているが、未だに作戦の方針が決定しない。

今までどれほど情報というモノに助けられてきたかを、皆が痛感した。

それにしても、帝国の7王騎士の部隊を恐ろしく強いようだ。

皆がここまで悩んでいる理由の一つに、相手の情報隠蔽能力と索敵能力がある。

それも、影殿とフィーナに自由に偵察させない程度の。


影殿とフィーナが少しの情報しか持って帰れなかった。


これは、帝国方面戦線大帝国上級将校を大いに驚かせた。

そして、なによりも大きな問題は、7王騎士の存在が確認出来ていないことだ。

帝国軍の駐屯地にも、前線の軍にも、何処にも見当たらない。

恐らくは、司令部の自らの直属部隊の指揮を執っている・・・と思いたい。

だが、確かな情報がない以上、彼らが何を狙っているのか分からない。

精鋭部隊を囮にし、巨壁要塞を一気に堕とす算段なのか、はたまた伏兵を潜めており、王獣魔導隊を挟撃する

つもりなのか、わざと情報の隠蔽だけに集中し、時間を稼いでいるのか。

相手の狙いも何もかも、全く分からない。

些か慎重過ぎる様にも思えるが、帝国7王騎士を相手した後に、帝国と共和国の連合軍を相手にしなければ

ならないことを考えると、仕方ないことだと言えるだろう。

・・・そうだ、時間はかけられない。

帝国方面戦線軍の一定数を共和国戦線に投入したとは言え、共和国方面戦線は地の利を生かした戦い方は

不可能だ。

時間を掛ければ掛ける程、勝機は逃げて行ってしまう。

ここは多少の損耗を覚悟で、空中機動戦の他ない。

それが、王獣魔導隊の出した答えだった。

巨壁要塞も簡単に堕ちることはないだろうし、挟撃されたとしても空中高速飛行で逃げ切れば

被害を最小に抑えることができるだろう。

それに、目標は敵の軍としての機能。

つまりは、7王騎士のみだ。

標的の優先順位は

1,全体指揮及び7王騎士騎士統括:戦争卿シエル大将

2,7王騎士で最も高い戦闘力を保有する、戦闘の申子:戦闘卿エミシャイル大将

3,狂人的思考の天才と称される王騎士:狂人公オスベル大将

4,7王騎士で最も魔力の扱いに長けている、精神異常者(多重人格者):魔人卿メフェリル大将

5,火炎魔法に関しては、ティナをも凌駕する天才:火炎公螺良大将

6,冷酷で完璧な人間と称される、王騎士:冷酷卿ジール大将

7,人形愛好家及び人形使い{ゴーレムマスター}:傀儡公ミーシェ特例大将

の順である。

だが、7番目のミーシェ特例大将はまだ14歳・・・できうる限り、殺傷は避けて欲しい。

と言うのが、ティナ、シェル、ミラの考えだった。

しかし此処は戦場、彼女が容赦なく襲って来る様だったら、殺すこともやむを得ない。


「と言うことで諸君。明日の日の出前に出陣し、高高度飛行魔法を行使して上空遥か彼方に待機し

 日の出と共に最大火力魔法を一斉掃射。その後高度を下げて空中機動魔法戦に移行する」


ティナの凛とした声に、皆が凛々しく

「はっ」

と答える。

ただ一人、前回の戦いで大将を死なせてしまったと自らを攻めている、シーシャ大佐を除いて。



翌日早朝、完全武装を施した王獣魔導隊が、密かに空高く舞い上がった。

王獣魔導隊の完全武装、それはつい先月完成させられた物だ。

大総統は言った。情報の次に大切なのは『技』であると。

大総統は、軍部に新たに 新技術研究・開発部 を設けていたのだ。

大帝国各所の名工を統括又は雇用し、新たな武具の開発を命じた。

無論、その為の資金援助は惜しんでいない。

結果、数ヵ月という短期間で、第一次魔導新武装開発に成功した。

まあ、量産体制ではなく、王獣魔導隊を強化する程度の量しか作れていないが、それでも鬼に金棒と

言えるだろう。

第二次魔導新武装開発の完了は来年の春だと思われる。

帝国の新武装を参考にしているため、今までと比べてより強力な武装を作れるだろう。

それはさて措き、遥か空の上に待機していた王獣魔導隊は、日の出を確認した。


「作戦行動開始」


ティナの掛け声と共に、皆が魔法の発動準備に掛かる。

第二小隊、撃て

第二小隊の魔法は戦略級殲滅魔法である。

地形をも変えるこの大魔法は、普段は使用を許可されていない。

だが、これをも耐えきったのが帝国、ティナは続けて第三小隊に魔法を撃つ様に命令した。

第三小隊の魔法は、戦術級殲滅魔法である。

戦略級よりは威力が落ちるものの、範囲を狭く絞れることから、重宝されている。

そしたら、砂埃が落ち着かない内に、第一小隊が吶喊(とっかん)を開始する。

無論、第三小隊の援護(バフ)を受けてだ。


「風爆」


と、聞こえた時には遅かった。

強い強風と共に、砂埃が晴れていた。

そして、そこには無傷の敵部隊と7王騎士の内、5王騎士が立っていた。

軍王騎士、戦王騎士、慈王騎士、残王騎士、幼王騎士だ。

いずれも文武両道の猛将であり、厄介な相手である。

敵の数は凡そ・・・300と6体、最初の魔法で倒した数は約200。

やはり、敵の最新鋭武装は、恐ろしい性能をしている様だ。

大総統が、情報の次に大切なのが技と言った理由が良くわかる。

戦略・戦術級殲滅魔法を生き残る少数部隊など、聞いたこともないが・・・実際相手は生きている。

何かを察したシェルとミラは、副隊長に部隊指揮を任せ地上部へ降り立った。

殺気、ではない。

何か、それ以上の何かだ。

5王騎士と、ティナ、シェル、ミラが放っているそれは、歴戦の猛将にしか出せない雰囲気(オーラ)。

敵精鋭部隊も、王獣魔導隊も、その雰囲気に飲み込まれない様に耐えるだけで精一杯だった。

そして、プツン、とその雰囲気が途切れたかと思うと、両者5名ずつ戦士が飛び出していた。

シエル大将、帝国一の騎士である。

魔力はほとんど持たないが、剣の腕前は大陸屈指・・・もしくは、大陸一と言っても過言ではないだろう。

そんな彼女に対するは、大帝国の切り札・・・大陸最強の魔導武装戦士、ティナである。

二人は瞬(またた)きすらせずに、ただ剣を振るう。

しかし、そこには一切の無駄がなく、研ぎ澄まされ、洗練された剣技のみがあった。


エミシャイル大将は、大陸一の魔力持ちと言っても過言ではないだろう。

ティナ以上に魔力を持っている彼女だが、魔力の性質は内、つまりは身体強化しか使えない。

だが、彼女は武術にも精通している。

力と技を併せ持った強力な存在だ。

それに対するは、アアメル。

エミシャイルよりも遥かに大きく、体格では勝っている。

無論、彼女も相当な魔力持ちだし、戦斧の扱いにも長けている。

ティナやシェル、ミラと言った存在によって、その真の実力が見誤られやすい王獣魔導隊の隊員達だが

その実力や知力は、大陸屈指なのである。

そんな、エミシャイルとアアメルの戦いは、シエルとティナとはまた別の凄さがあった。

単純に言えば、戦場に轟音が響き渡っているのだ。

ティナ以上の馬鹿力がいるとしたら、この二人以外にはありえないだろう。


メフェリル大将、魔人と称される魔法の使い手だ。

彼女に対するは、王獣魔導隊一の魔導師、シェルであった。

二人の戦いは、大規模魔法戦になるかと思われたが、そんなことはなかった。

威力が高く、発動時間が短く、次の魔法を行使しやすい魔法を、連続的に使う。

そして、二人がその場から動くことはない。

並列思考を多用し、同時魔法行使で攻防を一体化させる。

二人が使っている主な魔法は、魔法弾・・・軍属魔導師なら誰でも扱える様な魔法だが、威力が段違いであった。

魔法を極めれば、こんなことも出来てしまう。

二人の底知れない魔法技術に恐れ入ってしまう。


螺良(ララ)大将、炎の料理長と称される彼女は、火炎魔法が得意であった。

彼女の相手をするのは、ミラであった。

第三小隊で支援魔導師であるが故に、不利に思えるかもしれないが、以外とそうでもない。

支援魔法に近しい存在の魔法がある。

それが、水魔法である。

だが、ミラが支援魔法に特化しているのも事実。

完全に優位と言う訳ではないが、不利という訳でもない。


ミーシェ特例大将は、6体の特殊人形を扱い、戦いに参加している。

彼女の相手をするのは、アメリであった。

戦いは皆が予想するよりも、かなり地味なモノになっている。

なんせ、人形に重力魔力を掛け合い、操作権の取り合いを行うだけの戦いだからだ。

目に見えない戦いとは、正にこのことだろう。

その他の隊員達は、己の隊長の邪魔をさせまいと、互いに牽制しあっている。

この戦い、どの様に転ぶかは未だ分からない。

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