第28話:時は来た ~赤の獅子が戦場に舞い戻る~
大帝国首都ベルヘン総統官邸第1臨時会議室にティナは呼び出されていた。
この会議室には三名の最高位司令官が姿を見せている。
大帝国陸軍総帥:エディック・ランス・ロデリック陸軍元帥
大帝国海軍総帥:斎藤千登勢(サイトウチトセ)海軍元帥
大帝国魔導総帥:シェリル・ラージェル魔導元帥
の三名である。
最秘匿情報がティナ現役復帰当日に情報処理部に入って来たのだ。
恐らく、この情報は情勢を大きく変えることになるから・・・。
共和国方面戦線に・・・帝国軍33万が現れた。
誰も予想していなかった事態、大総統すら混乱しているとのことだ。
無論、反大帝国同盟という同盟を結んでいる以上・・・共和国方面戦線に帝国軍が現れても不思議ではないが
いよいよ、休戦協定から本格的な同盟に移行する国が出てきたということだろう。
開戦からそろそろ半年が経つ、もう少しで冬・・・攻勢を仕掛ける側が圧倒的に不利になる季節になる。
それに攻勢をやめれば我々に立て直す時間を与えてしまう。
相手が焦り出すには十分な条件が揃っている。
問題は、共和国と帝国が本格的な同盟を組んだという事実だ。
前回共和国が切り札を使った時と同様、他国同士が更なる同盟を結ぶ可能性が出てきた。
だからこそ、帝国は早急に大帝国首都ベルヘンを堕としたい・・・帝国軍が前線から全軍を退かせた理由はこれか。
それにしても・・・帝国は実に厄介なことをしてくれた。
帝国が前線に配備していたのは68万、共和国戦線に現れたのは33万、これで我々は残りの35万を警戒しなければならなくなったわけだ。
実に厄介だ。
「そこでティナ中将・・・非常に困難な任務な上、君は病み上がりだが、君達以外に適任者もいない。
君達の努力に我々も出来うる限り報いる。この任務、必ず遂行してくれ」
シェリル元帥は、ティナにそう言った。
お世辞やただの社交辞令などではなく・・・本心からの言葉だ。
超機動遊撃作戦、それがティナ達王獣魔導隊に与えられた最優先であり、最難関任務である。
最初に、帝国方面戦線の敵主戦力を一気に叩き、帝国精鋭軍の戦力を大きく削ぐ。
そしたら、残りの敵は他の8色8役聖騎士に任せて、王獣魔導隊は続けて共和国方面戦線に向かう。
目的は、帝国軍33万の無力化である。
無論、殲滅ではない。
現段階では、軍隊としての機能を停止させ、侵攻を食い止められたらそれでよい。
それ以上を望んでは、王獣魔導隊にも大きな被害が出てしまうだろう。
まだまだ終戦の兆しが見えないと言うのに、王獣魔導隊からあまり死者を出したくない。
彼女らは、大帝国最強の魔導師達なのだから。
そしてティナも、一軍人として・・・祖国を愛する軍人として、上官たちの切実な願いを叶えるために
「はっ」と力強く返事を返す。
ティナ・ベルフォス中将、ここに完全復活である。
帝国方面戦線巨壁要塞
「・・・お帰り」
ミラは泣いていた。
ティナの復帰を心から喜んでいるのだ。
他の王獣魔導隊の隊員達も心の底から喜んでいる。
皆が泣いている中、ティナとシェルだけは冷静でいた。
でも、この時間を大切にしたいという気持ちが勝ってしまい、皆が泣き止むまでティナとシェルは待っていた。
5分ほどすると、ミラや他の隊員達も泣き止み
ティナは新たな任務について話そうかと思ったが・・・その前に一言
「ただいま、皆」
と、照れくさそうに言った。
気を取り直して、王獣魔導隊の皆がティナの話に耳を傾ける。
ティナは大帝国3元帥から任された任務について、詳しく皆に話してきかせる。
帝国方面戦線の帝国軍主力の無力化と、共和国方面戦線帝国軍の遊撃・・・簡単な任務ではないが
王獣魔導隊ならば必ず成し遂げることが出来る。
まずは作戦会議と情報整理だ。
ミラは細部まで洩れなく、現状についてティナに説明した。
現在、私達は巨壁要塞と周辺地理を利用した遅滞戦闘に成功しています。
これまで敵は13度、巨壁要塞に攻勢を仕掛けて来ましたが、その度(たび)に何とか敵を退けてきました。
敵の被害は甚大です。
ですがそれは我々も同じことで、互いに6千名程の兵を失いました。
数的にはこちらが優勢ですが、未だに敵の7王騎士が誰一人として姿を見せていません。
ティナちゃん・・・隊長と同等、又はそれ以上の戦闘能力を持っているであろう、慈王騎士・戦王騎士
傀儡公の異名を持つ、人形使い{ゴーレムマスター}である幼王騎士の姿及び彼女の操る人形(ゴーレム)の姿も確認できておりません。
私的な考えなのですが・・・敵の目的は恐らく我々、大帝国の切り札だと思われます。
実際、どの部隊も7王騎士直属の超精鋭部隊は前線で確認できておりません。
我々が共和国方面戦線で行った、中央突破作戦又はそれに類する敵の中枢神経(しれいぶ)を狙い吶喊してくるのを待っているのでしょう。
私も今まで、何故帝国最強の者達が大人しくしているのか分かりませんでした。
しかし、情報処理部からもたらされた 『共和国方面戦線で帝国軍33万を確認』 という情報で敵の行動に
納得がいきました。
敵の目的はそもそも巨壁要塞ではなく、戦線の突破・・・つまり、首都ベルヘンだったのです。
それを実行するには、最強の部隊を用いるだろう、という誰でも考え付きそうな単純な考えに、我々は囚われていました。
切り札は囮、しかも最上の・・・。
その上、一度その囮を追いかければ何処までも逃げられるでしょう。
無論、こちらが退こうとすれば攻撃してきます。
我々を殲滅することなく、精神的な焦りと、肉体の疲労を誘って、疲弊しきった所を最強戦力で叩く。
かと言って、彼らを放置して共和国方面戦線に向かえば、巨壁要塞は恐らく陥落し、次は我々が
この要塞を多大な犠牲を払って奪還することになるでしょう。
それに我々は敵の残り35万の軍勢を警戒しなければなりません。
退かせたように思わせて、何処かに潜伏させていたり・・・最悪なのは、共和国以外とも同盟を
結ばれていた場合です。
何にせよ、35万と言う見えない敵を我々は警戒しなければならないのに、帝国最強の・・・大陸屈指の
戦闘部隊と戦い、勝利してから、優秀な敵国の軍隊33万を相手しないといけない。
状況は絶望的ですが、私達王獣魔導隊ならば必ずこの任務を遂行できます。
ティナちゃんと言ってしまう癖はまだまだ直りそうにないな。
それはいいとして・・・ミラの言っていることは恐らく的中している。
否、こんなにも国力に差があるのに、我々と肩を並べる程の軍隊を持っている帝国ならば、必ずそうだろう。
気が付くのが遅すぎた。
現段階で、良案を思いつくのは難しいだろう。
なんせ、もう手遅れなのだから。
帝国が行動を起こす前に何か手を打てていたら、こんなに不味い状況にはなっていなかっただろうが・・・。
我々は帝国を少々甘く見過ぎていたようだな。
まあいい、大総統から許可は得ている・・・我々の真の力を帝国の戦士達に見せつけてやろうではないか。
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