第24話:理由と戦況 ~報告書~

続いて私たちが緊急招集された理由についてだ。

セリナ少将と影殿の情報曰く、ある意味での大侵攻が開始されたらしい。

発端は共和国が防毒面(ガスマスク)隊を動かしたことにある。

反大帝国連合は、それぞれの国がこの大陸を統一することを目的としている。

しかし、大帝国という強大すぎる存在がある限り・・・それは不可能だ。

故に、同盟を結び大帝国を討つことにしたのだ。

だが、この同盟は同盟と呼ぶには些か団結力が低すぎる。

お互いに情報交換を行ったり、支援の物資や援軍の派遣も一切行わない。

同盟と言うよりは『5か国休戦協定』と言った方が正しいかもしれない。

故に彼らは、大帝国を滅ぼした後のことまで考えている。

急な宣戦布告・・・という強襲に近い形で、急に大帝国に侵攻してきたのも、戦力の消費を

抑えたかったからだろう。

故に、今まで自軍の切り札をどの国も使わなかった。

それは、大帝国以外にも他国の『目と耳』があるからだ。

それに、切り札を無駄に消費するのも避けたいだろうしな・・・。

だが・・・共和国軍首脳はそうは考えなかったらしい。

大帝国の、国土、資源、人的資源、地理と・・・その6割でも手中に収めれば、大陸を統一することも

可能だろう。

そう、首都をいち早く堕とし、戦後処理の場で、最も優位な地位を確立できれば、後に発生する

であろう『第二次大陸大戦』に勝利することが出来る。

その為ならば、多少の犠牲を出そうとも構わない。

共和国の行動を見た他の国は、遅れを取るまいと出し惜しみをやめ、自らの国の切り札を前線に

投入し始めた。

ある程度の『強力』な軍隊ならば、有利な立地に建てられた強力な要塞と、優秀な軍人隊で

抑えることが出来ていた。

だが・・・数を揃えられた上、切り札まで投入されれば、流石に情報及び工作戦で均衡を

維持していた戦線が崩壊してしまう。

各要塞に戦力の殆どを割いている大帝国は、最前線を突破されれば、首都まで颯爽と侵攻される

ことになる。

大帝国が敷いている戦線は・・・最初であり最後の戦線でもあるのだ。

まあ、ここまで説明されれば分かると思うが我々8色8役聖騎士が、それら各国の切り札に対応する。

だが問題は、対応しなければならない戦線は5か所、しかし戦闘部隊は3部隊のみしかないことだ。

この状況を打開する案を考えることと、敵の切り札についての情報を皆に伝えるのがこの会議の

意味である。

まあ、現状を整理してから作戦を立案する方がよいと言うことで、セリナ少将が事前にまとめていた

現状についての報告書を皆に配り、丁寧に説明を開始した。


では最初に、各戦線の状況についてです。

王国、連合国との戦線に大きな変化はございません。

帝国戦線では、遺憾ながらも劣勢を強いられている状況です。

民主平等国戦線では、敵側に魔導師師団がいない模様で、当初戦況は優位に進められるものだと我々も

考えていたのですが・・・敵歩兵の数が凄まじく、圧倒的劣勢を強いられています。

正確に言えば、敵軍は毎日のように支援物資と増援部隊を送ってきます。

工作隊と遊撃隊で妨害工作は行っていますが、戦況に大きな変化を与えたとの報告は未だにありません。

最後に共和国戦線ですが・・・ガルベル提督及び超重装粉砕突撃騎兵師団を失ったものの

ティナ提督率いる王獣魔導隊の活躍により、一時的ながら戦線に余裕を持たせることに成功しました。


「・・・状況は最悪と言う他あるまい。」


大総統のその一言に、皆が項垂れていた。

事実、2つの戦線が劣勢、もう2つは拮抗、残り1つだけが一時的ながらも優勢。

そんな状況な上、ここから敵の切り札が各戦線に投入される。

正に、最悪な状況だ。

大総統は自らの失言に気が付き、セリナ少将に報告を続けるように言った。


続いて、各戦線の戦力比及び物資の補給状況についてです。

大帝国:総勢200万

共和国:総勢120万

連合国:総勢160万

王国:総勢130万

帝国:総勢150万

民主平等国:250万以上(詳細不明)

各戦線の兵力差は

大帝国8万7千―22万4千共和国万(先の戦い直後の戦力比) 

大帝国46万―連合国70万

大帝国30万―王国45万

大帝国45万―帝国68万

大帝国65万―民主平等国145万(未だ増加中)

この様に・・・我々は大帝国は、数的劣勢を強いられています。

現在は、2倍以上の兵力差は民主平等国戦線以外ではありませんが・・・いつこの状況が変化するかは

分かりません。

我々は首都防衛の兵力以外は、全てを各戦線に投入しています。

新兵の育成を急いでいますが・・・最悪は、彼らに死を選んでもらうことになるかもしれません。

ですが幸い、敵には第二次大陸大戦という枷もあります・・・無暗矢鱈(むやみやたら)に兵力を消費する

こともないでしょう。

補給状況についてですが・・・共和国戦線に問題があったのをティナ提督らが解決してくださいました。

それ以外にこれと言った『補給の問題』はありません。


「・・・以上が、各戦線の戦力比及び補給状況です」


セリナ少将の報告を聞き終わった頃には、諸提督は皆考えに耽っていた。

セリナ少将は、その諸提督の様子を確認すると大総統に顔を向けた。

それに気が付いた大総統は、ゆっくりと頷いた。

恐らく、諸提督の様子を見て話を続けるか一旦止めるかの確認を大総統に行ったのだろう。

セリナ少将は、自分の手元に置いていた最も分厚い書類を、提督らに配った。

そこには『各国の切り札について』と書かれている。

そう、本題だ。



諸提督も名前なら聞いたことがあると思います。

防毒面(ガスマスク)旅団、王国近衛師団、自己像幻視(ドッペルゲンガー)隊、不民兵隊(別名:反社隊)

そして・・・帝国7王騎士。

では、それぞれの部隊の詳細を説明させて頂きます。

防毒面隊(ガスマスク)旅団は共和国最強の特殊専門工作部隊で(以下省略)。

王国近衛師団、王直属の近衛師団・・・その戦闘力は世界屈指です。

第八魔導武装白兵戦連隊以上の戦闘部隊と言っても過言ではありません。

特に、王国近衛師団団長ロメール・ハイス・バインス大将は『最強の巨人戦神』と言えるでしょう。

彼の身長は約2m50㎝で、たった一人で闘牛9頭を絞め殺す程の怪力。

それに加え・・・天性の勘と言う物を持っている様子。

実際、彼は情報も無しに敵の行動を予測したり、危険を察知して後退したりと・・・勘と言う物以外で

説明が付かない行動を取っていますが・・・そのどれもが、当たっているのです。

我々にとって、最も厄介な相手と言えるでしょう。

自己像幻視(ドッペルゲンガー)旅団、連合国所属の部隊です。

戦闘の天才:グリュー・リュー・ハイセン中将

軍略の天才:シリュー・リュー・ハイセン大将

の二名が率いる、機動遊撃戦部隊。

名前で分かるように、この部隊の主軸である二名は姉妹です。

シリュー大将が姉でグリュー中将が妹・・・全く関係ないように思えますが、この戦闘部隊の

最大の利点がここにあるのです。

味方ですらかの姉妹の判別がつかない程二人はそっくり・・・。

大帝国のとある将校が体験した話なのですが・・・自己像幻視(ドッペルゲンガー)旅団の本隊

シリュー大将率いる遠距離支援隊を叩いたと思ったら・・・グリュー中将率いる機動戦闘隊だった。

その将校の率いていた、第12騎兵連隊は瓦解・・・見事に敵にしてやられました。

そう、この部隊の得意とする戦闘は敵を混乱させ警戒させる戦いです。

シリュー大将の部隊だと思ったら、グリュー中将の・・・逆もまた然りです。

馬鹿げた話に聞こえるかもしれませんが・・・正に、かの二人の戦い方は幻術師の様です。

我々大帝国諜報部隊も・・・この二名の判別方法を未だに見つけられておりません。

火力で押し切ることも可能だと思われますが・・・軍略と戦闘の天才が張る蜘蛛の巣

例え、自己像幻視(ドッペルゲンガー)旅団を倒せたとしても、我々の被害は相当なものになると予想されます。

不民兵(反社)隊、民主平等国所属の部隊です。

重犯罪・・・大量殺人、反逆罪、横領罪、などの犯罪を起こし 『不民』 と判断された者達で

構成された、いわば捨て駒の犯罪者集団と言うべき存在だったのですが・・・。

功績を上げれば無罪放免、逃亡したり罪を再度犯せば即刻死罪。

逃げ出した者は皆、秘密警察に捕まる。

死を前にした犯罪者の、火事場の馬鹿力は凄まじく予想以上の損害を我々に与えています。

警戒レベルはこれらの部隊の中では最低値ですが無視するわけにも行かないでしょう。

最後に・・・警戒レベルを最大にすべき相手、帝国7王騎士です。

それぞれ

狂王騎士:狂人的思考の天才 狂人公 オスベル・ラ・デーラ・カイオシス大将

冷王騎士:冷酷で完璧人間  冷酷卿 ジール・メラ・スイーテン大将

戦王騎士:戦闘の申子    戦闘卿 エミシャイル・フォン・ライ大将

軍王騎士:軍神の神子    戦争卿 シエル・シィーシェ・シェイロン大将

慈王騎士:精神異常者    魔人卿 メフェリル・コ・ライト・エリュートン大将

残王騎士:炎の料理長    火炎公 螺良(ララ)・茨(シー)・史枝萎(シェイ)大将

幼王騎士:人形愛好家    傀儡公 ミーシェ・レイロン・アルバートン特例大将

それぞれ・・・人間離れした能力者、知者な上、彼らの率いる部隊は全てが超精鋭部隊。

帝国以外の全軍と戦うか、帝国7王騎士と戦うかと聞かれた時、私なら・・・帝国以外の全軍と答える

でしょう。

大帝国8色8役聖騎士が総出で戦わなければ、彼らには勝てない、これが私たち情報処理部が出した

結論です。

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