第20話:戦いの後 ~要塞の中で~

「ティナちゃん・・・その怪我」


ティナが離脱を開始している皆の下に戻ると、一番最初にミラが飛んできた。

ミラは、ティナの足と手から相当量の血が出ているのを見て、かなり心配している。

それに、飛行が安定していないし、意識も朦朧としているようだ。

シェルちゃんは部隊の指揮を執っていて、私も支援と防御魔法に集中しなければならないし・・・。

手の空いていて、信用できる人にティナちゃんの面倒を見て貰わないと・・・。

ミラは暫く考え込んだ後、ティナの側近であり・・・実力もかなり高いアアメルに頼むことにした。


「アアメル大佐、ティナちゃ・・・隊長のことを頼めますか」


アアメルは一旦攻撃を中止し、ミラとティナの下まで来ると、半分意識を失っているティナのことを

ミラから預かった。

一同は怪我人を庇いつつの撤退だったが、故に手を抜いた中途半端な牽制は許されなかった。

メリナ中将率いる超人兵隊精鋭隊の追撃がなくなったところから、攻撃を開始した。

無論、牽制の意味合いが強いが、敵に出来る限りの損害を出させないといけない。

自身の扱える強力な魔法を、皆が惜しみなく使ったおかげで、敵に甚大な損害を与えることに成功する

のだが・・・これは、後にティナが意識を取り戻してからにしよう。



重い・・・。

お腹の辺りにずっしりと重たい感覚がする。

ゆっくりと目を開けると・・・ミラ・・シェルの二人がもたれ掛かって来ていた。

そうか、私はビルスク大将の護衛と戦って・・・ぎりぎり勝てはしたが、結局は目的を

果たすことが出来ず撤退したんだったな。

私はきっと、二人に助けられたのだろう。

はぁ、後輩に助けられてしまう先輩とは、何と情けない。

だが今は、そんなことは問題ではない。

思った以上に二人の重さに耐えられなかった私は、二人を呼び起こした。


「二人とも」


私の苦しそうな声に気が付いたのか、二人はゆっくりと目を開けて、私の顔を覗き込んできた。

目を覚ました私を確認すると、ミラは泣きながら説教してくるし、シェルはそれを笑いながら見てくる。


「ティナちゃん、私たちがどれだけ心配したのか分かってるの」


子供の様に泣きながら説教してくるミラ・・・罪悪感がすごく湧いてくる。

心配をかけてしまって申し訳ない、と言いたいのだが・・・。

ミラの説教が凄まじく、私が口を挟む暇は一切なかった。

一体どれくらいか、体感的には1日くらい説教された様な気がするが、実際はどれほどでもないだろう。

長々と続くミラの説教は、シェルの一言によって止まった。


「ミラ~、ティナも疲れていることだろうし、説教はそのくらいにしてあげなさ~い」


シェルはそう言うと、私にウィンクをしてきた。

これは・・・貸し1つということだろう。

まあ、正直ミラの説教は本当に心身ともに疲れるから、助かったのだが。

シェルの一言に納得したのか、ミラは溜息を付きながら

「以後、気を付けてね」

と言って、説教は終了した。

だがまあ、二人に心配と迷惑を掛けたのは事実だ・・・謝罪の一つや二つは必要だろう。


「ああ、二人とも・・・迷惑を掛けて悪かったな」


私がそう言うと、ミラの説教がもう一度始まりそうになるが、またシェルが宥(なだ)めてくれたお陰で

もう一度ミラの説教を長々と受けることは回避できた。

だが、私の一言にシェルもケチをつけてきた。

迷惑じゃなくて、心配をかけて悪かったな・・・でしょ、と。

ああ、本当に二人には心配をかけてしまったな。

二人は、私の容態について軽く説明をしてくれた後に・・・食事と報告書を含めた、大量の書類を

持ってくると、部屋を出て行った。

それにしても・・・右足に大きな穴、左足の膝に大量の切り傷、拳の皮がずる剥けている、その上

拳と肋骨にヒビが入っているとは・・・。

それはさて置き、少しは気が休まると思ったのだが・・・。

次々に訪問者がやってくる。

王獣魔導隊の皆から、要塞各防衛隊隊長、駐屯軍隊長などなど・・・本当に、気が休まる暇がない。

仕方がないか・・・私は今、大帝国の希望というやつだからな。

・・・しかし、ガルベル提督が訪問者の中にいなかった。

同じく怪我で療養中ならばよいのだが・・・・・・まさかな・・・。

最悪の考えが頭を過るが・・・誰にも確認できていないこの状況で、決めつけるのは良くない。

ミラとシェルが帰ってきたら色々と話を聞くとしようか・・・。

ああ、少し眠たい・・・もう少しだけ、眠るとしよう。




「ティナちゃん」


ミラの声を聞いて、私はゆっくりと目を開けた。

ミラの手には美味しそうな食事・・・シェルの手には・・・・・・・・溜息を大いに付きたくなる程の

書類。

勿論、シェルより先にミラの持っている物を受け取るに決まっている。


「ありがとう」


私はそう言いながら、ミラから食事を受け取ろうとするが・・・ミラは私に食事を渡そうとしない。

また何かやってしまったかと考えるが、ミラの目線の先にその答えはあった。

手全体に巻かれた包帯・・・なるほど、私の手は皮がずる剝けている上、何か所か罅(ひび)が

入っている。

こんな状態では、まともに食事も出来ないな。

だからって・・・


「はい、ティナちゃん、あーん」


これはないだろう。

そう、今正に・・・私はミラから、あーんをされようとしている。

24歳が28歳にあーんて、流石にまずいのでは・・・。

だが、ミラに心配を掛けた手前・・・これ以上の我儘は許されない。

いや、これは我儘なのか・・・。

私がシェルの方を見ると、彼女は諦めろと言わんばかりに首を左右に振った。

・・・仕方がない、ここはミラに甘えて・・・あーんするしかないのか・・。

私は、目の前に差し出されたスプーンを口の中に入れる。


「どお、美味しい」


満面の笑みで問いかけてくるミラに、私は首を縦に振った。

地獄と言うべきか天国と言うべきか・・・どちらとも言えない時間が終わると、次は資料に目を

通さなければならないのだが・・・これも、私一人ではできないので、二人に手伝ってもらうこととなった。

本当に、情けない話だ。

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