第19話:司令部テント内2 ~壮絶な戦闘~

戦闘はかなり激しいものだった。

力と速さに物を言わせたティナの無茶苦茶な戦いは、ある意味、厄介だった。

ボンドークはいつの間にか、全ての魔力を足に集中させ、回避に専念していた。

フィースも影捕縛などで援護しようとしたのだが・・・捕縛したところで、ティナは力に物を言わせて

抜け出してしまう。

このままでは何時か、ティアの攻撃がボンドークに当たり・・・ボンドークはやられてしまうだろう。

そこで彼は、大きな賭けに出る。

ティナの一撃、彼はそれを自らの力のみで回避する。

足に魔力を集中させ、回避した後に手に魔力を回して反撃・・・出来るのが一番の理想だが

ティナ相手にそんな悠長なことはできない。

故に、足に集めていた魔力を手に戻し・・・経験と実力でティナの一撃を避け、打ち込む。

ボンドークは、大きく息を吸って吐いた後・・・意識をティナの一撃だけに集中する。

何かを察したティナは、大剣を大きく振り上げ・・・渾身の一撃の構えをする。

お互いに、一撃でも喰らえば大きなダメージを受ける。

だが・・・ティナには時間がないし、ボンドークにも余裕がない。

互いに、そろそろけりを付けるにはいい頃合いなのだ。

じりじりと、互いに少しずつ距離を縮める・・・そして、バッと同時に駆け出し、ボンドークは拳を

ティナは大剣を、相手に目掛けて振るう。

と思わせて、ボンドークはティナの一撃を紙一重で回避し、その横腹に全力の一撃を与える。

メキメキと、巨木が折れる時の様な音が出る。


「かはっ」


流石に鍛え抜かれたティナの身体とは言えど、超人兵隊2番手の最大の一撃を喰らえば、相当なダメージに

なる。

しかし、ティナも伊達に 『大帝国最強の部隊の1番手』 ではない。

浮かび上がり、軋む体を無理やり動かし反撃を開始する。

まずは、大剣から手を放しボンドークの頭をしっかりと捕まえる。

ボンドークは逃れようと必死で藻掻くが、ティナの馬鹿力で抑え込まれてしまう。

続いて、ティナはボンドークの頭を持ち上げ、思いっきり振り下ろして膝蹴りを食らわす。

特殊な製法で作られている頑丈な面とは言え、ティナの一撃に耐え得るほどの強度はなかった。

樹皮を凝縮して作った面、それなりに高い強度ではある・・・しかし、鉄程の強度ではないためか

粉々に砕けてしまった。

その破片は、ボンドークの顔とティナの膝に、幾つかの切り傷を付けた。

だが、ティナはそんなことは一切気にせず、意識がはっきりとしていないボンドークに追撃を掛ける。

拳を握りしめ、ボンドークに殴りかかった。


「加速」


初級魔法である 『加速』 その名の通り、加速を与える魔法だ。

ティナは自らの拳にそれを掛ける。

加速によって生み出される『速さ』とティナの馬鹿力から生み出される『重み』は、並の騎士なら

一撃で数メートル程吹っ飛ぶ。

ドスと、人間を殴ったとは到底思えない、鈍い音が響く。

だが・・・ボンドークは倒れない。

ティナは、何度も何度も何度も、拳に加速を施し・・・ボンドークを殴った。

自らの拳の皮が全て剝けようと、ボンドークの顔がボンドーク自身と自らの血で染まろうと

殴り、殴り、そして殴った。

そして、ボンドークに限界が来たのを見計らって・・・加速と強化を施し、全力でボンドークを

殴りつけた。

ボンドークは、最後の力を振り絞って回避を試みるが、足が痺れて一向に動かない。

・・・結果、顔にその一撃を喰らうことはなかったが、鳩尾(みぞおち)に直(もろ)に入れられてしまった。

ボンドークは数メートル後ろに吹き飛ばされることとなり・・・意識を失った。

と、同時に 


「魔法弾」


魔力の流れと声の方向を辿った時には既に遅かった。

右足に穴が開き、血が出てきている。

迂闊だった。

ティナは後悔した。

ボンドークと戦っていて、そちらに気が取られていたが、もう二人・・・この場には人間がいたのだ。

無論、ティナに攻撃を仕掛けたのはフィースだ。

ボンドークと距離が出来たことで、フィースに安全に魔法を使わせてしまう 隙 を作ってしまった。

ティナは即座に結界を張って、攻撃を防ぐが・・・彼らに攻撃することも出来なくなってしまった。

どうしようか迷っていると・・・ピーと、笛の音が聞こえてきた。

撤退、事前にシェルとミラと話し合って決めていた、撤退の合図だ。

だが・・・目の前には敵の司令官、ここでその命を討てば、そんなことを考えていると

ボンドークがゆっくりと立ち上がった。

全身ボロボロだが、その眼からは戦うという意思は消えていなかった。

ボンドークが立ち上がると同時にもう一度、ピーと笛の音が鳴る。

ティナは悔しそうに顔を歪めながらも、飛行魔法で本部テントの外に待機させていた馬まで戻り

本部テント周囲の結界陣を抜けると、馬を捨てて飛行魔法で既に離脱を開始していた、シェル、ミラ

アアメルらと合流、魔法を撃ち込みつつ、撤退を開始した。

それを、フィースとビルスク提督はただ唖然と見ていた。

しかし、ボンドークが倒れる音がし・・・すぐに駆け寄る。


「なんと・・・大佐、大丈夫か」


ビルスク提督の問いかけにも、ボンドークは答えなかった。

否、答えられなかった。

生きているのが不思議なくらいの酷い怪我である。

フィースはこの場をビルスク提督に任せ、衛生兵を呼びに行く。

今回の戦闘の損害は・・・両者とも相当なものであった。

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