第18話:司令部テント内 ~ボンドークとティナ~

が・・・フィースは兎も角、ビルスク提督がその場から動こうとしなかった。

曰く、兵隊達が命を張って前線で戦っているのに、私だけ安全な場所に逃げることは出来ない、とのこと。

頑固で融通の利かない人だが・・・そういった人格者であるビルスク提督は、将兵から信頼も厚い。

ボンドークもそういったことに、ある程度は理解がある。

誰にも気付かれないようにため息をついた。

まあ、ボンドークも思うところがあるのだろう。

ボンドークも今年で35歳、それで大佐である。

メリナは26歳で少将・・・ビルスク提督は42の時には中将だった。

ボンドークも能力的には普通に中将としてやっていける。

しかし、上官がとてつもなく優秀な上・・・防毒面(ガスマスク)隊という、相当な強敵(ライバル)達に

囲まれている。

・・・上官に文句があるわけでも、防毒面(ガスマスク)隊に文句があるわけでもない。

だが・・・・・・・・・人間である以上、思うところがないわけではない。

まあ、それでも軍人である以上、階級が上の者に文句を言う訳にもいかず・・・。

ボンドークがため息の一つや二つ付くのも仕方ないことと言えるだろう。

そうこうしている内に・・・ティナがテント内に切り込んできた。

魔導武装を施した、完全武装だ。

それに対してボンドークは素手で挑む。

ボンドークが素手で完全武装のティナに挑むのは、明確な理由がある。

超人兵隊・・・超人兵隊とは、所謂魔導師部隊とも言える。

しかし、魔法も使わず、魔導武装もしない・・・なのに魔導師と言われても訳が分からないだろう。

これが、ボンドークがメリナに素手で挑む要因の一つであるのだが・・・

超人兵隊の構成員が魔法も使わずに、異常な強さを持っているのは『魔力不全者』であるからだ。

魔力不全者とは、魔力を保有しておりながらその魔力を使用することが出来ない者のことだ。

しかし・・・魔力の恩恵が皆無なわけではない。

支援魔法に酷似しているのだが・・・身体強化の一種である。

魔力が体全体を循環し、それが肉体を強化する。

常に目に見えない魔導武装を行っているイメージだ。

その身体強化を利用して、重装備で戦闘を行う者もいるが・・・ボンドークの様に、素手で戦う者もいる。

それは、魔力操作の出来る者だからだ。

魔力操作を体内で行うことによって、身体強化の自由度を更に上げることが出来る。

例えば、魔力操作によって足に魔力を集中させると、空を高速で飛んでいる魔導師に追いつくことだって

出来てしまう。

故に・・・素手で戦う者は、魔力を手に集中させ戦う。

魔力の多い者ほど、強化の度合いは高くなり・・・ボンドークの様に相当量の魔力を保有している者が

手を強化すれば、鋼をも叩き折るのだ。

それに、体の一部という扱いやすさも利点の一つだし、点検や整備なども不要で、武器の携帯が許されない

場所でも問題ない。

ボンドークは武器を持つよりも、己の肉体を鍛え上げる方が良いと考え、現在の様な戦闘スタイルに

なっている。


「フィース閣下、ビルスク提督を頼みましたよ」


ボンドークはそう言った後、ティナに殴りかかる。

ティナは何かを察して、大剣でガードする。

案の定、並の戦士よりも力持ちなティナが後ろに吹き飛ばされた。

ティナもある程度の魔力を身体強化に使っているが・・・これほどまでに差が出るのには理由があった。

外向きと内向きの魔力・・・外魔力と内魔力と言うべきか、一般的な魔導師は外魔力である。

それに対して、魔力不全者は内魔力である。

内魔力と外魔力の特徴として、内魔力は『強化』に向いており、支援魔導師などは内魔力寄りの外魔力で

である。

外魔力は『放出』単純に言えば『攻撃』だ。

故に、外魔力と内魔力では強化の度合いが大きく異なるのだ。

完全な内魔力である魔力不全者は、近接戦に向いているという訳だ。

しかし、魔力不全者はさほど多くない上・・・存在が気付かれにくい。

魔力を持っている者の判断は『どんなものでもいいから魔法が使えるかどうか』である。

他人がその者に魔力があるかどうかを判断するのは困難だ。

それこそ、ティナやシェル、ミラといった大魔導師くらでないと不可能だ。

そもそも、情報戦でも魔法の行使でもティナは敗北しているわけだ。

それが、ボンドークがティナを押している理由だ。

だが、ティナも大帝国屈指の魔導武装白兵戦隊の者だっただけはある。

ボンドークの素早く、重い一撃に慣れ始め・・・反撃を開始し始めた。

しかし、この場にいるのはボンドークとティナだけではない。


「影捕縛」


微々たるものだが、魔力の流れを感じ取ったティナは思いっきり後ろに飛び退く。

それは・・・正しい判断だった。

自分の影から飛び出した黒い手の様な物、もし地面に居れば身動きを封じられていただろう。

ティナは魔力の流れを辿って、魔法を発動した者を見つけ出す。

まあ、言うまでもないがフィース少将だ。

フィース少将は大した魔法は使えないが、ある程度の魔法なら覚えている。

本来、接近戦を行っている味方の近くで魔法を行使するのは推奨されないのだが・・・軽い援護程度

なら問題ないだろう。

そもそも、フィース少将の行使した『影捕縛』は味方に影響を与えることがない。

なぜなら、影捕縛は対象者の影のみから発動するものだからだ。

2対1の不利な状況・・・ティナは、危険を承知でとある行動にでる。


「魔導武装、鎧・・・解除」


魔導武装、鎧解除・・・身に纏っている魔法の鎧を解除したのだ。

魔力不全者・・・しかも、内魔力がかなり強い者の一撃は、鎧の上からでも十分な威力を発揮する。

そんな攻撃を鎧なしに受ければ・・・骨、内臓ごと潰されてしまう。

しかし・・・身軽になったティナの動きは、正に神速の域であった。

巨大な大剣を軽々と振り回す。

竜巻の様な強い風が、その驚異的な身体能力を象徴している。

流石のボンドークも、冷や汗を掻いていた。

一撃でも・・・否、ほんの少しでも当たれば、吹き飛ばされるだろう。

ボンドークはため息を付きながら、手に集中させていた魔力を半分、足に回した。

ボンドークの使命は護衛だ。

時間さえ稼げば、閣下(メリナ)が駆けつけてくれるだろう。

そう・・・生き残りさえすれば、ボンドークたちの勝利だと言えるだろう。

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